第3話RZV500

今自分に起きてる事にどこか現実離れを感じつつ、きっと夢なんじゃないかと思ったり。じゃなければ赤いジェットヘルメット被ってプラカード持ったおじさんがその辺の物影から飛び出して来るのでは?等々、たくさんの猜疑心に揉みくちゃにされつつ、どうあがこうが逆らえない力に引き寄せられてる気がした。

黒澤『これがドッキリならすげぇディレクター…。』

真由『えっ?何か言いました?』

黒澤『あっ。独り言です。』

玲子『スケベ♪』

黒澤『はぁ?うっせードスケベ。』

玲子『黒澤の左のポケットに入ってるハンカチ、すごく見覚えある色と生地なんだけど🖤』

黒澤『…忘れてた。』

玲子『返してくれてもいいんだけど。』

黒澤『…まだ使うから。』

真由『何に使うの?』

と、端をつまんで引きずり出した。

玲子に投げ付けられた下着をそのままポケットに入れてたの忘れてた。

真由は玲子に下着を返した。

黒澤『返してぇ~!』

運転席から後部座席に居る人の手にあるものは奪い取れない。左手が宙を仰ぐだけだ。

真由『諦めて運転に集中。』

玲子『後で返してやっから♪』

真由『後でもっといいのあげるから♪』各々が身を乗り出して小声で伝えてきた。

そんな和気あいあいの車内だったが、湖に近付くと思いの外観光客が多くお土産屋さんや、名産品の看板掲げる食堂に目を奪われ、おのぼりさん状態でキョロキョロ外の景色に意識を持ってかれていた。

予約したホテルは湖の外周を少し走った奥にある。景色はまぁまぁ期待出来そうだ。通りからは見えない場所に車を停めて、チェックインを済ませる。運良くどちらも湖に面した部屋が取れた。ただしツインの部屋と、セミダブルの部屋しか空いておらず、ツインの部屋の鍵を玲子に渡す。

黒澤『それじゃぁ玲子さん。良い旅を。』

真由の肩を抱きエレベーターに向かう素振りをする。

後ろから跳躍する際の布擦れの音。振り返ると飛び肘が降って来ていた。間一髪状態を反らしてかわすと、着地と同時に内側に振り上げた足が頭上から降ってきたネリチャギだ。

振り下ろされる前に十字受けで距離を詰め睨み合う。

黒澤『本気でしたよね?殺す気で撃ってますよね?』

玲子『あなたは死なないわ。私が守るもの。』

黒澤『綾波はムエタイもテコンドーも使わない。』

真由『すみません!』コンシェルジュに詫びながら、私と玲子の脇腹を力一杯つねる。

黒澤&玲子『!☆!…ごめんなさい。』

エレベーターで二人のワンフロア下にある私の部屋の番号を教え、食事の時間まで大浴場なりなんなりゆっくりしましょうと伝えて先に降りた。右手を顔の横で開き真由達に向け扉が閉まるのを待つ。非常口の確認。たまにだが非常口なのに施錠してあり出入り出来ない扉が田舎の旅館にあったりする。

ここのホテルは完全にフリーだが、一階に鉄格子の扉がある。まぁ脇から飛び降りる分には不都合は無い。

部屋に入る。小さなテラスがある。部屋の風呂も半露天だ。一応外を覗く。登るのも下りるのも難しい作りだ。緊急脱出に使えない。この高さでは飛び降りたら怪我では済まない。

部屋に戻ってテラス戸に鍵をかけ、べッドに腰をおろす。

ドアをノックする音が三回。

開けると思った通り真由が居た。

真由『玲子は先に大浴場に行きました。私も一息ついたら行くと言ったので余り時間取れませんが。』

黒澤『では早速聞かせて下さい。ただ答えるだけでいいので。』

真由『解りました。』

黒澤『追ってきた男達を飼ってるのは、お父さんが紹介してきたヤツなのは解りますが、縁談断った腹いせじゃないかも知れません。』

真由『…』

黒澤『で、お父さんと菅野とはどういった知り合いなんですか?』

真由『詳しくは知りませんが、父は婿養子で私達が通ってた大学の出身です。そこが地元なんです。その関係で元々知り合いだった方の息子さんって事みたいです。』

黒澤『玲子さんとは付き合い古いんですよね?いつから?』

真由『大学3年の時に同じ講義を取っていて、たまたま隣に座った時から何と無く食事も一緒にするようになって、それからは腐れ縁みたいな感じにずーっと一緒でした。』

黒澤『1、2年の頃は何を?』

真由『まったく玲子の記憶無いです。当時は二人とも地味でしたから。私は今でも地味ですけど。』

黒澤『地味って、二人ともホントに綺麗ですよ。特に真由さんは品のある美人って感じで。』

真由『今口説かれても何もする時間ありませんよ(笑)』

黒澤『すぐ済みますから(笑)』

真由『ははは♪』

黒澤『そろそろお風呂に行かないとまずいですね。行ってらっしゃい。』

真由『黒澤さんは?』

黒澤『せっかくなんで私も施設満喫しますよ。移動する際はフロントに伝言預けて行きますので。』

真由『解りました。』

正面に立ち、目を閉じて顎を上げる真由。

唇を触れるだけのキスをし、振り返らせてお尻を押し出す。一揉みして離す。

真由『エッチ♪』

真由を部屋の外に送り出してから、自分も下着の替えを用意して大浴場に向かう。

内湯も露天も堪能し、フロントに向かって伝言残す。

黒澤『連れが訪ねて来たらbarに居ると伝言頼めますか?』と。

勿論快く了承してくれた。

一旦部屋に戻り着替えた服と現金を交換してbarに向かう。

時間が早い為空いていた。


窓際の一等席に腰をおろし、ギャルソンにメーカーズマーク46のダブルをロックで注文し、チェイサー代わりにジントニックも頼む。

日が傾いていた。湖に夕焼けが映り混む。

ギャルソンが酒を運んで来た。

ロックグラスの氷を回し、僅かに溶けるのを待ってから口に含む。チャームの皿にあるピスタチオの殻を剥きながらゆっくりと飲み込んだ。一際強い甘い薫りが鼻腔を抜け、二呼吸後に薫りが弱まった所でピスタチオを口に放り込む。

実際バーボンは大好きだが、このハードボイルド被れな自分に酔ってる時間も嫌いではない。銀幕スター達先人への尊敬や漫画やアニメのヒーロー達への憧れで飲み始めたバーボンも、ようやくこの歳で少しは自分に馴染んできた気がする。

と言っても甘党でもある私はチョコも甘いカクテルも好きだったりする。

さすがに今日は見栄を張って我慢する。この二人の前では余りカッコ悪いとこばかり見せられない。

他に客が少ないので真由達が入ってきたのがすぐに解った。

玲子『ご飯の前に飲んでるの?』

黒澤『飲みたい時に飲む。もちろん食事中も飲む。』

真由『お風呂上がりで喉渇いちゃったから私も何か飲もうかな?』

玲子『んじゃアタシも♪』

私は手を上げギャルソンを呼んだ。

玲子『ヱビス♪瓶で!』

ギャルソン『グラスはいくつお持ち致しましょうか?』

玲子『要らない♪』

ギャルソン『かしこまりました(笑)』

真由『私はミモザを。』

ギャルソン『以上でよろしいですか?』

私は頷いた。

ギャルソン『ありがとうございます。少々お待ち下さいませ。』

軽く口角を上げたまま丁寧なお辞儀をして後ろに下がるギャルソン。

私一人で注文した時との違いに多少感じるものがあるが、自分が気付かないだけでそうさせたのは私かも知れないと自制する。

黒澤『玲子さんはラッパ飲み?』

玲子『独り暮らししてると洗い物増やしたくなくて、ついそれが習慣に(笑)』

黒澤『ちゃんとしてる時は綺麗ないい女系なのに、中身はだいたいオッサンだよね?それも終わりかけの♪』

玲子『何だぁ?ギャップ萌えだろ?だよな?黒澤?』

真由『他のお客様の迷惑だからおとなしくして。』

黒澤『そーですよ。』

真由『二人ともよ。』

そんなやりとりをしてる間にビールとミモザが届けられた。

玲子『とりあえず生きてた事を祝して乾杯♪』

高々と持ち上げた瓶をそのまま口に差して逆さにし撹拌する。

喉の動きに合わせ瓶の中身が渦潮のように回りながらどんどん減って行く。

玲子『ぷっは~っ!く~っ!やっぱ人生、このときのために生きてるようなもんよねぇ。』

黒澤『【見知らぬ、天井】の葛城みさとか。』

玲子はニヤリとほくそ笑んでみせる。

玲子『お兄さぁん!もう一本!』

真由『ほどほどにしないとご飯食べれなくなるわよ。』

飲み終えると夕焼けが消え玲子が静かになった。

夕食はビュッフェなのでレストランがあるフロアに向かう。

barの支払いは真由が部屋付けでサインを済ませていた。

レストランに到着し、各々が食べたい物を取りテーブルに座る。

黒澤『玲子さん、聞いてもいい?』

玲子『90-60-88ひょっとしたら今は60じゃなくて62位あるかも。体重は国家機密。』

黒澤『体重は56でしょう?☆そーじゃなくて。』

玲子『そんなにねーよ!』

黒澤『絶対立ち技格闘技やってましたよね?それも割りと真剣に。』

玲子『男兄弟で育ってね。小さい頃兄に虐められて泣かされて、それが悔しくて強くなりたいって一心でキックボクシングや柔術を少しだけ。』

黒澤『修斗とか?』

玲子『そうよ。黒澤も格闘技好きそうね。拳ダコ無いから立ち技でも無さそうだし…耳も福耳だけど潰れてないし…。』

黒澤『ちゃんとやってたの子供の頃だから、ただの健康維持の運動みたいなもんさ。』

玲子『アタシとの組手を軽くいなしておいて?』

黒澤『偶然だよ。それとたまぁに私が知ってる方言出るけど、通ってた大学よりも少し田舎の。』

玲子『…尋問みたいね。』

黒澤『気を悪くしたらごめん。調べたら大学の同窓生名簿に玲子さんの名前が無くてさ。頼んだ人が親切に学生じゃなくて聴講生だったと教えてくれて。』

玲子『…そーよ。って事は名前も出身地も全て解ってるんでしょ?ゆうきさんだっけ?この短時間にすごいね?』

黒澤『あぁ。有希は自慢の娘だよ。でも何で今まで話さなかった?』

真由『口挟ませて。どういう事?』

黒澤『推測だけど、玲子さんも菅野組の関係者だ。』

玲子『そうよ。でも1つだけ誤解しないで。この際だからホントの事話すわ。真由のお祖父様から頼まれたの。真由のそばに居て欲しいと。でもそれを理由に近付いたのがバレたら傷付くと思ったから言えなかったの。』

黒澤『お祖父様?お父様からの依頼じゃないのか?』

玲子『違うの。ずいぶんと経ってから義兄から聞かされて知ったけど、アタシの本当の母は真由のお祖父様の愛人だったの。物心ついた頃はすでに母親は病気で弱ってた。アタシを育てる為に無理をしたんでしょうね。入院する事になって知らない家に引き取られた。それから間も無く母親は亡くなり、引き取られた先にそのまま養女として迎えられたわ。それが管野。』

黒澤『そうか。で?今はどっちに仕える?』

玲子『義父でも真由のお祖父様である会長でも無いわ。初めからずっと今も真由に仕えてる。会長からは真由の友達になってくれと言われただけ。それ以上の指示は無かった。アタシも周りには敵しか居なかったから、真由と知り合えた事が唯一の安らぎだったの。これに嘘は無いわ。』

真由『そうね。私も今までなに一つ疑う事無く、肉親以上に守って貰ってたかけがえの無い存在だと感じてます。今でもその事に一辺の曇りも感じてないわ。』

玲子『真由…ごめんね。もっと早く打ち明けてれば良かった…。』

黒澤『…まだ色々お互い話さなきゃならない事もありそうだけど、これからゆっくりとまた長い時間かけて解り合うんだね。それよりご飯食べちゃおう。』

真由『そうね。食事済ませちゃいましょう。』

玲子は涙を拭い。

玲子『そうだね♪早く食べてbarに戻らないと♪』

黒澤『…。』


食事を終え、互いの部屋へと戻る。

私は厨房から出てきた若い料理人に頼み込み、お肉を赤くするのに使う薬品を分けて貰った。それなりに支払いもしたが。

ホテルの裏から短く細い竹を切って枝を払い、非常階段の鉄格子の扉のなかには入れておく。

自分の部屋があるフロアに上がり、非常口を開けスリッパを扉に挟んで閉じないようにして階段を下り、採取した竹を持って部屋に戻る。

節目に沿って切っておく。マンガン電池を分解し小さな亜鉛の板を取り出す。端を釣糸で縛り反対に向かってぐるぐる巻いて、糸の端は折り返し結び目側に持ってきておく。ラップで上から固定するよう巻いて水が入らないようにする。竹の中にそれを入れて糸は長目に外に出し、厨房の若者から貰った物を注ぎ入れる。口まで入れたら紙で蓋をし、上から蝋を溶かして密閉。糸を引けばラップが破ける仕掛けだ。まぁ他にもちょっとした工夫はしたが貰った材料では3本分だが仕方がない。

残った竹は竹林に戻しておいた。

作ったものはタオルで包みリュックの脇に刺しておく。

扉をノックする音が三度聞こえた。

真由『黒澤さん?居ますか?』

扉を開けて入室を促すが両手の指先を私の肩に添え断られる。

真由『玲子がbarで酔い潰れちゃって、運ぶの手伝って貰えますか?』

黒澤『あれま。ちょっと待ってて。』

カードキーをポケットに差し込み、私が先頭でbarに向かった。

黒澤『玲子さんはお酒強そうだったけど、結構潰れるまで飲んだりするの?』

真由『私が知る限り、大学の卒業式と、最初の出張で交渉上手くいって、その晩の打ち上げを二人でしてた時くらい。』

黒澤『玲子さんは真由さんが嬉しい時に羽目をはずしちゃうんだね?』

玲子『そうなのかな?』

黒澤『色々話し合えて、すっきりしたみたいだね。ホントにいい顔してるもの。』

玲子『私達に気を使って上に来なかったんですか?』

黒澤『そういう訳じゃないけど、色々とやることあったんで。』

barに到着した。

夕方と同じ席に玲子は居た。

ギャルソンにお詫びをし、玲子を背負うのも手伝って貰った。

真由達の部屋に着いて、入り口に近い方のベッドに寝かせた。ホントに幸せそうな顔して寝てる。

黒澤『じゃぁ真由さん、出来るだけちゃんと寝るんだよ。』

真由『もう行っちゃうんですか?』

黒澤『玲子さんの安眠妨害になっちゃうからね。』

真由『そうですか…。』

寂しそうな表情見せられると、途端にいとおしくなってしまうが、額に唇を付け

黒澤『おやすみ。』

真由は顎を上げて目を閉じる。

今度は唇にそっと触れるだけのキス。

扉を開ける。外に出る前に振り返り。

黒澤『忘れてた。ちょっと後ろ向いて♪』

言われた通りにする真由。

黒澤『おしりもおやすみ♪』

下からお尻を撫で上げる。

真由『きゃっ!もぉ♪』

寂しそうな顔は一変して笑顔になる。

そのまま後退して扉が閉まるまで手を振って見つめ合った。

部屋に戻りテレビのニュースをチェックし、CSのミュージック専門チャンネルを流し見しつつ、昨夜の残りのマイヤーズを冷蔵庫から取り出した。服を脱ぎ腰からグロックを取り出して半露天の風呂に持ち込み、夜の湖を眺めながらゆっくりと浸かっていた。

小一時間するとノックが二回。

バスタオルを巻きドアを開けると玲子が立っていた。玲子は無言で中に入ってきた。

黒澤『飲み過ぎたんでしょ?もう大丈夫?』

玲子『真由にはまだ言えなかった事があるんだけど、黒澤には話しておきたくて。』

黒澤『真由さんに近付いたのが会長きっかけでも、その後は父親の社長と玲子さんの義父である管野の指示で監視してたんだろう?』

玲子『やっぱりそう思ってたんだ?』

黒澤『足跡消しても的確に奴等が追ってくるからね。』

玲子『その事も言っておきたいの。私が教えてた訳じゃないのよ。信じて。』

黒澤『移動中は休憩する度に人の注目集めるような真似するから、わざと周りに印象付けして、追っ手が聞き込みしやすいようにしてるのかと。』

玲子『ごめん。あれは素。』

黒澤『じゃぁ何でだと思う。』

玲子『それなんだけど、アタシが格闘技やってたのは話したでしょ?やってると時々怪我もするから、あちこちに怪我の痕があるんだけど、記憶に無い傷痕があるの。』

左腕を上げたまま脇を見せる。

確かに腕の内側に小さな傷痕と、その先にカプセル大の痼がある。

玲子『ただの脂肪球かと思ってたんだけど…』

黒澤『これってペットとかに使うチップ…』

玲子『アタシなりに考えたんだけど、そうとしか思いつかない。海外でペット用のチップ改造してGPS機能が付いたものを開発してるの聞きました。日本ではただの迷子札の機能でしかありませんけど、海外の違法品ならありえますから。』

