第3話 結界
俺が、眠りについてからどれ位時間が経ったのだろうか、何か嫌な気配がして突然目が覚めたのだ。
「グルッ、グルルル」「なんだ?」
外で、獣の声がする。慌てて俺は、窓から外を見た。
「なっ‼︎」
月あかりに照らされた白く巨大な獣が
そこにいた。そいつは、イノシシの姿をしていたがはるかに巨大で赤く目を光らせ今にもこの家に突進しようとしていた。う、うそだろ。
「ジイさん、ミツキ!」俺は、叫んだ。ヤバイよ、これ詰んだんじゃね?
俺は、ミツキのえり首をつかんでゆさぶった。「……ぱい……ない。」ミツキは、寝ぼけながらも何かをつぶやいた。「なんだミツキ何て言ったんだ。」わらにも、すがる思いとは、この事だ。ミツキは、今度は聞き取れるようつぶやいた。
「おなか……いっぱい。もう食べれない。」ぎやーぁ、役にたたねえ!
本当にわらだった。ら抜き言葉だし
「イナリ殿、どうしたのじゃ。」
"ジジイが、起きた。"
俺の名前が、神様が祀られている様なありがたい事になっているが、今はそれどころではない。
「大変だ!外に妖魔つきがいる。かなりでかい奴だ。早くここから逃げないと!」
"心配ない"
いつの間にか目覚めていたミツキが、言った。
「結界が、貼ってある。いや、張ってある?」なんで疑問形なんだよっ⁉︎
結界ってシールみたいなものなのか!
俺は、ツッコミながらジイさんの方を見た。
「すうっー、はっ」
寝てたよね、今寝てたよね。
ガゴン‼︎ 突然外からしてはいけない音が聞こえてきた。俺は、覚悟を決めて長剣を手に窓に近づいたのだが、そこで見た外の光景に驚いた。
「結界だ。」
ドヤ顔でミツキが言った。
獣イノシシは、家の壁に何度も突進するのだが、壁の手前1mほどの所で見えない何かに阻まれてそれ以上進めない様子だった。
「イオリが、インチキジジイ呼ばわりしたおじいちゃんが張った結界だ。」
言ってねえよ、少なくとも声に出しては。てか、いつの間にか呼び捨てな。
「馬鹿な事を言うな。初めて見た時から御仁は、只者ではないと思っていたぞ。」結界にすっかり安心した俺は、堂々と反論した。
「ところで鍛冶屋であるあなたが、なぜ結界を張ることが出来るのだろう。」俺は、素朴な疑問を口にした。
「話は、長くなるのじゃが……」
「短めで願います。」
「昔、宮中で習ったのじゃ。」
短っ!
「と言うか元々、ワシは、霊界師じゃから」
俺は、もう何を信じていいものやら分からなくなった。
やがて妖魔つきのイノシシは、諦めたのか外からの音は、しなくなった。
結界の効果を認めざるを得ないだろう。
ジイさんの結界は、札に呪文をしたためた霊札を使いこれを対象に貼る事によって効力を発揮するそうだ。
目的によって呪文は違い、例えば押売りなんかには、"猛犬に注意!"みたいな事らしい。
ひと息ついた俺たちは、妖魔つきがいなくなったのを確認する為に窓から外を見廻した。
林の向こうに白い塊が、帰っていく様子が見えたのでようやく安心出来ると思った瞬間だった。
イノシシは、胴体を貫かれその場にバッタリと倒れた。
あまりの展開に俺だけでなく2人も驚いて一瞬声を失った。
「どう言うことなの?」とミツキがようやく切り出した。
妖魔つきの体は、硬く普通の剣では傷を付けるだけでも難しい様なのだ。
イノシシの妖魔つきを瞬殺したであろうものの正体は、月あかりに照らしだされその姿を晒した。
「あ、あれはロイドじゃないか。」
ジイさんがうわずった声で叫んだ。
白い人の形をしたそれは、ゆっくりとこちらに向かって歩いて来ていた。
紅く目を光らせながら…
「ろ、ろいどってなんだよ。」
俺は、動揺するジイさんにたずねた。
「ロイドは、"蝋人"といい、 ロウソクの様に白い人間の妖魔つきのことじゃ。儂も過去に一度見た事があるだけなんだよ。」
ロイドは、ゆっくりとだが確実に近づいていた。どうするアイツは、ヤバイ。
「正直結界は、保つか分からない。」
ジイさんは、こわばった顔をして言った。アイツの妖力のようなものがわかるのだろう。
「あたしに考えがある。」
「「 ⁉︎ 」」
ミツキの言葉に俺とジイさんが顔を見合わせた。
「これは、きっと夢なんだ。だからみんなまた布団に入って……」ミツキが、伝説の最終奥義の名を口にする前に俺とジイさんは、シカトする事にした。
「おじいさん、いや雑賀殿アイツをやっつける方法は何かないのだろうか?」
「あるよ。」ミツキだった。
「おい、夢オチなら却下だぞ!もう時間がないんだ。」
ミツキは、家の柱の一つを指差した。
そこには…何もなかった。
だがジイさんは、慌てて言った。
「ミツキそれは、ダメじゃ。危険すぎる。もし失敗したらタダでは、済まないんじゃぞ。」
「ジイさんどう言う事なんだ。何か策があるのか。」
「……。」
「おい、どうなんだよ!」
「妖刀じゃ、異国では悪魔のつるぎと呼ばれておる。妖魔を切れるのは、妖刀だけなのじゃ。」
「何だって!じゃあそれを使えばアイツを倒せるのか。」
「あるいは、可能じゃろう。しかし妖刀は、人を喰らう。妖刀に認められず失敗すればロイドのようになるかもしれん。うまく言ったとしても何かを失う事になるのじゃ。」
アイツが、近くまで来ている事がかき分ける草の音で分かった。
「迷っている時間は、無いんだ。その剣は、俺が使う。」
「柱の封印を解く事は、できん!以前、儂が宮中におった時、妖刀に興味を持ち取り込まれた者が、おった。その者は、失敗したのじゃ。」
「そいつは、どうなったんだ。」
俺は、恐る恐る聞き返した。
「ロイドになった。」
「!?」
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