第2話33R
いつの間にか眠っていた。川の字でそのまま寝てたようだ。二人の寝息が胸元に吹きかかり、寝返りもうてない程に寄り添い足も絡み付いてる。寝息で揺れる真由の髪の毛が擽ったくて目覚めたが、時計を見るとすでに11時だ。
黒澤『そろそろ起きて出掛けよう。』
玲子『おはよ。』
真由『おはようございます。』
3人でシャワーを浴びに向かおうとしかけたが、何やら股間が反応しかけたので先に済ませるように二人に促す。
黒澤『女性の方が朝の準備に時間要するだろうから、先にシャワーしておいで。』
真由『ん。』
答えるのと同時に玲子は唇を寄せて来た。それに答えると、すぐさま真由も要求。もちろん同じように唇を重ね送り出す。
その間にテレビを点け、ネットニュースもスマホで漁る。
二人に関連性があるニュースは今のところところ無さそうだ。
さらに検索を進めると、地方紙のニュースに真由の祖父の執事と秘書の事故が載って居た。不可解な事が多く単なる事故で処理出来ず捜査中との事が記載されていた。
知り合いの記者にどういう事か調べて貰えるようにメールしておいた。
すぐに電話がなる。
記者『久しぶりに連絡来たと思ったらなぁに?この事件に何で興味あるの?』
黒澤『事件?事故じゃなかったんだ?』
記者『K察サイドは表向きは事故で済ませたいらしいけど、政治が働いて再調査したら亡くなった二人に縛られた痕とか、打撲傷が見付かったらしいの。でも動かした政治力の指示でK察も発表しない方向で行くんだって。』
黒澤『てか、その情報収集力は相変わらずすげーな。』
記者『そんな事よりたまには顔見せに来てよ。お父さん。』
黒澤『あー…そのうちな。』
記者『またそんな返事。今のうちに会うのに慣れておかないと孫も抱けなくなるんだから(笑)』
黒澤『え!?そんな予定あんのか!?有希!?』
有希『今は無いゎよ。あちこち合コン顔出して、情報収集の為のネットワーク拡げるので忙しくて。』
黒澤『って事はK察屋さんとの合コン情報だったのね(笑)』
有希『ばれた?(笑)』
黒澤『そのうち会いに行くから、あまり危ない事はするなよ。』
有希『うん。』
黒澤『じゃーな。』
有希『待ってるからね。』
電話を切ると髪の毛を拭きながら背後に二人が立って居た。
玲子『奥さん?恋人?ゆうきさんって。』
真由『当然、そういう人の一人や二人居ますよね。』
何とも不機嫌そうに声をかけてきた。
黒澤『娘だよ。』
真由&玲子『娘➰ーー!!』
黒澤『20年近く前に離婚して、それからは1度しか会ってない。大人になってから震災がきっかけで連絡取り合うようにはなったんだが、再会した時自分の娘なのに恋をしそうになったよ。いとおしくて仕方がなかった。もちろん父親だから恋心とは違うとすぐに気付けたが。』
玲子『そんな大きな子がいたのね。全然見えん。落ち着きはあるけど、遊び人の風体してるし(笑)』
真由『ちょい悪とかを地でいってる感じあるもんね。』
黒澤『…シャワーしてくる…』
何と無く余計な話題提供した事を後悔しつつバスルームに避難することにした。
スマホを手渡し、捨て台詞のように。
黒澤『すぐ出れるように準備しといてね。宿泊予定だったホテルにも連絡して荷物を自宅に送らせて。支払いの送金先も聞いておいて。』
シャワーをしてる最中、色んな事を後悔し始めた。
下心に負けて彼女達を逃がし、護衛役まで引き受け、さらに多額と思える手付金代わりの行為。
見えない力に引っ張られてるような感覚。いけないと脳内で警報が鳴ってるのに逆らえず、危険と快楽を同一線上で綱渡りを続ける感覚。
黒澤『何かヤバい事に首突っ込んじゃったなぉ…俺の手には余りそうな…はぁ~…』
ため息を吐きながらシャワーを終えて戻ると。
玲子『荷物は着払いで会社に送って貰った。部屋も式場の枠で取ってるから支払いの必要無いってさ♪』
黒澤『そーか。とりあえずどこに行くにしても美しい二人のその格好はいささか人目を惹きすぎる。着替え買いに行かないとね。』
玲子がおどけてモデルのようなポージングして見せる。
真由『美しいのお世辞は快くスルーさせて頂きますけど、着替えは必要ね。下着も替えたいし。』
真由の第一印象は控え目なお嬢様っぽいとこがあったが、実は案外活動的なタイプのようだ。言葉尻に遠慮が減ると、色々適格な発言をするようになってくる。
黒澤『とりあえずは銀行行って、着替え買いに行って、それから1度空港に行こう。身を隠す場所の相談もあるし、乗れる飛行機があるか調べないと。』
真由『そこなんだけど、このまま飛行機使わず陸路で車を使ってくのは?私達も免許あるし交代で運転出来るし。』
黒澤『って事は安全が確立出来る日まで同行しろって事?』
玲子『そういう事。報酬はたっぷり払うし、て言うか払ったけど(笑)』
黒澤『…やっぱりそうなるよねぇ(笑)』
私の愛想笑いに対して玲子が頬にキスをする。付いたルージュを指で拭って。
玲子『私達の準備は済んでるゎよ。行く?行かないの?』
真由はバッグを肩にかけて入り口に手をかけ振り向いて答えを待つ。
真由『お願い。』
玲子『また貴方の子供を捨てるのねぇ!』下腹部に手を当て、シャレになんないジョークをぶつけてくる。
黒澤『無事に皆助かって全部片付いたらお前だけは脅迫罪で訴えるからな。』
玲子のケツをいい音が鳴るように軽く叩き。微笑みを二人に向けながら入り口に向かう。
玲子『やん♪』
真由『ありがとう♪』
真由も先程の玲子がした側の反対の頬にキスをした。拭き取らずに。
真由『契約の捺印代わりに付けといて。』
二人の意地悪な表情が可愛過ぎる。微笑み返して頬擦りして消してやった。
真由『化粧崩れるー!』
突き放すように逃げる真由を見て玲子は笑って居た。
精算機で支払い済ませながら。
黒澤『化粧直しは車でして。安全を確認してくるから、少しここで二人とも待機。』
玲子『ぶぅラジャー♪』と相変わらずおどけて敬礼する。
真由『はい。』真由は真剣な面持ちに変わり同じように敬礼する。
どこまで本気か読めない二人に楽しさと、興味が尽きなくなってきた。
これはいけないと警報が鳴る方向にどんどん進んでる気がしてならない。
周囲を警戒しつつ外に出て様子を伺う。ボルボのエンジンをかけ、徒歩でゲートまで向かい通りの様子を観察していると、車高の下がった型落ちのセルシオとフーガ。いかにもな外観は張り込みには向かない。なぜ居場所がバレたのか解らないが、もう1台濃い目のスモークを張り付けたヴェルファイアがやってきた。タイミング的に少々遅かったが、出るなら今しか無い。
急いで部屋に戻り二人に急いで車に乗るように促し、静かに車を進ませる。ゲートを出た瞬間にアクセルを床まで踏みつける。
すると段取りの相談する為に車外に出てた男達は慌てて車に戻る。勇敢に行く手を遮ろうと前に出て来る者も居た。そんなのは無視して速度は落とさない。諦めた男はすぐさま車に戻り進行方向を変えるべく走らせるが、3台同時に同じ動きを始めたから、軽く渋滞してる。
バックミラーで彼等の行動を確認しつつ、彼等の車が体勢を立て直す前にすでにボルボのバックミラーには映る事は無くなっていた。
電話に着信履歴がある事に気付いた。
そこそこの交通量はあるものの市街地に向け爆走を続けた。着信履歴の主はやはり吉田だった。
かけ直す。
ほとんど待つことなく電話に出た。
