第5話執事ーズ

ポルシェ。それとも知りうる限り最上級の911。失敗作を意地だけで作り続けてるとか、批判的な評価も多いが、車好きなら1度は憧れる車だ。借り物とはいえそのステアリングを握る。高級車に乗る優越感というより高性能な技術に触れられた事に対して高揚してしまう。

それにしても南と言う男は何者なんだろう。敵では無いのは理解したが、GT-Rにしろこのポルシェにしろ素晴らしい仕上がりだ。

手足の延長であるかのように自在に曲がる。

単純にパワーは技量に余る感じはある。もう少し若ければ全開で踏んでみたいとは思うがもう無理だ。それだけが悔しい。

真由達二人に出逢い、とんでもない事に首を突っ込むはめになったと、多少後悔もあったが、その代わりに降ってきた幸福感はお釣りが出る。

黒澤『ホント…どこに向かってくんだ?俺に二人を守り切れるのか?』大きな声で独り言。

【独り言が増えたな】

軽い反省してる間に二人を降ろした場所に着いた。ハザードを点けて路上駐車して待つ。

人だかりこそ出来ないが、それなりに注目集めてしまう。

降りて車の横に立ち、サングラスをかけ、眉を吊り上げ寄ってくる者を威嚇する。

さすが凝視したり写メを撮ろうとする者は居なくなった。

そうこうしてると二人がやって来た。

玲子『何通行人威嚇してんのよ!』

いきなり鳩尾付近狙いの回し蹴り。

体をずらして受け止める。

黒澤『パンツ見えるよ。それに冗談で蹴る時は太腿やお尻でしょ?仕留めに来る蹴りはしたらダメだって。』

真由『この車どうしたんですか?』

玲子『盗むにしても目立ち過ぎだろ?』

黒澤『気のいい爺さんが貸してくれた。GT-R整備してくれるってその間の代車(笑)』

玲子『代車?どんな車屋よ?(汗)』

真由『大丈夫な人なんですか?』

黒澤『まぁ乗って♪会ってみれば解るよ。』

玲子『その前に言う事あるでしょ?』

ポーズを取る。

黒澤『真由さん。いつも以上に綺麗だよ。玲子さん。…以下同文。』

玲子『てめー…!』

黒澤『あまり暴れると傷開くってば。おとなしくして(笑)』

真由『余り玲子を挑発しないで下さい。ホントに傷に触るから。』

黒澤『すみません真由さん。』

玲子『やーい♪怒られてやんの♪てか、謝るのは真由じゃなくてアタシにでしょう?』

黒澤『タイヘンモウシワケゴザイマセンレイコサン。』

玲子『pepper君どころかロビちゃん以下の言語機能だな。おい。』

真由『もぉ~!ホントにいい加減にして!人目集まってるから!』

玲子『そんな大声出したら余計注目されるでしょう?』

黒澤『いい加減にしてそろそろ乗ったら?』

真由&玲子『誰のせいよぉー!』

文句言いながらエスコートに従い乗り込んだ。

玲子『素材が高いのは解るけど、狭!』

真由『これならGT-Rの方がまだ乗り心地楽ね。』

黒澤『…。』

【いい車にいい女二人乗せて。普通に生きてきたつもりだったけど、こんな事ってあるんだなぁ~。しつこいけど俺絶対死ぬな。フラグ立ち過ぎだし。】

黒澤『もうすぐ着きます。今夜の宿も提供してくれるそうです。ですが二人が気に入らなければお断りしますので、判断はお任せしますから話して見てください。』

真由『解りました。』

玲子『アタシはどこでも寝れるからどっちでもいい。』

