第2話 出会
人は、何かを成し遂げる為に何かを犠牲にしなければならない時がある。
その選択により、無惨な結末を迎えようとしても……
「こんにちは、ちょっと聞きたいんだけど、この辺りに武器屋はあるかな」
俺は、小さな宿場町の通りにあるアメ屋の"おそらく"店主だと思われる人に尋ねた。手持ちの剣は、ボロボロになり近くの町で調達する必要があった為だ。
「あんた旅の方かね?だったらここオオミカサには、小さいながらも良い鍛冶屋が何件かあるんだよ。そこで探し物を聞いてみてはどうだい。武器屋もあるにはあるがなんせ見ての通り平和な町だ。武器よりも鎌やクワなんかの農具を並べているような店なんだよ。」
「なるほど、でも一応寄って行きたいので場所を教えてもらっていいかい。」店主から武器屋の場所を教わり礼を言って、ついでにアメ玉を10個程買い俺は、その場を離れた。
「あった。この店だよな?」5分くらい歩いた所にその店は、あった。
こじんまりした佇まいの店構えに看板が掛かっており「雑賀武具店」とある。
「ざ、ざっか武具店か?」と呟くやいなや突然後頭部に衝撃を受けた。
「うっ!いてっ!」
「どこが"ざっか"だ。さいがだろ、さ・い・がっ」
痛みをおさえつつ声の主を見るとそこには、10代前半だろう少女が、不機嫌そうな様子で立っていた。
「いってーな。何すんだよ、おまえ」
「歴史あるうちの店の名をけなした件、反省してもらおうか。」
殴るほどの事かよ。しかもそれ大根じゃん。どうやら俺は、少女の持つ大根で頭を強打されたようだ。驚いた事に大根は、折れてもいない。
「ウチの畑で採れた大根だ。当然気合いが入っているからな。」
「さてもう一発おみまいしようか。」そう言って少女は、大根を振り構えた。
「わ、わかった。わるかったよっ」
まったく食べ物を粗末にするんじゃないよと思いながら、俺は、当初の目的を思い出した。
「おい大根娘、この店にっ……」「!?」
" 殴られた。"
「あたしの名前は、ミツキ。野菜になった覚えは無い!」と体を震わせながら怒ったご様子だ。
よく見るとミツキは、細っそりとした小柄な体型をしており肩ほどの黒髪が風になびいていた。
薄めのからしの着物が良く似合っておりキリリとした整った顔立ちをしていた。なんだか猫みたいだな。
「すまない、ミツキ。お兄ちゃんが悪かったよ。」と俺は、態度を下方修整した。
これが、大人の対応というものだ。
「で、ウチに何の用だい。見た所、鎌が欲しいようには、見えないけど。」
「実は、今使っている剣がダメになってしまったんで新しいものを探しているのじゃよ。」
「なんで長老みたいな話し方になった!?」
俺は、ミツキの後に付いて店の中に入って行った。"雑貨屋だった。"
店内には、農具を中心に書籍や筆などの文房具類果ては食品なども並んでいた。これは、ざっか屋とからかわれるよな。さっきの過剰な反応もそのせいだと納得しながら俺は、ミツキに問いかけた。
「なあ肝心の剣が見当たらないのだが。」俺の期待値は、店内を見廻す度にグングン下降している。俺、さっき要件伝えたよね...
「剣ならある。……そこに」
俺は、ミツキの指差す方に振り向いた。
「って、大根じゃん。これ大根だよねっ!?」そこには、先ほどの大根ソードが並んでいた。売り物かよー
「100円!」
「値段聞いてねーから」
「冗談だ。」とミツキは、いたずらそうに笑った。
そして血圧マックスであろう、俺を店のバックヤードに連れて行った。幾つかの樽が置いてあり刀剣が無造作に差し込まれていた。これ本来は、店内に置く方じゃないのと思ったのだが余計な事は、言わないと今さっき学習したばかりだ。
「これが今のウチの在庫だ。」ミツキは、面白くもないような顔で言った。
俺は、その中の一振を手に取ってサヤから抜いた。
「う~ん、雑な扱いの割には良い剣だなぁ。だけど~」
俺は、何本かを引っこ抜いて感触を試して見たのだがどうもしっくり来ない。
「なあ、ミツキもっと長い剣は、ないかなぁ。」ふっ、と笑いながらミツキは、こう言った。
「あんたにそんな長い剣が振れるのかい。それとも洗濯物を干すのに使うのかい。女に後ろから不意打ちをくらうような男が、まったく贅沢もいいところだ。」
「まあそう言うなよ。使い慣れた剣に近い物が欲しいだろ。」俺は、背中にしょった剣をポンと叩いた。
刃渡り1m以上はある長剣だ。作りは、和刀に近くサヤに収まっている。誰にでも使いこなせるような代物ではない事は、素人でもわかる。
「しょうがないねえ。知り合いの鍛冶屋の所に案内してあげるよ。でも、あんたの事を気に入った訳じゃないんだからねっ。」
「ありがとうっ、ツンデレ」
"殴られた。" グーで
「やれやれ、今日はめんどう事の多い日だよ。ウチの畑は、妖魔つきに荒らされるしさ・・・」
「妖魔!?」
ミツキの話によるとここ最近妖魔つきの被害が増えてきたようなのだ。妖魔に、取り憑かれた獣が畑を荒らしたり家畜を襲ったり場合によっては、人に攻撃を仕掛けたりして怪我を負わせるような事があったようだ。
妖魔に取り憑かれた獣は、目が血の色のように紅く体毛が真っ白に変わり凶暴性が増すようなのだ。
「平和そうな町なんだけどなぁ。」
「そうだね、まだ町中に入り込んで来る事は無いみたいだよ。」
そんなことを話ながら町から離れた鍛冶屋の所に向かっているのだが、「しかし、店は放ったらかしで良かったのか。」俺は、心配になりミツキにたずねた。
「結界を張って来た!」
「なに!?」
「我家に代々伝わる霊札を店の戸に貼って来たのだ。心配無い。」
ミツキは、もしかしたら霊界師か呪術師の家系の末裔なんだろうか?
