第12話 不協
「ミツキさん、あまり兄さまにくっ付かないで下さい。」
「疲れたから引っ張って貰っているだけだよ。いいよねっ、イオリ」
ミツキは、俺の左腕に絡み付いていた。全く朝から騒がしい。
だったらと今度は、ルリが右腕に巻き付いて来た。
「わたしも何だか疲れてしまいました。ごめんなさい、兄さん」
おい、お前らユリネさんから殺気が漏れてるぞ!なぜかユリネは、剣に手を掛けていた。
俺は、慌てて二人を振りほどき、ちゃんと自分で歩くよう注意した。二人は不満そうな顔をして渋々歩き出した。
ユリネが剣から手を離したので"アオハネ"の餌食にならずに済んだようだ。
アオハネは、ユリネの剣の名で特殊な形状をしている。刀身は、通常より少し短く薄く軽く出来ておりツバに当たる部分には十手のようなL字型の金具が付いていた。
相手の剣を受け止めることよりも瞬時に敵を倒すことを優先したユリネにふさわしい剣だ。
「まあ、いいでしょう。」
突然ユリネが言ったのでルリとミツキは、キョトンとした顔をしていた。俺は、及第点をもらいホッとしたのだった。
あとは、この雑木林を抜ければ帝都の端っこにたどり着くはずだ。そこからまた宮中までは少し距離がある。
帝都は、かなり広い町なのだ。
俺は、この広い町を一瞬で消し去る霊界師のいることを思い出し少しゾッとした。
雑木林の中間に差し掛かり少し開けた場所に来た。
俺は、ユリネに目で合図をしてから周りを見廻し言った。
「そろそろ良いんじゃないか、出て来ても。」
ミツキは、意味が分からない様子だった。ルリは、さすがに気付いたようだが。
「さすがでござるな!気配は、消していたつもりでござるが」
声とともに3つの人影が現れた。
「悪いがお命ちょうだいするでござる。」と言って俺たちにクナイを投げつけて来た。
すでに剣を抜いていた俺とユリネは、クナイを弾くため身構えていたがそれらは途中の空間に弾かれ俺たちに届く事は無かった。
「結界でござる。」
ミツキが、言った。
俺は、ミツキがここまでやる事に驚いた。きっとヨシツネの件以来用意していたのだろう。
「やるな、お前。」
「たいした事ないでござる。」
ミツキは、嬉しそうに言った。
ござるはツッコんだ方がいいのか?
影は、予想外の出来事に戸惑っていた。
"女のふたり連れと聞いていたのでござるが……くそっ"
諦めた影は、剣で切り掛かって来た。
ユリネが、剣を構えた瞬間、3人の影は、地面に倒れていた。
高速の剣、ユリネがカマイタチの異名をとるゆえんである。
「さすがだな、お前」
「そこの小娘と同じ扱いはやめて下さい。手元が狂ってあなたを切ってしまうかも知れません。」
ユリネは、ブレ無かった。
俺は、息のあるひとりを捕まえて言った。
「俺の名はヨシツネ、どうして俺たちを狙った。」
俺は、ワザとヨシツネの名をかたった。
「ヨ、ヨシツネだと……」
やはり反応があった。
「お、お前たちを帝都に行かせる……訳にはいかない……ござ……」
そこまで言うと影は、倒れた。
どうやらヨシツネの仲間のようだが、狙ったのは俺とミツキでは無いらしい。
「ユリネ、心あたりはあるか?」
「わかりません。ただ……いえ、やっぱりわかりません。」
ユリネは、憶測でものを言うタイプでは無いのだ。
ただ俺の故郷も何かやっかいな事になっているらしい。
不穏な空気を感じながら俺たちは、やっと帝都に辿り着いたのだった。
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