角が有る者達

C・トベルト

第1話 Gチップと天才と能力者

2079年4月8日 キヨミズ公園


 桜の名所としても知られるキヨミズ公園は今年も大勢の花見客で賑わっていた。

 ほとんどの人達が桜の木の下で酒を呑み、歌い踊り花見を楽しんでいたが、

 『血染め桜』と呼ばれる桜の下では誰も行かなかった。


 血染め桜とは文字通り血のように赤い桜の事である。

 散り様も激しい雨のように一気に散るので、一度散ると下にいる者は一瞬で赤い花びらに呑まれてしまう。

 さらに不思議な事にこの桜を科学的に調べると桜の赤を構成しているのは人の血と同じ成分が含まれているからという事。

 これによって周囲の人々は血染め桜を気味悪がり、誰一人その桜の下で騒ごうとは思わなかった。


 だから彼等には分からなかった。

 この桜にどんな過去があったのか。

 この桜に関わる人達がどんな未来を見たか。

 この桜に関わる人達がどんな約束をこの桜の下で交わしたかを。

 これは人でありながら角を持つ者達の物語。






2069年


 人々はニ種類の存在に分かれていた。

 科学力、スポーツ、美術、経済。

ありとあらゆるジャンルで活躍し、世界の最先端を行く『天才』。

 そして不思議な力を手に入れ、適材適所で活躍する『能力者』の二種類の存在が人間を分けていた。

事の発端は2069年より更に60年前の2009年。

ゴルゾネス・トオル博士が開発したナノレベルのチップ『Gチップ』である。

 このチップが体内に入るとその人の細胞からDNAを調べその人のもっとも優れたDNAを発見し、長所を極限まで成長できるようサポートする。

 その結果が『才能』という形で現れ、天才が定期的に誕生するようになったのだ。

 これによって人類は数々の才能を短期間で発見、成長し、僅か十年で百年分の進歩するほどであった。

 しかし同時に能力者の存在も明るみに出る。

Gチップは人の長所の成長をサポートする役割を持っているが、それで伸ばすDNAが才能だけとは限らない。

 今まで誰も見つけた事のない遺伝子を成長させ、特異能力に目覚めてしまう、それが能力者だ。

彼等は人智を越えた力を使い、様々な場面で活躍するようになる。

 彼等は初めは新たな時代の訪れに胸をおどらせていた。

 だがここで一つ落とし穴があった。それは法律だ。 能力者を法律で縛る事が出来ないのだ。


 空を飛ぶ者、火を噴く者、人を操る者。

 様々な能力者が生まれ存在する世界では能力の使い方はその持ち主に任せる他ない。

 法律で人を縛る事が出来なくなってしまった。

 世界中の能力者が好き勝手に暴れ始める。  

 盗み、殺人、革命。戦争。

 世界の滅亡さえ容易く行える者まで現れ、それに対し天才は抗える力を持っていなかった。

 そして世界中の天才達は考えに考え、一つの結論に達した。

  能力者を出来るだけひとまとめにし、なるべくコントロールできやすいようにしよう。

ばらばらなら対処出来ない彼等も、固まれば自分達でルールを作りやすいし我々にとっても利用しやすい。


 こうして世界中の天才はその力で無人の人口島を作り上げ、その中に世界中の能力者を押し込めた。

 能力者は最初はそれを受け入れた。普通の人として生活したかったから、という理由が主だった。

だが能力者の一人、イシキは彼等に叫ぶ。


「我々を怪物扱いし、檻に閉じ込めるな!

我々は貴様等と同じ人間なんだ!

能力者諸君よ、差別を恐れるな!

天才の目を恐れるな!

この力は神から授かりし我等の個性!

お前達のしている事は、それを否定しているのだ!

立ち上がれ、能力者達よ!

我等は人となる為に、あえて鬼となろう!」


こうしてイシキは小鬼達『ゴブリンズ』という能力者の為の組織を立ち上げ、能力者軍として世界中の天才達に対し宣戦布告を宣言した。

それから50年の間に、何度も天才と能力者は戦争を行った。

 戦いの果てに能力者は勝利し、天才達が総力を上げて造った島を自分達の国ゴブリンズ島とし、ようやく世界中の天才と同等の立場に立つ事が出来た。


2068年12月。

ようやく天才と能力者は手を取りはじめ、能力者は島から出る事を許された。

二分された世界は一つになり、人類は漸く、胸を張って前へ進めると皆が信じていた。


2069年5月8日、午後11時59分。

  国の名前は日本。その都市部にある商社ビルのコントロールルーム内。

真っ暗な部屋の中で何かが話し合っていた。


「大丈夫か、スス」

「こっちはいつでもOKよ、アイ」

アイ「了解。ダンク、シティ、ルトー、報告を」

シティ「逃げ道の確保、OK」

ダンク「派手な演出、OK」

ルトー「ネットの宣伝、完璧」

アイ「了解。カウントダウンを始める。30、29」




 商社ビルの外側では大変な騒ぎになっていた。

 スーツを着た人から観光客まで皆が十階建てのビルを期待の眼差しで見つめている。

 そこから少し離れた所でリポーターがカメラに向かって話しかけている。

そして群衆の中には商社の社長とおぼしき人物が心配そうに見つめている。


「今、ついに30秒前になりました。

大勢の人が期待を込めてカウントダウンを始めています」

「25!」「24!」「23!」「22!」




「15秒、まだ見つからないのかノリ!」

「無理ですハサギさん、見つかりません!」


 ビルの中は警察がある人間を追っていた。 しかしその姿は見つかず何度も誰もいない部屋を開け閉めしていた。

  また別の階では機動隊が同様にドアを開け閉めしているが、やはり姿は見つからない。


ハサギ「あと10秒!」


「9」 ビルの外に突然電柱が現れる。

「8」 機動隊が扉を開け中を調べる。

「7」 屋上で一人の男が呪文を唱える。

「6」 ビルの下で野次馬達が叫ぶ。

「5」 ビルの外で一人少年がカメラを構える。

「4」 スーツ着た二人が廊下に出る。

「3」 リポーターが三本の指をカメラに見せる。

「2」 アイと呼ばれた男が一言呟いた。

「1」 「さあ、悪戯の時間だ」

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