第7話 元凶
小村丸先生は、俺たちを見て深々と頭を下げた。
「君達には、本当に申し訳ない事をしました。」
「先生は、知っていたんですか?ヨシツネがあやしいって」
「正直確信は、ありませんでした。自分の門下生が過ちを犯すなんて信じたくは、ないですからね。」
小村丸は、連れてきた他の門下生ふたりに取り押さえられているヨシツネをチラリと見て言った。
「小村丸先生、あたしは気にしてませんから。」ミツキは、ワザと明るい口調で言った。
俺は、いろいろ言いたいこともあったのだがミツキがいいなら構わないですよと先生に伝えた。
「ヨシツネのやってしまった事は、決して許される事ではありません。何人もの仲間の命を犠牲にしてしまったのですから、然るべき処分は、避けられないでしょう。」
「どうしてこんなに犠牲者が出る前に先生は、結界の張り直しを止めなかったんですか?」
俺は、一番疑問に思っていた事を聞いてみた。
「止めたんですよ。何度も」
でも仲間の仇討ちに行くのだと破門覚悟で向かった者たちがこのような結末を迎えてしまったのだと先生は、やりきれなさそうに言った。
「ぐわあぁーっ」突然のうめき声に俺たちは、振り返った。
ヨシツネは、クナイを手に構えて立っていた。取り押さえていたはずの門下生ふたりは、腕と首から血を流しうずくまっていた。
「忍者の家系は、ウソではなかったのでござるよ。イオリ殿」
ヨシツネは、ニヤリと笑った。
"ござるもほんとだったのか……"
それいま大事なのかミツキ!
どうやら小村丸の術式が解けるのを待って関節を外して縄を抜けたらしい。
小村丸は、"結束"の術式を再び唱えようと構えたその時だった。墓石代わりに置いてあった石が、光の線で結ばれ陣を形作った。墓だと思っていた石は、術式として配置されたものだったのだ。
ヨシツネは、素早くその陣に飛び込み光とともに姿を消した。
「くそっ、逃げられちまった。」
忍者は、なんでもアリだな。
門下生の手当てをした後、俺たちは、再び小村丸先生の屋敷に向かうことになった。
先生が大事な話があるので屋敷に来て欲しいと言ったからだ。
ついでに今日は、うちに泊まって行きなさいとも先生は言った。
屋敷に到着した頃には、辺りはすっかり暗くなっていた。帰りを心配した門下生が、外で待っており先生を出迎えた。
小村丸は、怪我をした者の手当と食事の用意を頼み俺たちは一緒に屋敷の中に入ったのだった。
早目の夕食を食べた後、先生の部屋に俺とミツキは呼ばれた。
食事を先にしてくれたのは、ミツキへの配慮だと思った。
「大事な話とは、なんですか。」俺は、きっとヨシツネの件に違いないと思って嫌な予感がしていたが実際は、もっと悪い話だった。
「実は、蝋人ロイドの事なのですが……いや、これを話すには妖刀"オサヒメ"の事を先に話さなければならないでしょう。」
俺は、この妖刀の名がオサヒメだとこの時初めて知った。
「小村丸先生は、なぜこの刀の事をご存知なのですか?」
おそらくミツキも同じことを思ったのだろう俺の質問に頷いていた。
「私は、当時宮中におり雑賀師範とともに霊界師として仕えておりました。霊界師は、当時から流派の枠を超えて様々な術式を取り込むことを許されており怪我や病気の治療ができるのもそういう気風があった為なのです。特に守りに強くご存知のように見えない壁を作ったり封印を施したりする事に秀でた力を持っています。そういった経緯もあり、妖刀"オサヒメ"も封印される為に宮中に持ち込まれた物なのです。」
「先生は、あの事件があった時、もしかして宮中にいたんですか!」ミツキは、驚いたようにいった。もしそうだとすればこの小村丸セイシロウという人は、自分とそう変わらぬ年齢で帝の霊界師をしていた事になるのだから。
先生は、頷いて言った。
「私は、その時の5人の生き残りのひとりで元凶となったロイドは、私の兄なのです……」
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