第50話 転送

 クダンが、ネネの妹を助けようと言い出す事は、予想できた。しかし、問題は武帝たけみかどを相手にしなければならないという点なのだ。


 武帝は、十霊仙の中でも若く、小村丸の兄オビトとそう変わらない年齢であった。

 実際、他の十霊仙は、かなりの高齢で、もはや全盛期の霊力を維持してはいないだろう。だが今回の敵である" 武帝セツナ "は、今が全盛期なのだ。


「先生、今回の件で宮中が、絡んでいるとすれば武帝の影響があると考えられますか?」

 イオリは、小村丸先生に疑問を投げかけた。


「おそらく、そうでしょう。武帝は、元宮中の人間であり水無月師範の弟子でもあったのですから」


 " 水無月師範 "

 宮中の師範でありながら、怪しい動きを見せる人物。

 彼は、明らかに何かを隠していた。


「ネネ、妹さんはどこに捕まっているんだい、やっぱりメイデンなのかな」


「いえ、妹はイチジョウと言う街におります」


「「「「えっ!?」」」」

 小村丸含め全員が驚いた。


「どうされたのですか? 皆さん」

 ネネは、驚いて声を揃えた俺達に不思議そうな顔をした……。




 ◇◆◇◆


「さあ、準備は良いですか」

 ついにミツキの転送術が、炸裂する時がやってきたのだ。


「なあ、ミツキ大丈夫なのか?」

 イオリの故郷であるイチジョウに行った事があるのは、ミツキとクダンだったがクダンは、まだ回復途中である為、今回はミツキが転送術を使う事になったのだ。


「心配ないよ90%は、大丈夫だよ」

 10%で失敗した場合、いったいどうなるんだろうか?


 イオリの心配をよそにミツキは、転送陣を完成させた。


「おおおっ、ちゃんと出来たよー、あたし」


「おいっ、お前が驚いてどうするんだよ!」


 イチジョウには、イオリ、ミツキの他にクダン、ネネが行く事になったのだが皆の顔は一様に引きつっていた


「さあ、どうぞ!」


 皆は、慌てて目を伏せた……


 ミツキは、ジッとイオリを見た。目をそらすイオリ。さらにぐいと近づいてイオリを見るミツキ。


「よし! 誰から転送する?」

 イオリは、一応希望を募った。一応ね。


 ミツキは、まだジッと見ている……。


「皆んなには、申し訳無いけど俺が、一番先にぎせ……うっ」

 ミツキのボディブローがイオリのわき腹にクリーンヒットし、イオリは、そのまま転送陣に吸い込まれて行った。


「さあ次は、誰の番ですか?」

 ミツキは、指をポキポキ鳴らした。


「「「……………………。」」」



 イオリが転送陣を抜けるとぼんやりとしていた視界が少しずつハッキリとしてきた。


「きゃあああっ」

 眼の前にルリがいた……。

 そして竹刀でポカポカ殴られているイオリ。


「おいっ、ルリっ、落ち着け俺だよ」


「はっ! お、お兄様、ど、どうしてここに……。わ、わわわっ、ご、ごめんなさい」

 ルリは、慌てて竹刀を投げ捨てた。


「ミツキの奴、なんでここに転送を」

 ルリが落ち着いたところに遅れてミツキ達も転送されてきた。


「な、なんですか! これはいったい」

 ルリは、驚いて声をあげた。


 イオリの首筋に冷やりとした感触があった。


「えーっと、ユリネ……さん。これには、訳があるんですよ」

 いつの間にかユリネが、俺の喉元に剣を突きつけていた。


「イオリ様、少々悪ふざけが過ぎるようですね」

 ユリネは、殺気を隠しもしなかったのだ。


「俺、敵じゃないよね、お前取る気満々じゃん」


 ミツキが、事情を説明してようやくユリネは、剣を収めた。


「イオリ様、失礼しました。秘剣の使い手がいなくなれば、良いと考えてしまいました」


「ちょっとは、オブラートに包めよ、ユリネ。ストレートすぎるだろ」


「まあ、ルリ様に危害を加える者の排除が私の役目ですから」


「むしろ被害にあってるの全部俺なんだけど!」

 その様子を見てクダンとネネは、笑いを堪えているようだった。


「お兄様、お帰りなさい」


「ああ、元気にしてたかルリっ」

 イオリを見てルリは、嬉しそうに微笑んだ。


 おそらく厳しいであろう、これからの戦いの前に少し気を休める一同であった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る