黒澤『それでどうする?』

玲子『外せないなら、私はここで離脱します。』

黒澤『外す?相当痛いよ?』

玲子『女は痛みに強いのよ。』

黒澤『真由さんには言ってないんだよね?』

玲子『うん。今はぐっすり寝てるから。』

黒澤『んじゃ準備する。』

備え付けの電話でフロントを呼び出す。

黒澤『夜遅くにすみません。ほろ酔いでお風呂入ったらグラス割っちゃって少し指切ったんです。お風呂上がりなんでお手数かけますけど、救急箱お借り出来ませんか?…はい。それだけあればじゅうぶんです。』

電話をきる。

グラスを袋に入れて軽くテーブルの端を叩く。綺麗に割れてくれた。

ベッドの上にビニール袋を切り開いて何枚か敷いておく。

ノックが聞こえた。

コンシェルジュ『お持ちしました。治療のお手伝い致しましょうか?』

黒澤『連れが来てくれたから大丈夫。それよりもタオルに血を付けちゃった。ごめんね。それと割れたグラス。』

コンシェルジュ『タオルの件は結構でございます。それではお大事に。失礼致します。』

グラスの入った袋を預り、丁寧なお辞儀をして部屋から出る。

リュックからトーチとナイフとネイルケアセットから毛抜きを、そして手持ちのピルケースからクラビットを取り出す。

黒澤『気休めだけど、術後感染症予防に抗生剤飲んどいて。』と、先ほど取り出した錠剤を渡す。

トーチでナイフと毛抜きを焙り簡易敵に殺菌。タオルも焦がさない程度に炙る。裁縫針をトーチで炙りながら、ラジオペンチで曲げておき、冷めた所で1番細い釣糸を通しておく。カップソーサーに針を乗せて救急箱から小さな消毒液の出るスプレーでじゅうぶんに吹き掛けておく。準備OK。

常に持ち歩いてるプラスチック手袋を嵌めて、マイヤーズで手を洗う。

黒澤『すごく勿体無い…。』

玲子『終わったらご褒美あげるから♪』

そう言い残しバスタオルの端を噛み、ビニール袋の上に簡易的に殺菌したタオルを敷き、その上に静かに腕を置き横になる。

覚悟を決めカプセルを左手で摘まみあげ、皮膚の1番薄そうな所に持ち上げた。

黒澤『行くよー…。』

玲子『!』一瞬震えるが声もあげる事無くじっとしている。

太い血管は避けたつもりだが、毛細血管が多いせいか出血も思っていた以上にある。そのおかげかカプセルがヌルッと飛び出して来た。ビニールの上に落ちたのを確認し、裁縫始める。針が血で滑る。毛抜きで針の先を摘まんで引く。皮膚が余り持ち上がらない程度に糸を縛りカット。縫い目の隣をもう一針縫合した。