吉田『今朝お巡りさん来たから、ボルボは知らぬ間に無くなってたって事で盗難届出した。なんで車載のセキュリティGPSを追ってるはずだから乗り捨てて。』
それだけ言って一方的に電話は切れた。
街中の大きめの銀行の駐車場に入れる前に二人を降ろし、一人で駐車場に向かう。防犯カメラに写りやすい位置に車を停めて銀行の向かい側にあるコンビニに入る。
二人が銀行から出て来るのを確認してからコンビニを出て二人を呼んだ。
距離をつめる事無く距離を保ったままとりあえず駅の方向に歩く。タクシーを拾い彼女達を待つ。その間に知り合いの自動車ブローカーに車の準備を依頼した。軽く事情話すと。
ブローカー『1つ貸しね♪ちょうどいいの知ってるから、そこに向かって。』と現在地からそんな離れて無い場所にある、中古車雑誌にも載ってる車屋を紹介された。
車屋に到着しタクシーを降りる際に運転手さんに1つお願いをする。
黒澤『私達の容姿等一切記憶から消してくれると嬉しいです。』
と一万円札を支払いとは別に握らせる。
運転手『どんなお客様にも失礼が無いよう一切風貌の観察したりは致しません。』と、にっこり満面の笑みで支払いとは別の一万円は内ポケットに閉まった。
紹介受けた旨を担当者に話すと展示場では無く事務所の裏手の車庫に案内された。所謂金融車らしいのだが、今時の若者はスポーツカー離れが進み、チューニングカーは中々売れなくて困ってたらしい。本来なら二束三文で譲り受けたいとこだが、足元見られて安くない買い物するはめになった。R33のGT-R。心情的には32が好きだ。しかし長距離の運転もありえる。少しでも広くてホイールベースの長いこっちの方が多少は楽かも知れない。
担当者『名義変更は出来ないけど、税金も車検もOKだから乗ってって♪』
こんな立派な店を構えてても、チンピラな店はまだあるんだなと、蔑み半分感謝半分で握手し乗り込んだ。
黒澤『それじゃ…。』
担当者『お互いに知らない。関わって無いって事で。サービスで天ぷらナンバーとダミー封印も積んどいたよ。次は店頭の車で知り合いになりましょう。』と営業スマイルをぶつけてきた。
それに対して真由と玲子の笑顔の倍返し。
真由&玲子『ありがとうございました。』
有り難いことにガソリンは満タン。次の目的地まで給油の手間が省ける。
着替えを確保するべくさらに隣街の大きめのショッピングモールへ。
地下や屋上の駐車場は使わず、入り口から1番近い空きスペースに車を停める。
黒澤『好きなの買って来て。ただし携帯はこのまま電源落として置いて。カードも使ったら駄目。万が一に備えて現金以外全部財布から取り出して一纏めにして置いてって。』
玲子『気になってたんどけど、私達は結構ヤバ目な状況なの?』
黒澤『相手の目的はともかく、どんな敵で規模や本気度もまだ予測出来て無いから、念には念をってやつですよ。一応動きの形跡が残りそうな行動は極力控えて、GPSやICチップなどの記録からは遠ざけて行動しとくのが無難でしょう。』
玲子の質問に真由に向かって答えた。
黒澤『きっとすでにさっきまで乗って居たボルボも回収されてると思います。』
真由『…』
黒澤『現段階の憶測ですが、どうやらK察屋さんにもコネクション持ってるようなので、これからは本気の追いかけっこになるかと思います。なので、目立たない動きやすい服装選んで頂けるのを薦めます。』
さすがの玲子も神妙な面持ちになり真由の背中に手を添えた。
黒澤『さっ♪とにかく急いで着替え済ませましょう。真由さんの下着だけは私が回収しますので廃棄しないように(笑)』
玲子『てめー!』
玲子の水平チョップが額に当たる。
黒澤『ぃてっ!』
玲子『アタシのかぶっておけ!』