到着した。ポルシェが停めてあった場所に同じように停めておく。

降りてドアを閉めると南がコーヒーカップ片手に出迎えた。

南『ようこそいらっしゃい。美しいお嬢様方♪』

玲子『黒澤!世話になろう♪』

黒澤『はは…。』

真由『お世話になった上にお招き頂きましてありがとうございます。』

南は欧米式の挨拶をする。ハグして頬と頬をつける。

南『さぁ汚いとこだがとりあえずお入りなさい。』

真由『はい。失礼致します。』

南『黒澤君は珈琲の淹れ方上手いのぉ?』

黒澤『ありがとうございます。』

南『ところで黒澤君の運転技量見て思ったんだが、もう少し車の方で手助けが必要だと感じての。油脂類の交換だけじゃなくて、キャンバー角やキャスター角を少し弄った。その上で車高も変わったのでエンジンマウントを加工したものに変えて重心下げた。そうなるとオイルパンとかも邪魔になるからドライサンプにしといた。他にも多少微調整しといたが、今までよりずっと乗りやすいはずだ。お嬢さん達でも楽にクラッチも踏めるようにサーボも付けたぞ。』

黒澤『この短時間で?』

南『何度もテスト&トライ繰り返ししてきた事だから、目を閉じてても出来るわい。それにこの車はそのつもりで作ってた試作品みたいな状態じゃったからの。』

黒澤『そうなんですか。では全て終わったらこのクルマは南さんにお返しします。今の私には過ぎた車です。維持出来ませんし。』

南『その時が来たらその時考えよう。ワシも短い限られた時間でやりたい事の忖度せにゃならんからの。それに名義がどうあれ今のオーナーは間違いなく黒澤君じゃ。だからこいつは君をワシの所へ連れて来たんじゃろ?』

と優しい表情でGT-Rのリアフェンダーを撫でた。

この瞬間より一層南に親近感を覚えてた。

小声で耳打ちする。

黒澤『二人ともいいケツでしょう?』

南『ヨダレ出そうじゃ。生き返るわい。』

真由と玲子は怪訝な表情するも、南に対して好感を抱いたようだ。

南『それじゃ自宅に案内しよう。ワシの車についてこい。お嬢さん方どちらかワシの車に乗らんか?助手席の方が快適な移動出来るじゃろ?』

玲子『なら私が乗りたぁい♪』と立候補する。文句言ってた割には案外ミーハーなのか?それとも真由に体する気遣い?

どちらもだな。

玲子に微笑みを向け、尻を撫でて送り出す。

黒澤『じゃ、後でね。』

玲子『うん♪』

GT-Rに乗り込む。

暖気は済んでいた。

エンジンの音も違う。排気音も少し静かになってる。しかし吹け上がりのレスポンスは上がっている。

【南さんは魔法使いか?この短時間でここまで出来る人いるんだな…。】

クラッチの軽さに戸惑う。慣れるのに多少時間を要した。

エンストもノッキングもさせず市街地を抜け出し郊外の高台へ向かう。

【しかし南さんは運転も上手い。詮索するのは失礼だが何者なんだろ?気になる所だ。】

安全マージンを残しつつも速度はそれなりに上がる。ブラインドコーナーではセンターラインを絶対越えない。タイヤのラインではなく、ボディをはみ出さない。砂が浮いてる危険を避け路肩にも寄せ過ぎない。いけると思ったら踏むが少しでも不安がある時には絶対ケツは振らない。山を走る時のルールだ。自損しても他車は絶対に巻き込まない。その意思を強く表す走り方。もっとも興味の無い善人達にはただの暴走車両と一括りでしかないのだが。

ポルシェがハザードを出し減速した。徐行し停車。その脇には強固な鉄製の細工が施された門。当然のように自動で開いた。

【金持ちならきっとそうだと思ったから驚いてあげない。】

ポルシェに続いて入る。すぐに建物が見えたらが素通りした。さらに奥へ進むとさっきの建物の10倍?位の邸宅が…。

【日本にもこんな所あるんだ?って海外知らんけど。】

妄想1人ボケツッコミという得意技。

ポルシェは入り口の階段下に車を停めた。その後ろに続いて車を停める。

玲子『いやー面白かった♪爺ちゃん運転上手いねー!黒澤よっか上手い!』

嬉々として降りて来た玲子。

黒澤『悪かったね。玲子お嬢様。』

玲子『精進しろよ。黒澤。』

一歩踏み込み回転しつつの胴回し旋風脚をお見舞い。もちろん当てるつもりは無く頭部がある場所より上を狙う。

玲子はバック宙の要領で反り返り飛んで来る私の脚を蹴り上げた。

見事迎撃され尻餅をつく私を上から見下ろしてもう一言。

玲子『たくさん精進しろ(笑)』

黒澤『ガチでちょっと悔しい。泣きそう。』

真由『はいはい。お遊びはそれ位にして。バトラーさん達が困ってますよ。』

黒澤『あっ。すみません。お願い致します。』

予め聞いて居た使用人らしき人に鍵を渡す。

執事風の男『お預かり致します。』

もう1人の招きで入り口を通り抜ける。

顎が脱臼しそうな程見上げたくなるエントランス。

この無駄遣い的な気品と紙一重の調度品。しばし歩を進めるのを忘れおのぼりさん状態で見回してると、脇にある扉が開放されていてすでに三人は中に入っていた。

黒澤『すみません(汗)』照れ笑いしつつ頭を掻きながら入室すると、四人分テーブルの上にグラスや食器が用意されていた。

南『とりあえずメシ食いながら今後の事を相談しよう。お嬢さんがたはイケる口か?』

笑顔でワイングラスを持ち上げて聞いてきた。

真由『はい。』

玲子『ほとんど血液はそれで出来てるっす♪』

南『面白いお嬢さんじゃの(笑)ワシの嫁にならんか?財産たくさんあるぞ(笑)』

玲子『アタシも妾取っていいなら考える♪』

玲子は私にウィンクしてきた。

南『うん。うん。益々気に入った♪黒澤君。ワシの頼みを受け入れてくれ。その為に今回の件は全力でサポートする。ワシにも多少の人材を動かせる力は残ってる。ただし仲間はすでにいい歳じゃ。危険に巻き込む訳にはいかん。必然的に気づかれぬよう影からのサポートしか出来んがの。』

真由『どういう事でしょうか?』

真由には私から経緯を伝えた。

真由『…今回の事は私個人の御家騒動です。御好意は嬉しいのですが、南様にこれ以上のご迷惑はお掛けできません。』

南『言ってみればその御家騒動に元々他人の黒澤君は巻き込んでおるのじゃろ?それに逆じゃ。今回の件を利用してワシはワシの都合でお嬢さん達を利用しようとしてる話しじゃ。利害が一致したからその分で協力させてくれんかの?』

黒澤『真由さん。こっから先は今までより危険です。南さんの力を借りられるなら危険に晒される機会も少なく時間も短縮出来ます。受け入れましょう。』

真由『…黒澤さんがそう言うなら…。それでは宜しくお願い致します。南様の好意に心から感謝致します。』と、立ち上がり深くお辞儀をする。

南『やっぱりこのお嬢さん達がすごく気に入った。黒澤君二人をワシに預けとけ。必ず奴等には指一本触れさせん。』

黒澤『南さんも指一本触れたらダメですからね(笑)』

南『一撫で位良かろう?(笑)』

黒澤『ダメです。そっちの酔っぱらいは構いませんよ。』

玲子に話題を振ると泥酔してるのか疲れてるのかテーブルに臥せて寝息をたてていた。

黒澤『!!どうした!?』

南『安心せい。黒澤君、ちょっと玲子君を運んでくれ。』

抱き上げて南が案内する部屋に来るとシーツがしかれた作業台があった。

南『そこに寝かせるんじゃ。知り合いから色々貰っておいたから治療痕の修繕しておこう。』

丁寧に手を洗浄し執事が手袋を嵌めさせた。さらに道具を運んで来た。包帯を外し手慣れた様子でテグスを引き抜く。

付着していた血液を綺麗に洗い流し、化膿止めや局所麻酔の液体をかけた。拭き取った後で説明。

南『これは医療用の瞬間接着剤じゃ。これなら痛みさえ我慢出来るなら腕を吊っておかなくても大丈夫じゃ。それに傷痕も縫い目が無い分綺麗に治るじゃろ。スプレータイプの痛み止めもあるから差し上げよう。』

