3-3 たまには一人になりたい
「あれ、ひろ兄? もう帰ってきたの?」
帰ってきた自宅の玄関口、扉を開けた瞬間に、ちょうど外に出ようとしていた柚木と鉢合わせした。
「ああ。柚木は出かけるのか?」
「友達と遊びに行こうかな、って。ひろ兄、夜までいないと思ってたから」
「俺に気を使わなくても、自由に遊ぶといい」
「いや、気を使ってるわけじゃないけど。とりあえず、夜ごはんまでには戻ってくるね」
手を振り振り去っていった柚木を見送り、そのまま家へと入る。
「……なんだ、誰もいないのか」
リビングに入るも、出迎えの言葉の一つもない。部屋にまで足を運んでみるも、隣の部屋に友希がいる様子もなく、今のこの家にはどうやら俺一人しかいないらしい。
「と、なると、やる事は一つだな」
ここ数日、柚木が俺の部屋で寝起きしているため、俺の習慣である行為の一つを行う機会が完全に潰されてしまっている。別にやらなきゃ死ぬってわけでもないのだが、そこで柚木と寝ている事がまた問題になってくる可能性は否定できない。
「もうおわかりいただけただろう」
ここまでもったいつけたからには、どうにかして予想を裏切るだろうという予想を、しかし俺は裏切っていこうと思う。
かくして、俺は引き出しから妹の友達モノのエロ漫画を取り出すのであった。
「――ふぅ」
息を一つ吐いただけである。それ以上の意味はない。
「今の時間、必要だったか?」
短針が一回転するだけの時間を浪費した事を、しばし悔やむ。この虚脱感は何なのだろう。今なら飛べる気がする。ビルとかの屋上とかから。
「しかし、やっぱり妹の友達はいい。うん、友子ちゃん最高だ」
ここで今更ながら友子ちゃんについて説明しておくと、先程眺めていた本に出てくる妹の友達の名前だ。ちなみに、主人公は主雄、妹は妹子という名前である。
「さて、まだ誰も帰ってこないな……」
ここ数日、柚木が俺の部屋で寝起きしているため、俺の習慣である行為の一つを行う機会が完全に潰されてしまっている。別にやらなきゃ死ぬってわけでもないのだが、そこで柚木と寝ている事がまた問題になってくる可能性は否定できない。
「が、残念ながらPPが足りない」
二回戦に突入する選択肢は、しかし俺自身の元気のなさにより却下された。ちなみにPPとは、パワーポイントの略ではない。あえて何の略とは言わないが。
そうなると、頭に浮かぶのは、先程の先輩の家でのやりとりだ。
「結婚、ねぇ……」
先輩のお姉さん、ツッキーと結婚し、義妹となった先輩の友達と付き合う。先輩の考えた方法を実行すれば、理屈的には『義妹の友達と付き合う』事にはなるのだろう。
「うーん……」
とは言え、俺にしてみれば、やはりピンと来ないというのが本音だった。
まず『妹の友達』があり、それと付き合いたいのであって、さぁ妹ができた、では好きな子を妹の友達にしてやろう、というような手段は本末転倒ではないだろうか。
とは言え、手段を選べるような立場でない事も十分に理解しているため、そこは妥協するべきなのかもしれない、と思う自分もいる。
「でもなぁ……」
ただ、ツッキーと結婚した時点で、『義妹の友達』との恋愛は必然的に不倫になってしまうわけで。先輩が言うには、実際に結婚しなくても、事実婚のように結婚したつもりになれるだけでもいいのではないかとの事だが、仮にそう思い込めたとしても、やっぱり不倫しているつもりになる事は避けられない。そう全部が全部を都合良いようにだけ思い込めるほど、俺の頭は便利にはできていなかった。
「万華鏡さん、か」
月代先輩の姉、ツッキーこと万華鏡さんの事も気に掛かる。
結局、彼女によって振る舞われた昼食の味も申し分なく、一旦全て取っ払って考えれば結婚するには素晴らしい相手なのかもしれないが、そんな万華鏡さんがあんなに簡単に俺と結婚してくれるという理由も、今一つわからない。
「……ん」
寝転がって考え事をしていると、先の虚脱感も相まって徐々に意識が遠ざかっていくのを感じる。そして、それを引き止める理由も気力も今の俺には無かった。
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