だったら先程の不意打ちも納得がいくぞ。改めてミツキを見ると何処と無く気品と風格を感じるような…
「"準備中"と書いた霊札をな。」
「………。」って、ば、馬鹿にしてんのかあぁぁぁっ!それ絶対裏に"営業中"って書いてあるやつじゃん。
俺は、ミツキにぷんすか文句を言っていると
「何を怒っているんだ。霊札は、私のおじいさんが、作ったものだよ。実際に札を貼っているうちは、誰かが入って来た様子も無いし。効果は、確認済みだ。」
でしょうね。マジ、天然なのかこいつ!?だったらジジイに騙されているぞミツキ!
30分ほど歩いただろうか、「ここだよ」とミツキが言った。
「おじいちゃん、お客さんだよ。」
鍛冶屋って霊札のジジイかよっ!
「おお、ミッちゃんか。お客さんとな」
「こちらの剣士さんが、探しものがあるようなんだけど…だね。」
ミツキは、ニコリと微笑んだ。
笑うと可愛いお嬢さんなんだけどなぁ。
「旅の方かね、随分ひどい道中だったようだね。人を見れば疑えみたいな顔をしておるよ。」
多分そうだとすればあなたのせいなんですが…。
「実は、新しい剣を探しておりまして武器屋を訪ねたのですがあいにく思った長さのものが無くて……」
「ほう、長剣を使いなさるのかな。取り回しの悪い長剣は、今ではあまり使う人がいなくなってしまったようだが。」鍛冶屋の老人は、そう言うと納屋から一振りの剣を取り出して来た。
ミツキは、随分おとなしくしているなと思っていたらフイゴの火でサツマイモを焼いていた。そういえば、お腹がすいてきたな。いやすげーすいてきた。
「ウチでは、これが一番長い剣になるが、どうじゃ?」鍛冶屋の老人はグイと剣を差し出した。
「ダメだ!」
「ふむ、気に入らなかったようじゃな。」
「焼き過ぎて焦げて来ているぞ!」
「へっ!?」ミツキは、ビクッとしてこちらを振り返った。俺は、はっとして「あっ、い、いえダメなのは、剣の話では無く俺の腹のようでした。」
老人は、カカッと笑いミツキに言った。「どれ飯にしようかの」
日も暮れかかった頃、俺たち3人は、囲炉裏を囲みながら晩飯を食べていた。
その間老人から色々な話を聞いた。老人の名は、雑賀ゲンシンといいその昔は、宮中の鍛冶師をしていた事もあったそうだ。ミツキの母親は、ミツキを産んですぐ亡くなり、父親は、去年大怪我をしてそれがもとでなくなったとのことだった。残った店をミツキが継いで今のざっか屋になったそうなのだ。
「あたしは、あんまり武器が好きじゃ無いんだよ。」とミツキは、言った。
「ところでお前さんの名は、なんというのかね。」老人は、俺に尋ねた。
「名は、イオリ。剣術修行の身だ。」
「良い名じゃな。イオリ殿、先程の剣試してみるかな。じゃが今日は、もう遅い。明日で良いかな。」
鍛冶屋に停めてもらう事になった俺は、すすめられるまま風呂に向かった。
途中で、ミツキに一緒に入ろうと誘ったら当然のようにケリを入れられたのだが、風呂に入りさっぱりした俺は、すぐにぐっすりと寝てしまった。ひどく疲れていたのだろう。
だってその時俺は、まだ人間だったのだから……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます