第49話 告白

 翌朝になり、クダンが眼を覚ますと近くにネネの顔があった。

 どうやら、クダンの手当てをしたネネが布団の横でうたた寝をしてしまったようなのだ。


 驚いて起き上がろうとしたが、身体中が激しく痛み思うように動かない。

 パタパタともがいているうちにネネが眼を覚ました。


「クダンさん、眼を覚まされたのですね」

 ネネは、ホッとしたように微笑んだ。


「ネネさんが手当てをしてくれたのですか?」


「はい、クダンさんに救っていただいた命ですから、少しはお返ししませんと。本当にありがとうございます」


「いや、逆にネネさんにお世話をお掛けしました」

 クダンには珍しく少し照れた様子だ。


「コンコン、お邪魔でしたか」

 ミツキが、戸の隙間から目だけをのぞかして二人を見ていた。


「ミ、ミツキ様、いらっしゃったのですか」

「はい、少し前から。反応がなかったので戸を開けてみたのですが、なんだか入りづらくなりまして……」


「いえ、そんな事はありません、ミツキ様にもご心配をお掛けしました、もう大丈夫です」


「まだ、重症には違いないんだからクダンさんは、ゆっくり休んでいて下さいね、これは、お父様の伝言でもありますから」

 ミツキは、クダンに釘を刺した。放って置くとこの男は、すぐに働きだし兼ねないのだ。


「ネネさんは、準備が出来たらお父様の部屋まで来てもらえますか」


「はい、わかりました、今すぐにでも大丈夫ですよ、ミツキさん」

 ネネは、顔色も変えず返事をした。すべてを話す覚悟は出来ているのだ。


 ミツキとネネは、連れ立って小村丸の座敷に向かった。強張った表情のクダンを部屋に残したままで……


 小村丸の座敷に入るとイオリも既に来ていた。


「ネネさん、朝から悪いな、ミツキが連れて来たところを見るとクダンさんは、大丈夫そうだし、昨日言ってた話を聞かせて欲しいんだ」

 イオリが用件を手短に話した。


「ネネさんを責める訳では、無いのですから安心して下さい」

 イオリの言葉に小村丸が付け加えた。


「はい、わかりました、すべてをお話し致します」

 ネネは、少しずつ語り始めた。


 氷堂の所で、イオリにあった時、囚われた女達のフリをした事、占いの他に通信の為の術式をもっている事、その通信で影を手配した事、霊力研鑽会に関わっている事、妹が人質に取られている事……


 すべてを話すことで、おそらく、命を消される可能性がある事は、覚悟の上であった。


「ちょっと待って、ネネさんの妹さんは、霊力研鑽会に捕まっているの?」

 ミツキが、たまらず口を挟んだ。


「はい、おそらく今回の失敗で妹は、無事では済まないでしょう、それは私が犯してきた誤ちの報いだと思っています」

 ネネもまた、犠牲者の一人なのだった。


「ネネさん、それが本当の話だと証明できるものはありますか?」

 小村丸は、ひどく厳しい、言い方をした。


「お父様、そこまで言う事はないんじゃ……」

 ミツキは、小村丸の立場を理解してはいるのだが、思わず口に出てしまう。


「ミツキ、違うんだよ。先生は、助けに行くと言い出す人がいるから、その人のことを嘘で傷付けたくないんだよ」


「助けに行く人、もしかして私かな、それともイオリ?」

 ミツキは、不思議そうな顔をした。


「先生、失礼します、クダンです」


「入りなさい」


 先ほどからクダンは、廊下に控えていたようだ。フラフラと座敷に入って来た。


「先生、どうか、お願い致します」


「止めても無駄なようですね」

 小村丸は、ため息をついた。


「もう一度聞きます。ネネさん嘘は、ありませんね」


「はい」

 ネネは、はっきりと返事を返した。


「ネネさん、最後に聞きますが、あの方と呼ばれているのは一体誰なんですか?」

 小村丸は、兄オビトがそれにあたるものだと考えていた。


「はい、あの方とは、十霊仙の一人、武帝たけみかど様の事です」


 意外な人物の名に小村丸は、驚いた顔をした。


「あの武帝たけみかど様が、そんなことを……」


 ひたいに汗すら浮かべている小村丸の様子は事態が深刻である事を現していた。

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