傷の上に消毒液の出るスプレーを吹き掛けて生理用ナプキンを貼り、救急箱から包帯を取って巻き始める。

黒澤『終わったよ。それ貰ってい?』

カプセルを指差し訪ねる。

玲子『壊さないの?』

黒澤『使いようがあるからね。』

水洗いし、アルミホイルで包んでおく。

新しいTシャツを切り三角巾代わりにして礼子の腕を吊る。

黒澤『なるべく動かさないようにね。それとちょっと出掛けてくるよ。』

言い残してカードキーを持ち部屋を出た。

barに戻り、迷惑かけたとギャルソンに詫びを入れ、カウンターに座った。閉店時間間際なので一杯だけ頼んだ。

黒澤『遅くに来てごめんね。ターキーのマスターズキープをダブル。ロックでね。チャームもチェイサーも要らないから。』

ギャルソン『承知しました。』

黒澤『さっき来た時に気付いたんだけど、親指内側にタコ出来てるよね?バイク乗るの?』

ギャルソン『はい。若い頃はレースに出たりもしてました。』

黒澤『私もモンスター900乗ってるんですよ。君は?』

ギャルソン『何台かあるんですが、今日はRZV500乗ってきました。』

黒澤『☆マジ!?すごいねぇ♪私も元はヤマハ党でRZやTZRを何台か乗り継いで来たんですよ。本音は2スト乗りたいんだけどねぇ♪いいなぁ♪』

散々持ち上げると、営業スマイルでは無い本当の笑顔が見えた。

黒澤『ホントは乗せてって言いたいとこだけど、飲んでるからそれは言えないんで、1つ頼みごと頼まれてくれないかな?』

ギャルソン『どのような事でしょうか?』

アルミホイルの包みを広げて見せ、どういう物か簡単に説明する。もちろん深い事情は話さない。説明を終えまた包む。

黒澤『これを出来るだけ遠くのゴミ箱か、山の中にでも捨てて来て欲しいんだ。もちろんお礼はするから。』と一万円差し出した。

彼は親指と人差し指を擦る動作をして、うんとは言わなかった。もう1枚足す。そっぽを向かれる。もう1枚足した。

ギャルソン『喜んでお受け致します。今夜仕事終わりにこのまま海を渡って北にツーリング行く予定でしたので、しばらく私が持って歩きましょう。』

黒澤『すごく助かる!でも危険が及ばないとも限らないから、適当なとこで捨てて下さい。』

ギャルソン『本気で逃げたら普通の車じゃ追い付けませんよ。だから大丈夫です。もちろんこの事は口外しませんから安心して下さい。』

黒澤『ホント助かるよ。』

グラスの中の酒を飲み干し、握手をして再度礼を言ってbarを出た。


部屋に戻るとまだ玲子がまだ居た。

黒澤『戻って寝なくて大丈夫?』

玲子『片付けもしてなかったし、ご褒美もまだあげてないから。』

黒澤『痛いでしょう?安静にしてないと化膿するよ?あっ☆そう言えば、痛み止め要る?』

玲子『痛み止めより、こっちがいい。』

ぶつけるように体を預けて来た。そのまま唇を重ねる。

黒澤『血流良くなると後から痛くなるよ。』

玲子『平気だって。それよりもご褒美でしょ。アタシも頑張ったんだから、アタシにもご褒美貰わないと。』

黒澤『解った。そこまで言われちゃうと私ももう我慢出来ないから。』

真由を抱き上げてベッドへと静かに降ろし、すぐさま唇を舌でこじ開ける。彼女もレスポンス早く対応してきた。舌を絡めながら右手で私のベルトを外し、ボタンフライのジーンズを前を器用に一気に開いて、手を入れて握りしめてきた。私も玲子の衣服を剥ぎ取りにかかる。