黒澤『ここまでして頂けたら、絶対に奴等の罪を暴いて潰さないとなりませんね。』

真由『…そうですね。』

真由はうっすらと涙を浮かべていた。

真由『南様、必ず私達でこの仕事達成させます。』

南『仕事じゃない。無理する必要も無い。危なくなったら逃げればいい。それと私達と言ったがお嬢さん達は留守番じゃ。その代わりウチの使用人が手伝ってくれる。』

真由『それですが、元々が御家騒動。私が父の前に出て決着付けなくては本当の解決には至りません。ご理解下さい。』

南『…そうか。解った。劣化しとるロートルの黒澤君より、ウチのモンがボディーガードには役立ちそうじゃ。連れて行け。』

黒澤『はは…。』ポリポリと指先で頭をかく。

真由『あら、南様。黒澤さんは全然本気出してませんわよ。必要に応じて必要な分しか力を出さないエコな殿方なんです。たまに必要な配分間違えて尻餅つきますけど(笑)』

黒澤『そろそろ勘弁して下さい(笑)眠り姫は置いといて食事の続きしましょう?ね?執事さん(笑)』

たまらず味方になってくれそうな執事に助け船を期待して声をかけた。

執事『さようでございますね。お料理も暖め直して参ります。私も食べて頂けた方が嬉しいですし。』

黒澤『ね?そう言ってるし。行きましょう♪』

南『坂下君。前川君を呼んで玲子さんのそばについているように言ってくれ。起きたらダイニングにお連れして。』

坂下『承知致しました。』

【坂下さんって言うんだ。どっかで見た事あるんだよなぁ…あの前川って駐車場係りをしてくれた方も…】

南『ちゃんと紹介してなかったな。坂下君は元公安の人間だ。元と言ったが今もなのかも知れん。しかしワシに良く尽くしてくれるから、信頼しとるし干渉はせん。興味を満たそうという欲求に従順に動くと、今回の黒澤君のように厄介事にとっぷり嵌まる可能性大じゃからのぉ(笑)』

【公安?公安に知り合いは居ない】

真由『公安でしたら警察の不正を暴けるのでは?』

南『全貌を把握出来んウチは尻尾切って身を潜めてしまう。いつまでも鼬のおいかけっこじゃ。』

黒澤『そうですね。公安とはいえ管轄違えば敵が潜んで無いとも言えませんし。』

坂下『その通りでございます。…実は私が中学生の頃黒澤さんにお会いしてるんです。それも週に二回ペースで。』

黒澤『?』

南『君達の事を予め知ってたのは坂下がワシに手を貸してあげられないかと持ち掛けて来たからなんじゃよ(笑)』

【週に二回…】

黒澤『…明君?』

坂下『ようやく気付きましたね。押忍!お久しぶりです!』

黒澤『すごく立派になってたから全然気付かなかった。ごめん。中々思い出せなくて。しかも地元から遠く離れたとこで知り合いに会うなんて思ってないし!』

坂下と握手する。

黒澤『って事は…前川さんは賢一君?』

坂下『そうです。公安辞めて南さんにお世話になってから間もなく、怪我で現役引退してうろうろしてたアイツを拾ってきました。今は二人でお世話になってます。』

黒澤『そうだったんだぁ…大会は全然見てなかったから怪我も知らなかった…。』

坂下『とりあえず御前がお待ちですので、行きましょう。』

【南さんは御前と呼ばれる人…】

すでに二人とも居なくなって居た。

坂下はインカムで前川呼びそのまま一緒に部屋を出た。

坂下『料理暖め直して来ますから、これでも飲んでて下さい。』と入り口で手渡されたボトル。

黒澤『…カバランソリスト?台湾のバーボンだよね?しかも何気に高い。』

坂下『南様はバーボン飲みませんし、頂き物で処分に困ってるご様子なので片付けちゃいましょう。封を切ってしまえばこっちのもんですから♪』

そう言って封を切りロックアイスを入れたグラスも持たされ室内へ押し入れられた。

黒澤『すみません南さん。明のヤツが飲めとこれを(汗)』

南『バーボンはワシには解らんから飲んでしまえ♪』

真由『明さん?坂下さんと黒澤さんはどんなお知り合いだったんですか?』

黒澤『かいつまんで話すと、都落ちして暇してた時期に地元の道場で空手の指導員の手伝いしてて、その時の子供達にこちらでお世話になってる二人が居たんです。短い期間だったので私はほとんど忘れてました。』

真由『教え子の顔忘れるなんて良くない先生ですね(笑)』

黒澤『おっしゃる通りです。しかも賢一…外でお会いした前川君は、社会人になっても大会出続けて、世界大会も毎回上位に行ってたんですよ。今年こそは今年こそはって毎年優勝は逃すんですが、海外選手向けのルールになってきてますので、そこで戦う日本人はかなりしんどいはずです。』

南『ほぉ~前川は無口だから、そんなに強いとは知らなんだ。坂下からは自分より強くて暇してるヤツが居るからと紹介はされてたのじゃがな。』

坂下『おそらく全盛期の黒澤さんとやったとしたら勝てないかもですけどね。』

料理を運んで来た坂下が口を挟んだ。

黒澤『そんな事無いだろ。高校出る頃にはとっくに二人とも私なんかより何倍も強かったよ。』

坂下『それは黒澤さんが怠け者で、力の出し惜しみするからでしょう?』

黒澤『君までそーゆー事言うかぁ?』

坂下『はは。それでは次のお料理に取りかかりますので失礼致します。』

浅くお辞儀をして下がっていった。

南『教え子に口でも敵わんのか?やっぱりへなちょこじゃのぉ?真由さん、やっぱり黒澤君は止めてワシに鞍替えしたらどうじゃ?』

真由『そぉですねぇ。考えときますわ。(笑)』

黒澤『ちょっとぉ。私をつまみにするのはそろそろ止めて頂かないと、本当に涙溢しますよ。』

南『ところでこれからの事だが、ワシにして欲しい事とか用意して貰いたいものはあるか?』

黒澤『そうですね。人員は足りてますので、乗り物と向こうでの滞在に必要な隠れ家を。それから内密に会長に連絡取れると助かります。会長を警護してる者が信頼出来なくては動きが制限されてしまいます。その上で真由さんの偽情報をリークして誘き寄せたい。タイミングは向こうに到着してからがいいです。一網打尽ではなく、蜥蜴の尻尾を少しずつ切り取って頭を潰します。真由さんがお父上と話すのはそれからです。』

南『全て承知した。動くなら下っぱが海を渡ってる今が良かろう。人手不足じゃ机で偉そうに座ってもいられんじゃろ。早速明日の朝結構じゃ。』

玲子『何の相談?私を仲間外れにするつもり?』

真由『玲子!』

南『どうじゃ?腕の具合は?』

玲子『ありがとう。爺ちゃん。この前川ってお兄さんから全部聞いた♪』

黒澤『怪我が治るまでおとなしくしてた方がいいだろ?』

前川『玲子さんは、指導員より全然使えますよ。稽古足りてないんじゃ無いっすか?』

黒澤『賢一君!ついこの前まで現役だった君等とは違うよ。歳考えてくれって。』

前川『ウチの師範が今の言葉聞いたら折檻ですよ(笑)』

握手をかわす。

前川『押忍!自分もお手伝いさせて頂きますので、何でも行って下さい。』

玲子『何だか坂下君も前川君も黒澤に何されたの?普通の師弟関係じゃないよね?肉体関係?』

坂下『えぇ…無理矢理手込めにされて、それからは言いなりになるしかなく…。』

新しいワイングラスを玲子の前に置きワインを注いだ。

坂下『今度は何も入れてませんから安心してお召し上がり下さい。』

玲子『黒澤ぁ。坂下はアタシと組む。いーよね(笑)』

黒澤『好きにして(笑)じゃぁ真由さんは、賢一。頼んでいいか?』

前川『出来れば自分は単独で。怪我で引退しましたので、真由様を御守り出来るか自信がありません。それに真由様も指導員と一緒の方がいいでしょう?』

真由『私も少し考えがありますので、黒澤さんに少し付き合って貰いたいんです。』

黒澤『?解りました。』

玲子『ところでホントのトコ、こちらの執事ーズと黒澤は何があったの?』

坂下は前川に目配せをし口を開く。

坂下『若気の至りで…中学卒業する頃に私達の幼なじみの女の子が地元の不良達に拉致られまして。その幼なじみの子は背伸びしたい年頃で、高校生のグループと良く夜遊びしてたんです。そのグループに難癖つけてきた別の不良グループに連れ去られたと聞いて。その頃は私達も空手でそこそこ自信があったので助けに飛び込んで行きました。ところがその不良達はただの高校生だけじゃなくて、その上のチンピラに女の子上納する為に連れ去ってて。溜まり場はすでに私達には到底敵う人数でもなく。中学生と大人では力も喧嘩に対する気合いというか気持ちも負けてまして。』

前川『集団リンチ状態で立てなくなってた私達を助けに来てくれたのが指導員です。指導員のバイクの音が聞こえた時、ここで死ぬんだと諦めてた私達にもう一度立ち上がる勇気も出ました。』

坂下『飛び込んで来た黒澤さんは鬼そのものでした。』

前川『私達も殺られるんじゃないかと逆に恐怖感じたほど。』

坂下『一撃必殺こそが本当の空手だと知りました。』

前川『数で圧倒する連中が逃げようと外に飛び出す者も居た位。』

坂下『明らかに人質が居るのも忘れてましたね。』

前川『慌ててリーダー格を二人で取り押さえに特攻したよな。』

坂下『逃げ出すヤツも追いかけて1人も外に出さなかったもんね。全員失神か戦意喪失するまで追いかけ回して。怖かったな。』

前川『奴等にリンチ受けてる時より恐怖だった。』

坂下『あの女の子が無事だったからいいものを、頭に血が登ると人質も一緒に殴りかねないし。』

黒澤『君達、その辺にしときなさい。』

坂下&前川『押忍!(笑)』

坂下『そんなこんなで、私等は指導員には一生頭が上がらないんです。』

前川『自分だけではなくあの女の子にとっても命の恩人なんです。ひょっとしたらもっとたくさんの人の恩人になってます。』

玲子『そんな人も経年劣化するとこんなんなるのよ(笑)』

黒澤『うっせー!』

南『オチがついたとこで、坂下君も前川君も座れ。今夜は一緒に食ってくれ。』

坂下『御前。今夜だけは好意に甘えさせて頂きます。』

前川『ありがとうございます。明日からまた一生懸命精進します。』

南『さ♪無礼講♪ホントに無礼講したら怒るけど、礼儀正しく無礼講じゃ♪玲子さんは別に構わんぞ(笑)』

玲子『爺ぃーサイコー!飲め♪爺♪』

玲子は怪我してる側の腕を伸ばし、南の頭を引き寄せ、頬にキスの嵐を浴びせた。

【楽しい。幸せだ。俺の命日は明日かな?今夜は余すことなく楽しもう。最後になるかも知れないし。】

ここに至った経緯や、思い出話しにも花が咲き、宴もそろそろたけなわに。

南はすでに船を漕いでいる。

玲子はすこぶる元気。

真由も淡々と執事ーズの話しに耳を傾けながらも酒が進む。

執事ーズはいささか余計な話しが多い。時々制止しようと試みるが、2対1では部が悪い。

前川『しかし、指導員!さっきの表での旋風脚はなんすか?』

明らかに酔って絡んで来てる。こんなヤツだったのか?

前川『ふわっと跳んで、んで女の子なんかに蹴落とされるなんて、恥ずかしくないんすか?明日は留守番してた方がいいんじゃないんすか?』

玲子『カッチーンッ!…なんかだと?前川ぁ~かかって来いやぁ!』

前川『自分は女子とは組手出来ません。手加減知らんので。』

玲子『ほほぉ~…』

席を立って距離をつめる玲子。同じく立ち上がり身構える前川。

前川『怪我増えますよ。勘弁して下さい。』

私は笑いながら見ていた。

真由『怪我はダメよ。』

玲子『大丈夫。左手使わないから♪』

前川『左手使わないなら尚更危ないんで止めましょう?』

右手を差し出す玲子。握手と勘違いして前川も差し出す。玲子はその手の親指の付け根にあるツボに自分の指の関節を捩じ込み、痛みで引き抜こうとする力を利用し飛び付き足を首に絡め、前転しながら三角絞めが決まって居た。取った腕の関節も決まってる。瞬殺だったが為に反射的に前川はタップした。

黒澤『賢一。稽古が足りてないんじゃないか?精進しろよ(笑)』

真由『まだ料理残ってるんですから。埃が舞っては食べれなくなりますわ。』

坂下『常に塵1つ無いように掃除してますし、空調が吸い取ってますので安心して召し上がって下さい(笑)』

前川『玲子さんはサンボも使うんですね。』

玲子『修斗は基本立ち技競技なんで、そこから使える技は何でも吸収しないと。サンボも柔術も合気も何でもありよ(笑)』

前川『女の子なんかって言葉撤回します。玲子さんは女の子ではなくファイターです。』

玲子『なんか引っかかるものがあるけど、まぁいいわ。』

前川『ミニスカートで三角絞めに行ける人は女の子扱い出来ません。』

玲子『勿論インナーパンツ履いてるゎよ。』

スカート捲って見せた。

先程まで居眠りしていた南が背後にかぶり付く。

南『玲子ちゃん。めちゃくちゃいいケツしとるのぉ~♪』と尻を撫でた。

反射的に繰り出された蹴りを傍に居た坂下が受け止める。

坂下『さすがにそれは御老人には致命傷かと(汗)』

玲子『ごめん、ごめん。て、爺ちゃん!』

南の耳をつねって持ち上げる。

坂下『それはOKです。』

南『これ!坂下!お主はワシのボディーガードじゃろ?助けんかい!イテテて!』

前川『御前には良い薬です。』

南『前川まで!助けてくれる者はおらぬのか!』

黒澤『その辺にしてあげて(笑)』

玲子『黒澤がそう言うなら♪』

真由は一部始終に微笑みを向け、淡々と自分のグラスにワインを注ぎ手酌で飲み続けて居た。

坂下『そろそろお開きに致しましょう。寝床は用意してあります。さぁ、皆さんこちらへ。』

坂下に案内され私達は席を立つ。

前川『御前もお休みになって下さい。』

前川が食器を片付けながら南に声をかける。

南『そうするかの。すまんが、前川は寝る前にワシのマシン達のバッテリーチェックしといてくれ。黒澤君が乗るかも知れん。』

前川『御意。』


エントランスを囲むように左右についてる階段を坂下の案内で上り、裏庭に面した奥の大きな部屋に通される。

坂下『ゲストルームです。前川が車にあった荷物は運んでおきました。こちらでお休みになって下さい。備え付けの物は全て自由にお使いになられて結構です。足りないものがあればいつでもお申し付け下さい。そこの電話で私か前川と繋がるようになっておりますので。』

黒澤『ありがとう。』

坂下『それではお休みなさいませ。』

黒澤『ちょっと待って。君達が付けてるインカムをもう1つ用意してくれ。』

二人には聞こえないように小声で伝えた。

坂下は軽く頷いて退いた。

部屋でそれぞれが寛いで居た。ノックされ坂下の声がした。

坂下『お持ち致しました。』

キャスター付きのワゴンにチョコと先程まで飲んでたカバラン、ロックアイス、グラス、ワインクーラーに刺さったジンジャエールとトニックウォーター。

黒澤『懐かしいな。昔良くこれで割って飲むのがご馳走だった(笑)今は逆に勿体なくて出来ん。』

坂下『確か無類のチョコ好きでしたよね?(笑)』

黒澤『良く覚えてるな(笑)』

そのやり取りの中でこっそり無線一式が入った袋を手渡された。

坂下『それでは。』

浅く頭を下げ、坂下は立ち去って行った。

玲子『シャワーしてくる。真由は?』

真由『私も行く…。黒澤さんは?』

黒澤『私はもう少し飲んでから。』

玲子『飲み過ぎないでねぇ♪』

黒澤『気を付けるよ。』

シャワールームに消えたのを確認し、無線装着しインカムへ。

黒澤[黒澤です。お願いがあります。バイクありましたら借りたいんですが。]

前川[前川です。すでに御前こらの指示で用意済んでます。]

黒澤[南さんが?]

坂下[坂下です。御前は指導員がやろうとしてる事はお見通しのようですね。]

黒澤[私は四時間後に出発したいと思います。その際作戦打ち合わせしたいので、ガレージまで案内して頂きたい。]

坂下&前川[了解です。]

インカムを外し無線の電源を切る。

ホントはスマホの電源入れて色々履歴チェックもしたいのだが、すでに私の身元が割れてる可能性もあるのてわ迂闊にGPSに拾われてはいけない。

シャワーを済ませた二人が体を拭き終え、髪の毛の水気をバスタオルで吸い取りながら私のそばに歩いてきた。

黒澤『二人とも何か着ないと風邪引くよ。』

真由は隣に座った。

真由『それ何飲んでるんですか?』

黒澤『バーボンの炭酸ジュース割り。』

真由『チョコ好きなんですね。包み紙がたくさん(笑)』

玲子は鞄からグロックを取り出して。

玲子『これ返す。』

黒澤『逆に持ってて。』

と残りの弾丸が入ったマガジンを渡す。

黒澤『これからちょっとの間別行動になる。自分の身を守りながらも、坂下も守らなきゃならない場面に出くわさないとも限らない。坂下を頼む。』

玲子『黒澤がそこまで言うならちゃんとやってみせるゎ。』

真由『これ。美味しい♪』

黒澤『あ☆私のじゃ濃いから、ちゃんと真由さん用に作り直すんで返して!』

グラスを奪い取ると腕に絡みついてきた。

真由『それがいい♪口移しで🖤』

玲子『お酒そんな強く無いはずなのに結構飲んでたもんね(汗)』

玲子が真由の腕を引っ張り、私から引き剥がした。

黒澤『腕のガーゼ濡れたでしょ?交換しよう。』

傷口を確認すると、若干の膨らみはあるものの細い1本の皺にしか見えない状態で、先程前川とじゃれついたのにも関わらず一切血の滲みも無かった。

念のためにリドカインスプレーを吹き付け、てから処置をした。

玲子『確かこのリドカインのスプレーって早漏防止に効くとか?(笑)』

真由『…黒澤さん。それ貸して!悪さしないように、玲子の治療は今後私がやりますから!』

黒澤『もぉ~玲子さんは余計な事ばかり言う。』

玲子『ほら。真由。自分が使うんだからアタシが持ってればいいだろ?』

真由『黒澤さんに使っちゃダメですよ。お年寄りなんだから心臓止まっちゃいます。』

黒澤『酔うと真剣な顔して毒吐くのね。』

真由『ぬひゃひゃひゃ。』変な笑い声。

黒澤『それじゃぁ私もシャワーして来ます。』

真由『らめぇ~。』

立ち上がろうとした所を引き戻され、そのまま体重を預けてきた。

踏ん張る事は出来たが、押し倒されてあげる。

真由『一緒に寝よぉ~…。』

黒澤『寝る前にシャワーだけ。』

真由『私達で綺麗にしたげるねぇ♪玲子ぉ♪』

玲子『はいはい。お姫様の言うとおり♪』

二人で私の服を剥ぎ取りにかかった。拒否せずやりたいようにやらせてあげた。ひょっとしたら今夜が二人と過ごせる最後の日になるかも知れない。

玲子はきっと気付いてる。もしかしたら真由さんも…。



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