第8話G63AMG6×6
お屋敷に到着し、取り急ぎ南にコピーを1つ渡した。
残された2つを持ったまま来た道を戻り、黒澤と真由と合流すべく走らせる。
黒澤と真由は大使館に戻って来た。
守衛はチェックもせず敬礼し通してくれた。
ガレージに向かう。
ガレージが見える距離に近付くとシャッターが開いて中から先程の男が現れる。
…『お帰りなさいませ。私のCBRどうでしたか?』
黒澤『やっぱり日本のバイクは乗りやすいですね。私的には素直過ぎて遊び心に欠けますけど(笑)』
…『誰が乗っても安全かつ快適に速いってのは大事な事なんですけど、外国人の私が日本車推しで、日本人の貴方が外車推しってのも面白いもんですね(笑)』
初めて笑顔を見せてくれた。
黒澤『ですがデートで二人乗りするなら日本車がいいですね。振動も少なく静かですしパワーもありますし♪』
…『そうですか(笑)』
黒澤『ありがとうございました。鍵お返しします。』
…『南様よりご連絡頂きました。お連れの方が1人こちらに向かわれたそうです。思った以上の成果があったようです。』
真由『良かったぁ!』
黒澤『ではこちらも負けていられませんね。』
真由『ですね。』
…『お時間あるようでしたら、少しお部屋でお休みになられてはいかがですか?』
黒澤『ありがとうございます。そうさて頂きます。』
ビモータのタンクバックとGT-Rの助手席の荷物、トランクにあった物からも何点か選んで運び出す。
案内された部屋には軽食が置かれて居た。
…『簡単に召し上がって頂ける物を勝手に用意させて頂きました。この部屋は監視カメラ等もついておりませんので、時間が許す限りごゆっくりなさって下さい。私はガレージに併設してあるバーにおります。今夜は先に祝勝会しておりますので(笑)』
黒澤『ありがとうございます。』
真由『一休みしたらお伺い致します。』
彼は一礼して立ち去った。
黒澤『食べ過ぎない程度に少しお腹に入れておこう。食べながら武器の使い方説明する。』
まずはHK416を取り出す。
一通り手順や構え方、銃床を当てる場所等細かい説明をする。黒澤『古いモデルを色々と改良したモデルなんですが、女性には反動が大きいので支えきれないかも知れません。まぁだいたい5~6秒でこのマガジンを撃ち尽くせます。持ってきた全ての弾をとにかく地面を撃って威嚇して下さい。射ち尽くしたらそのまま物陰に銃を隠して、次のクリスヴェクターを取って堂々とエレベーターを使って降りて下さい。一階に着くまでに敵は真由さんの所に届きません。こちらの銃はいわゆるサブマシンガンで反動を殺す機能があります。比較的扱いやすいはずなんで、敵に対して狙わず腰の位置に構えたまま横にスライドしながら射ち尽くして下さい。ゴム弾射ち尽くしたら実弾装填します。恐らくこれだけやれば車等を盾に使い始めると思います。近付いて来る標的だけ狙って撃ってみて下さい。
実は反動は抑えてますが、飛び出す弾は結構な威力があります。車のドア位簡単に穴が開きます。敵の車の後輪の少し上位適当に撃てばガソリンタンクに引火します。1台でも発火したらその場から離れて結構です。たぶん私の方もだいたい片付いてますから。この全行程をだいたい5分で行いたいと思います。』
真由『合図は?』
黒澤『真由さんが屋上に着いてセットしたらインカムで教えて下さい。私はバイクを正面玄関に停めます。診察受付時間終わって正面玄関にバイクで来るなんて、いかにも怪しすぎますからね。健康な人じゃなきゃバイク乗りませんし、家族とかの迎えであったとしてもバイクなんてそうそうあり得ない。間違いなく彼等の興味が集中するはずです。そこで難癖つけて揉め事起こします。人が集まるでしょう。上から見てれば解るでしょうが、スーツ姿でイヤホンしてて病院に用事がある人は99%敵です。頃合いみてインカムで合図します。ゴム弾なら当てても構いませんので、どんどんバラ蒔いて下さい。』
真由『解りました。』
黒澤『真由さんに注意がそれたら私が病室目指して1人ずつ倒します。全て終えたらまた連絡しますので病院に来て下さい。』
真由『…相手にも怪我をさせない方法って無いのでしょうか?』
黒澤『今回の作戦は私達の本気度と戦力を示し、本丸を誘き寄せる誘導作戦も兼ねてます。悪いとは思いますが、彼等に同情してあげられる余裕が持てるほど私達に力はありません。』
真由『やっぱり私は甘かったようです。本当は全て話し合いで解決出来たらとどこかでまだ期待度してます…。』
黒澤『私達は勿論、敵も誰1人死ぬ事無く終わらせますので。』
真由『はい。』
黒澤『それじゃぁ少し仮眠しましょう。眠れなくても横になって体を休めて下さい。』
真由『解りました。…隣で寝てもいいでしょうか?』
黒澤『いいですけど、襲わないで下さいね(笑)』
真由『今は我慢しておきます(笑)』
黒澤『おいで。』
腕枕で抱き合いながら横になってなった。
真由『玲子達はどうなりましたかね。』
黒澤『明も一緒だし何気にいいコンビにも見えたし問題無いでしょう(笑)素手での一対一の戦いに限定するなら、彼等に勝てる一般人は国内にはそうそう居ないと思いますよ。』
真由『菅野組で外国人雇ってたりしたら?それに向こうだけ一対一のルールが存在するとも思いませんし。』
黒澤『向こうは作戦上、特に戦う必要はありません。陽動で撹乱するのが目的です。玲子さんが地元に来てるって噂が耳に入れば接触しようとするはずです。万が一敵に見付かったとしても、それを片っぱしから明が潰してくれれば次々注意を惹き付けてくれるでしょ?その間は菅野組はこっちとあっちに人員分散する必要が出ます。本来の目的地はこってなんで、こっち側に来てる戦力削れれば半分成功です。もしも計画通りに行かない場合は賢一がサポートしてくれますよ。あいつもこっちに向かってるみたいだし。』
真由『…。』
黒澤『私達が派手にスマートに終えられれば、明と玲子さんの向こうでの作戦は終了します。』
真由『私達次第って事ですね。』
黒澤『そうです。軟禁状態にある会長を解放し、退院させられる状況ならば百点。退院が無理なら賢一を警護に残して本丸であるお父上にそのまま会いに行きましょう。』
真由『今日明日には全て終わりますね…。』
黒澤『そうなる予定です。』
真由『終わったらバイクの運転教えて下さい。約束ですから。』
黒澤『えぇ。ツーリング行きましょう(笑)』
真由『絶対ですよ。』
黒澤『でも真由さんがその時間取れるとしたら、ずーっと先でしょうね。これが上手く行ったらおそらくは社長になります。その若さと美貌で社長就任。世間は放っておきません。仕事もかなり忙しくなる事でしょうし
。』
真由『そんな事になるなら社長辞退して玲子にやらせます!』
黒澤『あんなむちゃくちゃする人に任せたらすぐ倒産しますよ(笑)さぁ目を閉じて。少しでもいいので眠りましょう。』
そっと額にキスをした。
真由『はい。』
やがて真由の呼吸が静かになり、寝息が聞こえ始めた。
【疲れてたんだな。ホントに眠れるなんて。…彼女達とはきっとこれでお別れだ。ひょっとしたらいつかどこかで会えるかも知れないけど、忙しくなればいずれそんな事もわすれるかも知れない。…私もサラリーマンか何かになって有希に会いに行こう。その時は孫も居たりするのかな?真由さんも玲子さんも子供産んでたりして。賢一は独り身っぽいけど、明は結婚してたのかな?そういえばあの幼なじみの女の子は可愛かったな。たぶん奴等好きだったんだろうな。告白したのかな?…………走馬灯フラグじゃねーよな?変な事考えるの止めよ】
…スマホのアラームが鳴った。時間だ。
【結局一睡も出来なかった】
黒澤『真由さん。起きて。出発しますよ。』
真由『…どこ?…あっ!おはようございます。』
黒澤『おはよ。さぁ行きますよ。』
二人で装備の確認。
部屋を出てガレージに向かう。バーの中の彼はガラス越しにニコニコしながら手をあげた。
私達も手を上げ挨拶し、HK416とクリスヴェクターを助手席に置いた。シャッターが開く。
外はまだ明るい。
ビモータもGT-Rも外交官ナンバーが張り付けられていた。
エンジンをかける。
青白い排気ガス…甲高い排気音がガレージ内で響く。
GT-Rにもエンジンがかかる。
一瞬水蒸気混じりの白い排気ガス。すぐに無色に変わる。太目の重低音。
ぶっちゃけこのハーモニーは耳障りな不協和音だ。だが帰る時はこの咆哮も勝ちどきと感じられるだろうか…。
ゆっくりスタートする。
真由[無事帰って皆で乾杯しましょう]
黒澤[そうですね。美味しいお酒飲みましょう♪]
ガレージを出てゲートをに向かう。門は閉じられており、近付くと守衛が気付き開けてくれた。敬礼する姿には笑顔が添えられて居た。
私も手をあげて答える。
夕方の帰宅ラッシュに紛れ、他車の流れに乗って病院へ向かう。
ロケーション確認したビルの屋上に向かう。ピッキングツールを取り出し開錠。下を見るとそれらしい車が下見の時より増えている。
スーツ姿の見張り役が玄関付近に4名。見上げると最上階の窓にも下を見張る者が居る。
自分のスマホを取り出し電源を入れた。
ラインで吉田から連絡が、メールで有希からも連絡があった。
吉田からは《先日のおっぱいの大きな女性は菅野の娘らしい。菅野の息子ってか、おっぱい姉ちゃんのお兄さんが組員だけじゃなく、変な連中まで使ってまで探してる。気を付けた方がいいかもねぇ~》
【何か文面楽しそうに見える】
有希からは《お父さん何やらかしたの?警察のヤバい人達がお父さん探してるっぽいよ。連絡して!》
【…電源切っとこ(汗)】
電源を切り真由に向き直る。
黒澤『少しだけ段取りに変更が出ました。第一射は最上階のあの窓を狙って割って下さい。そのあとはすぐこちらの貯水槽の陰で身を隠すようにして下を。射ち尽くしたら下に降りて、あの車のガソリンタンクを。それからは当初の段取り通りで。』
連絡用のスマホを取り出し前川に連絡する。
《作戦実行する。銃の回収も頼みたい。ポイントはここ。》
現在地を送信。
返信を待たずに行動開始。
黒澤『それじゃ行ってきます。』
真由『了解です。』
坂下明はミリタリーベストに収納していた装備品をチェックしていた。
時計を見る。
玲子はクローゼットに付いてる鏡を見ながら、何度も衣装を時分に当ては放り、拾っては当てを繰り返し居た。
玲子『これにするか♪』
手に取ったのは真っ赤な足首丈のフレアジャージードレス。履き物はなぜか黒いミリタリーブーツ。髪を夜会巻きに纏め、元々派手目な顔立ちにパールの入ったピンクのグロスをひく。
怪我をしてる腕のテーピングにはプラチナで華美な細工が施されたアームジュエリーが巻かれて固定されている。
キャメルのワンショルダーのボディバッグを肩に下げ坂下に合流。
玲子『どう?』
坂下『かなぁりいい女って感じです。…ですが、防弾ベストを中に着て欲しいので、それを踏まえてのコーディネートをやり直して下さい。』
玲子『えぇ~~!』
頬を膨らませて口を尖らせながらも素直に着替えに戻る。
坂下『ったく、昨夜のうちに決めといてくれたら良かったのに。』
坂下は車に荷物を積み込む。
G63AMG6×6。ゲレンデバーゲンのダブルキャブトラックのような車だ。ただタイヤが6本付いている。
南コレクションの中では装甲車として位置付けられた改造が施されてるいる。天災や有事の際の緊急用で南が今までこれに乗って出掛けたのを見たことが無かった。
今回は命の恩人が命懸けで守ろうとしてる女性を警護する。気持ちとしては戦車で異動したい程だが、公道を移動するには速度に不安がある。それ以前に南のコレクションには戦車は無い。あったとしても運行許可を取ってる暇もない。申請しても許可がおりるとも思えない。って事での妥協点だ。
玲子『面倒だからこれでいいや♪』
先程の格好で上にライダースジャケットを羽織ってきた。
坂下『似合いますね。それでOKならそのジャケット脱いで、こちらの着て下さい。』
坂下はバイクが並ぶ場所にある棚のロッカーからライダースジャケットを取り出した。
坂下『南様のジャケットですが、こちらは防弾機能がありますのでベスト着るよりいいでしょう。』
玲子『南の爺ちゃんの?…加齢臭大丈夫?(笑)』
坂下『その都度クリーニングも除菌もしてありますので絶対に大丈夫です。』
玲子『冗談よ(笑)』
袖を通してみる。
玲子『あっぴったし♪』
そのままロッカーの小さな鏡に向かって化粧直しを始めた。
1人車に戻り荷物運びを続けた。
スマホが震えた。受信する。
坂下『お疲れ様です。』
黒澤『メシ食ってたら賢一に抜かれた。そっちは?』
坂下『玲子さんの支度待ちでまだ出れません。…あっ来ました。これから出発出来ます。』玲子が電話に気付き走ってきた。
坂下からスマホを半ば強引に取り上げた。
玲子『黒澤ぁ?』
黒澤『あぁ。』
玲子『真由の事頼んだよ。絶対二人で無事に帰って来なきゃダメだからね。』
黒澤『もちろん。玲子さんもそれ以上怪我すると嫁の貰い手に支障来すから気を付けなよ。』
玲子『黒澤が要らないっつったら坂下に責任取って貰うよ(笑)』
会話が変な展開に反れたので慌てて取り上げる。
坂下『ちょっと返して下さい!』
黒澤『だそうだから、くれぐれも玲子さんの事宜しくお願いする。』
坂下『ちゃんと無傷でお返ししますから!』
玲子『坂下ぁ!どーゆー意味だぁ?』
玲子が坂下に組み付こうとするが片手で抑え近付けない。
黒澤『もうかなりコンビとして仕上がってるな(笑)嫁にやるのは諦めたから、無事に真由さんの元に帰してあげてくれ。』
坂下『もちろんです。ちゃんと真由さんと指導員の元へ。』
黒澤『お前も無茶しすぎるなよ。じゃぁな。』
坂下『押忍。失礼します。』
スマホを切って玲子に向き治す。
坂下『それで、玲子さんの荷物はそれだけですか?』
玲子『足りなくなったら向こうで買うからいいゎ。』
坂下『そうですが、陽動とはいえ可能なら生身は晒さず目立ちたいですね。私達の動きがお義父様やお義兄様の目や耳に入ればいいだけですから。そしてなかなか私達に辿り着けない。業を煮やした彼等は私達の捜索に人数を割く。それでも捕まらないとなると、人探しのプロである奥の手の出番があるかも知れない。警察の中に潜むクズ達の。』
玲子『義父や義兄と呼ばないで。菅野組に拾われて育てられたとは行っても、私はあの中では男達の感情の捌け口でしか無く、暴力とセックスばかり仕込まれた。』
坂下『すみません。結構です。それ以上言葉を続けないで下さい。菅野組は私達全員で必ず潰します。それで玲子さんの復讐は果たせるはずです。』
玲子『復讐は別に…。ただアイツ等のせいで私以外にも苦しい思いする人が居るとしたら、それは絶対許さない。だから真由と黒澤が作戦開始する前に絶対誘き寄せてみせる!』
坂下『ですね。じゃぁ行きましょう。予定より遅れてます。』
玲子『急いで!』
坂下『…玲子さんの着替え待ちだったんですよ…。』ボソッと呟いた。
玲子『ってか、何!?このゴツい車!?』
坂下『何か問題でも?』
玲子『普通にトラックの大きさじゃん(笑)』
坂下『大きい事はいい事です。』
玲子『大きいと入れるの大変。』
坂下『えっ?』
玲子『駐車場!』
坂下『あ…。』
玲子『意外に坂下もエロぃっすね(笑)』
坂下『車庫入れは得意です!任せといて下さい!』
玲子『我慢出来なくなったら言って♪黒澤がいぃって言ったらアタシはOKだから(笑)』
坂下『何を言ってるんすか!自分は別に(汗)』
玲子『まぁいいわ♪早くスタートしなさい(笑)』
坂下『まったく…。シートベルトして下さい。行きますよ。』
北へ向けて走り出した。
玲子『さぁて、とりあえずお腹空いた。何食べよ?』
坂下『何がいいですか?魚?肉?私は朝からしっかり食べる派ですけど、玲子さんはがっつり系もいけますか?』
玲子『起きて10秒しか経ってなくても牛丼特盛食べれるよ(笑)』
坂下『牛丼っすか?…牛タンでも食べますか?☆もう少し先に知ってる店があります。』
玲子『いぃねぇ~行こ♪行こぉ♪』
ある店に着いた。駐車場はまだ昼前なので空いていた。乗用車2台分のスペースを使いG63を駐車する。
玲子はジャケットを車に置き助手席から飛び降りた。
坂下『玲子さん。先に歩いたらダメです。私の後ろを離れないで歩いて。』
玲子『坂下は古いタイプの男なんだね?』
坂下『そういう意味じゃありません!万が一敵が死角から表れた場合の対処がしやすいようにです。』
玲子『前に居たら前から、後ろに居たら後ろからの攻撃に対処しなきゃならないでしょ?なら隣を歩きな。』
そう言って玲子は右腕を坂下の左腕に絡めた。坂下の背筋が伸びて姿勢良く店内へと進んだ。
玲子『赤くなって可愛いーなー坂下(笑)』
坂下『からかうな。』
店員『いらっしゃいませぇ~。空いてる席どこでもご自由にどぉぞぉ~。』
席に着いた。
店員『ご注文お決まりになりましたら声かけてくださぁい。』冷たい水の入ったコップをテーブルに置いて立ち去ろうとした。そこですぐ坂下は注文する。
坂下『定食2つとテールスープにタンシチューも1つお願いします。』
玲子『2つで(笑)』
坂下『すみません全部2つずつでお願いします。』
店員『かしこまりましたぁ少々お待ちくださぁい♪』
坂下『玲子さんそんなに食べれますか?』
玲子『言ったでしょ?起きて5秒で特盛行くって(笑)』
坂下『10秒でしたね(笑)』
料理が届く。
玲子『うまい☆お姉さんすみませぇん!』
坂下『?』
玲子『グラスワインの赤1つぅ☆』
坂下『昼間っから?』
玲子『アタシは運転しないし、美味しい料理には美味しいお酒が必要なの。黒澤なら疑問に思わず一緒に飲んでくれるゎよ。』
坂下『自分は宿に着いて、外出予定無いと決まりましたらお付き合いします。』
玲子『宿は決まってるの?』
坂下『えぇ☆ごくごく有名な当たり前の人工湖脇の温泉ホテル用意してます。』
玲子『あそこね☆子供の頃行ったなぁ~。地元だから逆になかなか行かないのよねぇ。』
坂下『それに私的には市街地での戦闘は避けたいのです。あの辺は昔旅客機と自衛隊機の接触事故の犠牲者の魂を鎮めようと、慰霊の森なる、人の余り集まらない場所があるらしいので、誘き寄せれば流れ弾の心配せず撃てます。その為にナイトビジョンゴーグルまで持ってきてます。』
玲子『おー☆そこはアタシ行かないから頑張って♪』
坂下『餌が無いと網にはかかりません。…もしかして怖いんですか?…(笑)』
玲子『るせーな!とっとと食って次の作戦考えろ!』
坂下『言葉使いには気を付けた方がよろしいかと。素敵なお召し物を着た美しい淑女が、かくも素晴らしい食べっぷりを披露してる訳ですから。ご覧なさい。まぁまぁ注目集めてますよ(笑)』
玲子『おねーさぁん!伯楽星1合!冷で!!』
坂下『本当に美味しそうに食べて飲んでるとこ見てると、これこら起こるであろうことが逆に信じれなくなります。幸せそうですねぇ。』
玲子『アタシは生きてるだけで幸せよ。母親が死んで菅野に引き取られて、生きてる事の方がすごくツラくて。子供の頃は義兄に負けたく無い一心で格闘技習いに行ったり…。でも義父と義兄は容赦なく従わせた。拘束して動けないアタシをスタンガンやサップや水攻めや。外傷が残りにくい武器を私の体で試してたわ。それこそ遊びの1つだったんでしょうね。…そこで自分で自分の心を殺したの。
何かを期待するより殴られる痛みすらも無視しようってね…。
大人になって家を出て真由のお祖父様から連絡貰って。それまではとにかく大人達の言うことに疑問を持たず従う。この人もそういう大人の1人だと思って従った。言われた通りに真由に近付いた。でも真由のそばに居るようになってからはアタシに命令する大人は居なくなった。真由に会ってからアタシはようやくアタシに戻れたの。それに気付いてから街に色や匂いがある事を知った。あの時死んだアタシが甦れたのは真由のおかげ。だから真由にアタシを捧げるのは当たり前なの…。』
坂下『最後だけ少しエロかったぞ♪』
玲子『話して損した気分になる事もあると初めて気付いた。』
坂下『以前の玲子さんが死んで、生き返った今の玲子さんが、生きてるだけで幸せだという今の気持ち。それだけ持って生きればいいんですよ。他はいいんです。それが幸せなんだと皆に教えてあげればいいんです。元気な玲子さんを見てれば皆幸せになりますから。』
玲子『ん…。やっぱり坂下はいいやつだな。アタシが見込んだだけの事はある(笑)』
坂下『玲子さんに見込まれてた?(笑)』
玲子『さぁ食ったし行くべ。買い物しながらさ♪』
坂下『そうですね。』
会計を済まして駐車場に戻ると車をスマホで撮影する物が居た。
坂下『私の車に何か?』
とびっきりの凄味を携えた笑顔で問う。
…『いやっ…あの…。』
どう考えても一般人。
玲子『威嚇すんな!』
玲子が坂下の尻を蹴飛ばす。
玲子『ちょっとお兄さん。車好きなの?』
…『はっはい!すみません!』
震えながら必死感満点で答えた。
玲子『ごめんね。ウチのが怖がらせて。撮ってもいいけど、その代わりお姉さんのお願い聞いてくれるかな?♪』
…『なっなんでしょう。』
大量の汗が一瞬で吹きてで来ている。
玲子『アタシがこの車に乗って走り去る動画を投稿サイトに載せてくんない?ちゃんとどこで見てどっちに走って行ったかも添えてさぁ♪』
坂下は感心した表情を玲子に向けて親指を立てた。
…『それくらいでしたら喜んで!』
玲子『ありがとぉ♪彼は映らないように、アタシの顔はバッチリ映るように工夫して撮ってね。これお礼♪』
彼の頬を流れる汗を手の甲で拭ってあげ、そこに光るピンクのキスマークを付けてあげた。
玲子『じゃ、お願いねぇ♪』
青くなったり赤くなったり大変な目にあった青年は手にしたスマホを構える。
…『カウント3で録画スタートしますので、お姉さん乗って下さい!3,2,1☆』
カウント始まって歩き出す。
撮影が始まったのを確認してから、カメラのレンズに自然な素振りで顔を向ける。
乗車しそのまま走り去る。坂下がバックミラーで確認すると彼は静かに手を振っていた。
坂下『それなりに珍しい車ですから上手く行ったら拡散して貰えるといいですね。』
玲子『なかなかいいアイデアでしょう?』
坂下『かなぁり危ないですけどね。』
玲子『大丈夫よ。アタシが怪我するのを坂下が許す訳無いもの♪黒澤に強い恩を感じてそれを返したがってるの知ってるしね。』
坂下『そうです。それだけでは無くても、もうこれ以上指導員に負担かけられません。』
玲子『もっともただ守って貰うだけの女では無いつもりだけどね。』
坂下『普段どうかは知りませんが、出来たら今回だけは守って貰える位置から動かないで下さい。』
玲子『ならそばに居たくなるような、そんないい男で居てよ(笑)』
坂下『無茶言わんで下さい。昨日今日で男の価値が養われたりしませんよ。』
玲子『黒澤は違ったわよ♪』
坂下『あの方と比べないで欲しいです。あそこ基準じゃ到底敵いませんよ(笑)』
玲子『坂下もいい線いってると思うけどね(笑)』
坂下『そう思って貰えるとしたら、それもやっぱり指導員のおかげですよ。あの日からずーっと指導員が失った物を私が代わって手にいれたいと思ってましたから。自分が指導員の代わりになるんだって…。』
玲子『でも黒澤はそんな事望んで無いと思うわよ。』
坂下『それも承知してますよ。指導員は見返り期待して動く人でも無いですし、基本面倒な事は嫌いな人なんですよ。ああ見えて段取りとか効率重視の行動しますし。』
玲子『力の出し惜しみするし、相手の力量に合わせてセーブしてるのは感じる(笑)』
坂下『ところで宿には真っ直ぐ向かわず、街に寄りますね。』
玲子『あ☆んじゃ世話になったバーのマスターにお礼しときたいかも☆』
坂下『今行くと逆に迷惑かける事になりかねませんから、終わってから帰りにでも寄りましょう。とりあえず大通り散歩したり、駅ビルとか人が多いとこ歩き回りましょう。』
玲子『解った。んじゃ晩御飯美味しく食べるために少し運動しますか♪』
坂下『まずは駐車場探さないと。』
玲子『駅の西口に大きい車停められる駐車場あるよ。』
坂下『それは都合良い。』
車を駐車場に入れ、駅中抜けて大通りをゆっくり歩き続けた。がたいのいい男と、ボリュームあるいい女が並んで歩くだけで人目を引く。通りを抜け高台にある公園から下を見回すが、怪しい者はまだ見当たらない。
動画投稿サイトを覗くと、それなりに拡散して貰えたようだが、思った程の効果は今のところは無さそう。
坂下『それでは次行きますか。』
玲子『そうしましょ。そういえば1つ思い出した事があるの。義兄の愛人の勤め先が違いわ。』
坂下『んじゃそこも覗きにというか、覗いて貰いに行きますか。』
公園を降りてこの街には少ない百貨店に向かう。店内に配慮エスカレーターを上がって見回してみる。
玲子『居た。』
坂下『近くに寄ってみましょう。あくまでこちらは気付かないふりで。』
玲子『明ぁ!どうこれ?アタシに似合う?』
坂下『!…玲子にはこっちの方が似合うんじゃないか?』
明らかに二度見した。気付いてくれた。二人はそのままフロアをうろうろし、影に身を潜め様子を窺う。
同僚に声をかけスタッフオンリーの出入口に急ぎ足で向かって行った。
玲子『かかったね(笑)』
坂下『あぁ。それではもうここに用は無い。行きましょう。』
玲子『えぇ?少し買い物させて(笑)』
坂下『早く済ませないと怖ぁいお兄さん達たくさん来ちゃいますよ。』
玲子『怖いからすぐ済ませるわ(笑)上の階に行きましょう?』
坂下『上ですか?解りました。』
紳士服のフロアに来ると真っ直ぐスーツの棚に向かいひとつを手に取り、そのままドレスシャツのコーナーへ。
玲子『坂下ぁこれちょっと持ってて。』
坂下『はい。』
脇にかけてあったメジャーを勝手に取り、坂下の首回りと裄丈をテキパキと計り初めた。
坂下『指導員への土産ですか?いつもジーンズの指導員がスーツなんて、何かおかしくないっすか?(笑)』
玲子『何言ってんのよ?あんたのよ。身なりで私とのバランスがズレてんのよ。修正しておかないと二人とも射ち倒された時残念な絵面になるじゃない(笑)』
坂下『バカな事言わんで下さい!絶対玲子さんに弾は当たりません。』
玲子『冗談よ(笑)アタシが奮発して買ってあげる衣装だもん。きっと大事に着てくれるでしょ?弾で穴なんて空けたりする訳無いわよね?(笑)』
坂下『そういう事ですか。それなら少し私には派手じゃないですか?(汗)』
玲子『弾除けなんだからアタシより目立って貰わないとね(笑)』
坂下『なるほど(笑)』
玲子『店員さぁん。これ頂ける?裾直しはこっちでやるから包んで。』
坂下『裁縫できるんですか?』
玲子『今夜の宿は結婚式場もあって、貸衣装屋さんも居るのよ。頼めば裾直し位やってくれるわ(笑)』
坂下『はは…玲子さんそういうトコ、ホント頭の回転速いですね(笑)』
玲子『そろそろアタシ達のマシンも目立ってくれてる頃だから、張り込みの一組や二組位待っててくれてるでしょ。行こ♪』
坂下『玲子さんが男なら背中預けられるバディになれたと思います。来世では是非その方向でお願いします(笑)』
玲子『アタシは今のままでお尻預けられるけど(笑)』
坂下『こっちの作戦終わったら指導員に頼んでみます(笑)』
玲子『その気になったのか(笑)』
終始笑顔で話ながら寄り添って歩く姿は仲のいいカップルにしか見えなかった。
坂下『さぁ駅です。そろそろ居ますよ。気を抜かないで下さい。』
玲子『お前もな(笑)』
すぐに尾行の気配。
当然気付かぬふりして駐車場に向かう。それっぽい車が前後を塞ぐように停まって居た。
坂下『いきなり拉致るつもりみたいですね?姿隠す気無いとは。』
玲子『後ろの連中も距離詰めてきたしね。』
車に乗って近付くと前後を塞いで停めて居た車から男達が降りてきた。前から2人。後ろの車から3人。二組に分かれて尾行して来たのが4人。全部で9人。
後ろの車の後部座席から降りてきた男が口火を開いた。
…『おぉいぶすぅ~。オヤジの指示無視して困らせてるって話だな?何がしてぇんだ?てめぇは。』
玲子『カイ…』
カイ『カイじゃねー!お兄様だろ?ベッドに言ったら御主人様!もぉ物忘れする歳かぁ?ぶすぅぁ!』
坂下『何ですか?貴方達はいきなり。失礼じゃないですか?警察を呼びますよ!』
…『アニキが喋ってんだろぉがぁ黙ってろ!』
坂下『玲子さん。こんな奴等構わず行きましょう。』
玲子『いや。この辺りは明日収集日だから片付けて出しておこう。』
坂下『えっ?燃えます?燃やしたら公害出るし、粗大ゴミで回収頼んだ方が?』
…『てめーらふざけやがってぇ!』
1番近くに居た男が殴りかかって来た。
前に踏み出し隣の男との間に入る。目標を失い慌てて振り向き、再度補足した目標に向かい2撃目を狙う。払い流す。流された力が目標とは違う場所に突進していった。そこに手を貸し加速させる。見事に絡まり合い、受けた男共々倒れた。
それを見て一斉に飛びかかる。次に殴りに来る者を腰を落とし懐に潜り込み、腕を取りながら背中を向け、自分の腰を勢い良く相手の腰に突き上げながら捲き込む。そのまま自分も回転し倒れてる二人の上に落ちる。
誰かしらは怪我を免れ無い。
体勢を立て直しすぐに起き上がると、次の男は刃物を抜いていた。思いの外展開が早い。
遊んでる暇は無いので旋風脚で払い落とし、その回転を殺さず後ろ蹴りで的確に鳩尾を狙う。尾行組の4人が間合いを詰めて来たの確認し、懐からシグを取り出し問答無用で心臓狙う。ゴム弾とはいえ心臓に当たると動けなくなる。カイをガードしようと前に出た男には鼓膜を狙うビンタをお見舞い。
慌てふためくカイは自分の武器を取り出す暇なく掌握された。
坂下『玲子さん。この方殺しますけど宜しいでしょうか?』
カイ『まて!な?ぶす…玲子よ?散々可愛がってやった義理の兄妹だろ?』
玲子『そうねぇ~お義兄様達には散々可愛がって貰ったお礼はいつか返さないとって、小さな子供の頃から今までチャンス狙ってたの。でも今日はアタシ怪我してて無茶出来ないからどーしよ?(笑)』
カイ『な?兄さん。玲子も話せば解るから。全部オヤジの指示で、命令されて仕方なくやってたんだよ。俺だけじゃなくて、亮介の兄貴も嫌々オヤジに従ってただけなんだよ!』
坂下『と、言ってますが、玲子さん。』
玲子『坂下。それ貸して。』
シグを受け取る。
玲子『そっちの弾も。』
青いテープの貼られていないマガジンを受け取る。そしてバッグの中に隠し持つボイスレコーダーで録音はじめる。
シグからマガジン抜き取り、スライドさせてチャンバーの中から弾を抜き。新しいマガジンを挿入しスライド。実は空のマガジンだがスライドリリースレバーに指をかけ元の位置に戻したのだ。
玲子『今すぐここで死んじゃうのと、アタシの言うこと聞いて先送りにするのと選ばせてあげる。どうするお義兄様(笑)』
カイ『もちろん、玲子の言うこと聞いてやるよ。可愛い義妹の為だから当たり前だよな(笑)』
玲子『これでお義父様を殺ってきて。』
カイ『なんだ。そんな事か。いずれは兄貴じゃなくて俺が組織牛耳る予定だったし、あんな耄碌したオヤジじゃもう誰も付いてきやしねぇ。これからは俺達の時代だ。喜んでやらせて貰うぜ!』
玲子『そのマガジンにはアタシ達の指紋しか着いてないわ。撃ったら自分の指紋拭き取れば容疑者はアタシ達。安心して(笑)…坂下放してあげて。』
坂下『解りました。』
玲子『さぁ行って。』
カイは二人から距離を取り、お約束の通りに二人に銃口を向ける。
カイ『バカだろ?お前ら?(笑)』
玲子『最後のチャンス無駄にしちゃったわね。解ってた事だけど。』
ゆっくり自分の持つグロックをバッグから取り出す。
玲子『これは貴方達の持ち物だから、いまから返すわ。分割払いになるけど(笑)』
カイが引き金を引く。スライドしてロックされ弾は出ない。
カイ『くそ!騙したな!』
玲子は至近距離で耳の脇をかすめる狙いで引き金を引く。
衝撃でカイの意識はあっけなく飛んだ。
坂下『お互い様だろ?』
シグを奪い取りホルスターに仕舞う。
坂下『そこの兄さん。少し頼まれて。車避けるの手伝ってくれよ。』
一本背負いで倒した男を指名し、角の壁ギリギリに車を寄せさせる。
坂下『男のボディチェックなんかしたくないから自己申告で上着を脱いで武器と電話を捨てて。手間省いてくれると今日の痛い目はこれでお仕舞いにしてあげるから。』
全員素直に丸腰になる。
坂下『全員この車に乗れ。鍵は俺が貰っとく。』
乗り込んだところでもう1台の車を擦り付ける位に幅寄せして停める。
ロックした後で鍵を隣の車の下まで滑らすように投げ捨てる。
玲子『取り敢えず借りた物の頭金返済しまぁす。』
グロックを構えて2台のタイヤ全て撃ち抜いた。
パトカーのサイレンが近くまで来ている。
坂下『さぁ晩御飯(笑)』
玲子『温泉♪』
G63に乗り込みその場を走り去った。
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