秘部が露になった。

指を滑らす。

優しく撫でるだけでどんどん溢れ流れてきた。

すでにじゅうぶんな程にお互いの準備は整っていた。

玲子『ねぇ…こっちも好きなんでしょう?』

玲子は私の手を取って、触れていた部分よりさらに奥へと導いた。

溢れ出た愛液が潤滑油となり後ろの穴はすんなりと指先を受け入れた。

玲子『貴方のこっちにちょうだい…』

黒澤『まずはこっちが先だよ。』

玲子の膝の間に割って入りいきり立つ分身を秘部にあてがい一気に腰を進めた。

玲子『あふぅ〜はぁ~はぁ…。』

黒澤『ガンガン行くよ。』

玲子『きてぇ~!』

ホントはあまり負担かけたくは無いのだが、長期戦でスタミナ奪うより、短期戦で満足してあげさせたらとひたすら呼吸が続く限り突きまくった。

玲子が何度か絶頂を迎えていたが、私も覚えたての若い頃のように果てた後も抜かずに動き続け、三連発を試みたが呼吸が続かなかった。

動きを止め息を整えながら静かに抜き取った。秘部から二人のカクテルが溢れ出てきた。私のモノで掬いあげてまんべんなく塗りこみお尻の穴にあてがう。

黒澤『いい?』

玲子『始めはゆっくりお願い。慣れるまで…。』

黒澤『俺も初めてじゃないから解ってるよ。』

玲子『初めて俺って言ったの聞いた…あっ…久しぶり…こっちの…いぃ…。』

黒澤『照れるから変なとこ突っ込むなよ。』

玲子『…変なと…こに…突っ込んで…んのは…あっ…貴方の方でしょ?…あ~ぁ!』

黒澤『そんな事言ってる余裕あるなら、根元まで挿れて激しくいくよ!』

返事を待たずケイデンスを上げ徐々にスピードを増して行く。水溜まりに嵌まった後で歩いてる時の靴の音に似てる。ぐちゅっとか、くちゃっとか。

ぐちゃぐちゃになって溢れる出るカクテル。

傷付いた腕のある方を上になるよう横向きにさせ、腰骨を抑えて深く何度もえぐる。数回目にしてようやく玲子の限界が見えて来た。

玲子『はぁっ、はぁっ、ひぃ~…。』

今度は玲子を自分のあぐらの上に座らせるようにし、下からよりいっそう突き上げる。

玲子『いやぁ~もぉ~だめぇ~イキ過ぎて変になるぅぅ~!』

自分ももう色んな意味で限界が来た。果てる瞬間に吸っていた乳首に歯を立て甘噛みをする。

玲子『!』

玲子の体が一瞬軽く跳ね上がり、そのまま私に体重を預け倒れ込んできた。荒い呼吸が時々途切れたが、深く息を吐き出しそのまま動かなくなった。

そのままベッドに寝かしつけ、私はフラフラしながら何とか半露天の風呂へ身を投じた。

ボーッと外を眺めてると玲子の意識が戻り、シャワーで汗を流しに洗い場にやってきた。

流すのを手伝ってあげたが、その間私の愚息はお利口さんに行儀良くしてくれてた。

【さすがにもう反応しないか…】

玲子『部屋に戻るね。』

黒澤『あぁ…一人で戻れる?』

玲子『大丈夫よ。』

黒澤『フラフラして転んだりぶつけたりして傷口にダメージ与えないでね。』

玲子『大丈夫だってば。色々黒澤に押し付けてアタシ達より大変なんだから、少しでも寝られるだけ寝てね。』

思ったよりもしっかりした足取りで部屋を出て行った。

黒澤『ホントに寝ないと。』独り言を呟きシャワーを浴槽を出て浴びてから体を拭いた。

ベッドに潜り込むと瞬殺で睡魔にやられた。


玲子は一旦エレベーターを下り自販機で缶ビールを買い部屋に戻った。部屋の前で深く深呼吸する。

静かにドアを開けると灯りが点いていた。

玲子『ごめん。起こしちゃってた?』

真由『ん…黒澤さんのとこ行ってたの?』

玲子『ホントは散歩して帰りコレって言い訳しようと思ったんだけどね。』ビールを顔の横で何度か小さく横に振って答えた。

真由『…そか…てゆーか!?その包帯どうしたの!?』

玲子『もう隠し事したくないから正直に話すね。発信器埋め込まれてたの。私のせいで真由が危険な目に遭ってた。黒澤と話してそれに気付いたんだけどね。だからその場で取り出して貰った。』

真由『えぇ!?女の子の体なのに傷残ったら大変でしょ!?』

玲子『気にするのはそっち?』

真由『大事な事よ!』

真由は駆け寄り玲子を抱き締めた。

真由『ホント…大事な事…私にとっては玲子は大切な人なのよ。』

玲子の胸に涙の水滴が滲んだ。

玲子『ごめん。』

真由『無茶しないで。』

玲子『私が要求したご褒美を黒澤がOKしたから、それに目が眩んで少しだけ頑張りました(笑)』

痛い方の腕を上げて真由の頭を撫でながらおどけた回答をする。

真由は涙を拭い顔を起こして怒ったふりで玲子を見つめる。

真由『へぇ~。何をしてたのかしらねぇ。』

玲子『へっへっへ(笑)』

真由『そんな事よりアルコールはダメよ。』

手からビールを奪い取る。

玲子『あぁ~!』

真由『没収♪』玲子の顔に向けて缶の蓋を開ける。

玲子『うわっ!』飛散したビールの飛沫に目潰しをくらう。

顔を拭ってる間に真由は一気に飲み干した。顔の横で空いた缶を小刻みに振る。

真由『ご馳走さま。寝ましょ?(笑)』

笑顔でベッドへとエスコートする素振りをしてみせた。

玲子『ビールの怨みを抱いてビール三昧の夢を見る事にするゎ。』怒ったふりで真由の額を小突いた。

ベッドに入ると玲子も瞬殺だった。

真由はテラスに出て外を眺めていると、1台のバイクが甲高い音をたてて、私達がやってきた方角にすごい勢いで走り去って行った。

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