第8話 天賦
「幼い頃から私は、天才と言われ続けて来ました。勿論その自覚もありました。私は、天才だったのです。」
ムカッとくるようなドヤ話だがここまでハッキリ言われるとむしろ清々しい。
「代々続く霊界師の家系であった兄と私は、当然のごとくその道に進むことになったのです。
最年少で霊界師となった私は、面白い様に術式を修得していきました。
その頃、日々の修行を基に書いたのが名著"霊界師入門"なのです。」
いや、名著いらないでしょう。
「すごい!先生は、あたしと変わらない歳でこの名著"霊界師入門"を書かれたんですね。」
名著いらないだろ!
「雑賀師範には、この本をほめて頂いた事を今でも覚えています。ミツキさん、あなたのおじいさんは、とてもすごい人だったのですよ。」
ミツキは、お礼を言って少し照れたような顔をした。
「カステラを均等に切り分けたり、凍っている水道を出るようにしたり、簡単に針に糸を通す術式を編み出したのもみんな雑賀師範なのです。」
馬鹿にしてないよね!先生ジイさんの事を馬鹿にしてないよね!
「あっ、あたしそれ知ってます。先生の本の第一章 『はじめに』のところに書いてありました。」
書いてあるんかい!しかもそこから始まるの霊界師って!
「そして、蝋人の封印術式を編み出したのも雑賀師範なのです。」
いきなり術のハードルが跳ねあがった。
「天才と持ち上げられて来た私が天狗にならなかったのは、ひとえに師範の存在があったから
に違いありません。目の前でふたつに破られた紙幣が、元通りになる術式を見せられた時の私の感動は、言葉に出来ない物でした。」
ハードルは、急降下した。
「わたしも見せてもらった事があります。おじいちゃんが酒を飲んだ時とか」
ただの宴会芸だ。
俺は、小気味よくツッコミながらもさっきから気になっていたことを聞いてみる事にした。
「大変失礼な言い方になるかもしれませんが……その、先生のお兄さんは弟に対する劣等感から道を誤ったなんて事はないのでしょうか。」
「ふむ、それはないですね。」
「どうしてそれがわかるのですか。」
「兄とは、少し歳が離れているのですが私が宮中の霊界師になった時、兄はすでに十霊仙のひとりに名を連ねていたのですから。」
「十霊仙 ⁉︎」
「霊仙とは、霊界師に限らず特に霊力の高い者の総称でその中でも上位ランキング10位以内の者は、十霊仙と呼ばれるのです。」
あるんだランキング。
「例えば兄が、カステラを切れば紙の様に薄く切れ、凍りついた水道は、破裂する程水がほとばしり、針にロープを通す事も出来るのです。」
例え、分かりづらいし全部失敗だよ、ソレ!
「言い方を変えましょう。兄がその気になれば、宮中のある帝都をスッポリ結界で覆う事が出来るのです。勿論その結界を空間ごと閉じる事も可能なのです。」
「そ、それって、町をひとつ消し去る事が出来るって事ですか⁉︎」ミツキが言った。
「現に私は、農地を作る為に兄が山をひとつ消し去ったのを見た事があるのです。」
これヤバイよ。さすがのミツキさんも黙り混んじゃったよ。
てか、おじいさんよく封印出来たな。
「先生、なぜお兄さんはそれ程の力がありながら妖刀にこだわったんでしょうか?」
「これは、予想でしか無いのですがおそらく……不老不死の力を手に入れたかったのだと思います。」
「不老不死!?」
ミツキは、驚いて俺の顔を見た。だがそこには、もっと驚いた俺の顔があったのだ。
俺は、妖刀と交わした"約束"を
思い出したのだった……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます