第48話 味方

 影達は、分散する事も無く、目的の場所へ向かった。屋敷のおおよその造りは、伝えられているのだ。ましてや小村丸不在とあれば今回は、楽な仕事であった。


 影は、自在に舞う、闇は味方なのだ。

「奥の座敷は、こっちだ」

 リーダー格であろう影が、仲間を誘導していた。


 奥の座敷では、小村丸の門下生が妖刀の警備にあたっているはずだ。小村丸の門下生は、武闘派が多いと聞いている。ならば麻酔針で眠らせるのがスマートな方法だろう。影達は、吹矢を構えながらそっと近づいて行った。


 門下生のひとりが音もなく倒されたのをキッカケに警備にあたっていた者が次々と倒れていった。


「くくっ、やはり容易い、小村丸がいても問題なかったかもしれぬ」

 奥の扉を目の前にして影は、ほんの少し気を緩めた、その瞬間背後の影の悲鳴が聞こえた。


「なに!?」

 影のリーダー" ウツセミ "が驚いて振り返った先には、門下生筆頭のクダンの姿があった。クダンは棒術の使い手でもあり、門下生達に武術を仕込んでいるのも彼であったのだ。


「こんな夜更けにお客様を呼んだ覚えはないんですがね」

 クダンは、棒をくるくる回しながら、ウツセミにとぼけてみせた。


「くっ、少しは出来るようだな、だがこの人数相手にやれるかな」

 影は、ひとり倒れただけで、あと7人残っているのだ、クダンだけでしのげるとは思えない。


 4人の影がクダンに襲いかかり、ウツセミ達は、奥の座敷に飛び込んだ。


「なっ、どう言う事だ……」

 あかりの灯った座敷の中には、3人の姿があった。


「待ちくたびれたよ、本当に」

 イオリは、影に向かってつぶやいた。


「お前達は、メイデンに出掛けたはず……」

 ウツセミは、たじろいだ、そこにはイオリ、ミツキ、小村丸の姿があった。


「あたし達は、メイデンに行ってないよ、ここに移動しただけだよ」

 ミツキは、ニヤリと笑った。してやったりといったところだ。


「あなた方の望む物は、ここにはありません、諦めますか、それとも私達を倒して探してみますか」

 小村丸の言葉にウツセミは、激昂した。


「知れたことよ」

 影達は、一斉に麻酔針を放った。狭い空間では、避ける事は不可能だろう。


 しかし、麻酔針は小村丸達に届く事無く、すべて床に叩き落ちた。


「えーっ、マジかよー!」

 ウツセミは、素に戻って驚いた。


「ごめんね、あたしの結界なら防げちゃうんだよ」

 ミツキは、ぺろっと舌を出して笑った。


 その直後、影達に斬撃が飛んだ。イオリが霧風を放ったのだ。ウツセミは、とっさに仲間を盾がわりにしてただひとり斬撃を逃れた。


 そのまま、座敷から飛び出たウツセミは、今回の任務がどうして失敗したかを考えた。


「失敗したのは、俺達じゃない、あの女のせいだ。まんまとハメられた」

 ウツセミは、この始末を付けなければならない。


 まっすぐに向かった部屋の戸を開けるとそこには、占いの石を前にしたネネがいた。就寝前の白い着物一枚の姿は、まるで死装束のようだ。


「その様子だと失敗したようですね」

「貴様のせいでひどい目にあった、責任を取ってもらうぞ」

 ネネは、その事には答えず別の話を始めた。

「今、自分の事を占っていたんです。運命を変える出来事があると出ました。どうやら私は、ようやく解放されるのですね。もはや妹も恨みはしないでしょう」


「ふん、知ったことか」

 ウツセミは、イオリ達がやって来るまでに始末を付けようと剣を抜いて振り構えた。ネネは、目を閉じて思い返していた。

 この屋敷のお人好し達のことを……


「ごめんなさい、みなさん」

 ネネが小さくつぶやいた瞬間、ウツセミの剣が振り降ろされた。


 ドガッ!


 大きな音に驚いたネネは、目を開けて周囲を見た。壁に叩きつけられたウツセミが、ずり落ちて床に倒れた。ピクリとも動かず意識は無いようだ。


「どうやら、間に合ったようですね……」


「クダンさん! どうして……」

 激しい戦闘のおかげかクダンの衣服のところどころに傷があり血が滲んでいた。


「何か訳ありのようですね、ひとりくらい、貴女の味方がいてもバチは当たらんでしょう……」

 クダンは、そう言って床に倒れ込んだ。限界をすでに超えていたにも関わらず皆を欺いていた自分を救ってくれたのだ。

 ましてや味方だなんて……


 ネネの頬に涙が伝った、クダンの優しさが感情を溢れさせたのだ。


 イオリ達が、ネネの部屋にたどり着いた時、ネネは、クダンの頭を膝枕に乗せ優しく髪を撫でていた。

 影は、クダンが倒したのだろうか床に倒れていた。


「えーっと、これは、どう言う状況なのか? クダンさん生きてますよね、ネネさん」

 ミツキは、何から聞いたものか混乱している。


「はい、クダンさんの手当ては、私がやります。そして皆さんには、明日全てをお話し致しますので、どうかお許しを」

 ネネの言葉には、強い意志が感じられた。

 クダンを殺す気であれば、すぐにそうしていたに違いない。


「先生、どうしますか?」

 イオリが珍しく小村丸に意見を求めた。


「う〜ん、まあ、いいでしょう、クダンは、頑丈ですし」

 小村丸は、なぜか嬉しそうにしていた。


 クダンの手当てをネネに頼んだ後、イオリは、ウツセミの様子を見るために近づいた。


「先生、どうやらダメみたいです。泡を吹いているところをみると毒を呑んだかも知れません」


「おそらく不意打ちをくらって歯に仕込んだ毒を噛んでしまったのかもしれませんね」

 あくまで推測だが、ウツセミが自決する理由は、なかったはずた。ともかく明日、ネネの話を聞けば、手掛かりは掴めるはずだ。


 俺達は、ネネの部屋に結界を張り明日を待つ事にしたのだった。


 そしてネネから聞かされる事になる驚くべき事実についてこの時は、小村丸ですら気が付いていなかったのだ。

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