第21話 本能

 ハルマは妖刀使いだった。

 外見は、白髪で赤眼、イオリと違いツノは一本だった。


「ツノが多ければ強いと言う訳でも無いんだろうけどな」

 イオリは、独り言のようにつぶやいた。

 ハルマは、イオリに向けて2度目の斬撃を放った。それをイオリは剣でさばいて受け流した。


 妖刀使いでロイド化したのであれば元の意識があるはずだがハルマにはそれが感じられなかった。


 クダンやミツキを狙わない事や攻撃が余りに直線的すぎる点は、イオリにその疑問を抱かせるには充分な要因だった。


 イオリは、賭けに出た。


「ハルマっ、こっちだ」

 そう言ってイオリは、クダンから遠ざかるように走った。

 案の定、ハルマは、イオリを追いかけてきたのだ。


 またもハルマの斬撃が飛んで来た。まともに受ければ身体ごと飛ばされるだろうとイオリにはわかっていた。剣で斬撃を受け流した。


 ハルマは、かなり距離を詰めて来ていた。手にした妖刀からは赤黒い炎のようなものが揺らめいていた。


「鬼ごっこは、もう終わりかな……」

 イオリは、上段高く構えた。

 防御する気は、全く無いのだ。


 ユリネとミツキがやって来るのが見えた。せっかく離れたのにやれやれだ。


 ハルマは、本能のまま恐ろしい速度で切り込んで来た。

 瞬間、ユリネにはイオリの剣が消えたように見えた。いや、見えなかったと言うのが正しいのかもしれない。


 "秘剣 燕返し"


 イオリとハルマはすれ違い、イオリの左肩からは血が噴き出した。


 一方、ハルマの両腕に妖刀はすでに無かった。イオリによって切り落とされた腕ごと地面に転がっていたのだ。


 主人をなくした身体は、元の骸にかえり崩れ落ちた。


「ミツキっ、妖刀に封印を……クダンさんに……」俺の意識はそこで途切れた。


 目が覚めるとルリとミツキの心配そうな顔が見えた。ユリネの姿もあった。


 あの後、クダンによって白熊は消滅され妖刀も封印を施された。

 ユリネは、クダンが俺の止血をした後、秘密裏に屋敷のルリの部屋に運んでくれたようだった。


「心配かけてすまなかった、もう大丈夫そうだ」


 ルリとミツキは、泣きそうな顔で俺を見ていたが安心したのかしばらくして眠ってしまった。


「ユリネ」

「はい、なんでしょう」


「お前が見たアレは、ぬけがらだったんだ。どうやらアレは、ハルマの身体を借りた妖刀自身だったんだと思う」


「私には、まだ実感がありませんがこの目で見た事は紛れも無い現実なのでしょう、そして燕返しの事もわざと私にみせましたね」


「隠す理由もないだろう、アレしか方法無かったし」


「イオリ様にしては上出来でしたが」


「俺もお前もまだまだ強くならないとダメだな」


「ご心配無く、私は天才ですから」


「そうだったな、余計な心配だった」


「イオリ様」

「なんだ、ユリネ」

「ご無事で何よりです」


 そう言って目に涙をためたユリネをみて俺は驚いた。


「ありがとな、ユリネ」

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