第22話 背徳
妖魔つきの討伐が成功し屋敷は勝利に湧き立っていた。
ひとりの犠牲も出さずに成し遂げた事でユリネの評価は高まっていた。
「今回の件は、全てクダン様のおかげです。わたしなど何の役にも立っておりません」と頑固に評価を受け入れようとはしなかった。
クダンにしても立場上は賛辞を受け入れてはいたがやはり謙遜気味だった。
しかし、二人の謙虚な態度がまたさらに評価を高める事にもなったのだった。
本来、最も評価されるべき人が別にいるというのに……
ユリネにはその事がとても歯痒かったのだ。
ユリネは、奥のルリの部屋に向かった。イオリの容態が気になっていたからだ。
中で何やら話声がしていた。今後の予定でも相談しているのだろう。イオリの声だった。
「それでミツキが団子を10本食べて動けなくなったんだよ、その後が大変で……」
ルリが涙を流して笑っており
ミツキは、何やらイオリに文句を言っていた。
まったく、こいつらは!
「何をやっているのですか!病人は、病人らしく大人しくして下さい」
「ルリ様もルリ様です」
「なんだユリネか、まあちょっとお前も聞いてくれよ、俺の旅の苦労話をさ……」
「どうせくだらない話でしょうね」
「くだらないかどうかは聞いてから言ってくれよ」
ユリネは、イオリの真剣な顔に気圧された。
半時間後、ユリネは笑い転げていた。
「そしたら小村丸先生が出てきて俺はてっきりおじゃるって感じだなと内心思ってたら小村丸でおじゃるときた訳だよ、そん時俺が笑いを堪えるのにどれだけ……」
並みいる猛者達にも恐れられカマイタチの異名を取るユリネがこんなに外聞もなく笑っている様子は屋敷の人間には想像もつかないだろうと思われた。
「失礼致します、クダンでございます。」
「クダン殿どうぞ」ユリネが答えた。
座敷の中に入ったクダンは、イオリに話しかけた。
「明日屋敷に向けて出発致します、イオリ殿は、いかがされますか」
「クダンさん、俺も一緒に戻りますよ、小村丸先生に聞きたいこともありますから、クダンさんのおかげで体調もすっかり良くなりましたし、ありがとうございます」
ルリは、寂しそうな顔をした。わかっては、いたのだが。
翌日の早朝、寝ぼけ顔のミツキを連れてイオリは、屋敷を出た。
ルリは、最後まで寂しそうに見送っていた。ユリネは、複雑そうな様子だった。
クダンとは後で落ち合う予定だ。
慌ただしい里帰りだったがすべてがうまくいって良かったとイオリは、正直思っていた。
おまけに懸念していた妖刀の回収もできたのは思わぬ収穫だった。
しかし、あと3本の妖刀の回収で今回のように勝てるとは限らない。
ミツキを危険に晒すことになるだろう
俺は、もっと強くならなければならない。あの時、ユリネに言ったことを心に刻んだのだった。
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