第11話 因果

 ルリのお供の女性は、ユリネと言う名だ。師範クラスの剣の腕前に加えて体術もこなす天才肌の女だ。


 昔、父がユリネは女にしておくのは勿体無いと褒めたつもりで言ったのに対して

「失礼ながら、性別は関係ありません。強いか弱いかだけの問題です。私は、女であることに不満はありませんが。」

 とやり返し、笑いながら父が謝ったのを覚えている。


 そんなユリネと俺は、帝都への使いの件で、話をしている。


 ミツキとルリは、誰がどこの部屋で寝るかと言うような話で揉めているようなのでユリネとふたりで話が出来るのは都合が良かった。


「親父の要件でルリが、出て来るのはどう言う理由なんだ。」

「はい、長男が気ままな旅に出られた為、私の大切なルリ様にしわよせがまわって来たのだと思われます。」

 それ俺だよ。相変わらず手厳しいな、ユリネ!


「わ、わかったよ。それで要件は、何なんだ?」

「妖魔つきは、ご存知でしょうか?」

「ああ知ってるし戦ったこともある。」

「!?、イ、イオリ様は、あれと戦ったのですか!」

 いつも冷静なユリネが珍しく動揺していた。


「詳しくは、話せないが、倒すことは、出来ると思う。」

「この私ですら歯が立たない相手にボンクラ様が、どうやって…」オイ、心の声が漏れてるぞ!嫌いだろ俺のこと!

「さすがは、イオリ様ますます剣に磨きがかかったようで。」

 いや、説得力ないから。


「霊界師の要請か?」

「はい、ご推察の通りです。すでに領内では、妖魔つきの被害者も出ており、何らかの対策は火急を要するのです。」


「帝都の宮中に元いたコラムマルと言う先生に頼めば何とかなるだろうと聞いております。」

 コムラマルな。別に作家じゃないからあの人。


「わかった、一旦宮中に行って要件を済ませてから考えよう。何とかしてやれそうだ。」


「ありがとうございます。あんなに小さかったイオリ様が立派になられて…」

 2歳ぐらいしか違わないでしょう、あんたと俺!


 夕飯の後、俺はひとり湯船に浸かり明日には帝都にたどり着けそうだなと考えていた。

 風呂には、誰もおらずしばらく俺は貸切状態を楽しんでいたのだがどうやら誰か来たようだ。


 "ガラッ"と戸が開き女が入って来た。えっ、ここ男湯だよね。


 女は、バスタオルを巻いただけの姿で恐ろしく美しい顔立ちをしていた。長い黒髪が高貴な印象を引き立てていた。


 俺がア然としていると体に掛け湯をした女は、湯に浸かり俺のそばに来た。


「始めまして、イオリ様」


 女は、俺の名を言った。

「ど、どうして俺の名を……」

「あなたは、有名な方ですから」と女はクスクス笑った。


「お前は、一体何者なんだ。」

「まだ秘密ですがいずれわかります。私とあなたは、つながっているのですから…」

 思い当たる節が全くない。


「イオリ様と二人でお話しが出来ると思っていたのですがもう時間のようですね。」


「お、おいっ、待て!」

 女は、湯けむりの中に消えていったように見えた。


 入れ違いに他の男性客が入って来た。


 俺は、部屋に帰ってもさっきの

 女のことを考えていた。


 "あれは、まぼろしか。"


 考え疲れた俺は、いつの間にか眠ってしまった。


 そして次の朝、騒がしく現れたミツキとルリに起こされることになった。


 俺は、気持ちを切り替えるよう両手でパンとほっぺたを叩いた。

 いよいよ今日は、帝都に辿り着くのだから

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