玲子は器用にイブニングドレスの裾から下着を脱ぎ取り私に叩き付けてきた。
黒澤『とりあえず別行動になりますが、一時間後にはフードコートに居るようにして下さい(笑)』
真由『了解です。』
玲子『おけ♪』
二人揃って敬礼してみせる。私も敬礼を返し運転席シートを前に倒してエスコートしながら二人を降ろす。
ドアロックし無言で店内に向かい二手に別れる。
私は下着類だけ買い揃え、キャンプ用品求めてスポーツ用品店へ。
大きめの登山用リュックに入る分だけ色々買い揃えて、一旦車に荷物を置き待ち合わせ場所のフードコートに向かう。するとすでに二人は到着していて、目の前には珈琲とドーナツが置かれて居た。私もミラノサンドと珈琲を購入し、真由が座る席の背中合わせの椅子に腰を降ろした。
スマホを取り出し、着信やメールの確認とニュースのチェックをする。
現時点では特に気になる変化は無いようなので、吉田にLINEで礼を伝え、既読を待ってからポケットにしまう。
無言でサンドを食べ続け、珈琲を口に含む動作の流れで周囲を確認する。まだ尾行や追手の影は感じない。
大きめの最後の一口を放り込むとポケットの中のスマホが震えた。
吉田からLINEだ。
《お巡りさんから車見付かったって連絡あったよ。防犯カメラの面通し頼まれて、確認後に知り合いだから被害届も出さないって言ったけど、別件の参考人だから身元教えろって言われたよ。一応定期的に来る客で名前しか知らないで終わらせた。何かヤバい事に巻き込まれてるっぽいね。がむばって🖤》
返信せず電源を切った。
どうやらすでに俺もマークされてるかぁ…。
口の中の残りを珈琲で流し込み、食器を片付けるべく立ち上がる。
小声で独り言のように伝える。
黒澤『も少ししたら車に向かって。距離を保って後ろから着いてく。』
私は駐車場とは逆の方向に歩き、さほど興味は無いが雑貨店の店頭の商品を手に取り、周囲を警戒しながらタイミングを待つ。
真由は一瞬こちらに視線を送り立ち上がった。フードコートを出る辺りで手に持った商品を元に戻し後を追う。
とりあえず彼女達を尾行する者も、私をつけてくる者も居ない。外に出たと同時に小走りで車に向かい合流。彼女達はそれぞれキャップとサングラスをかけていた。はっきり言って似合う。似合い過ぎると逆に人目を惹き付ける。変装は必要だが…まぁ今は良しとしておこう。
彼女達を追い越して車に異変が無いか外周を一回りチェックし、下廻りも確認しておく。少なくとも目視出来る範囲には異変は無い。鍵を開けトランクフードを持ち上げると同時に彼女達も到着。
二人の荷物をトランクに仕舞い、車に乗り込みエンジンをかける。
黒澤『さぁてと。行きますか。』
玲子『どこに行こ?』
黒澤『海はまだ寒いから山にしますか?緑が濃くていい感じですよ。』
真由『お任せします。』
玲子『任せた♪元気良く行ってみよー♪』
黒澤『夕方までには宿決める方向で、観光地メインで山走ります。玲子さんは転ばないように一生懸命走って着いて来て下さい。』
玲子『大丈夫。泣かないで一人でオッキ出来るよ。』
後ろからチョークスリーパー。
タップして離して貰い、重いクラッチを踏み込みギアをローに入れる。アクセルは踏まずにゆっくりと繋ぐ。静かに進む。すぐにクラッチを踏みセカンド。アクセルはまだ踏まずに足を乗せてるだけ。わざとステアリングを大きく切り込む。ブレーキがかかったような減速。アクセルを柔らかく親指を曲げる抵当に踏む。速度が上がるがブレーキがかかってる感覚。ステアリングを戻すとアクセル操作しなくても加速する。
LSDが結構強目に効く。追加メーターもいくつか備わっている。グローブボックスを開けると、キャンプ用コンロのツマミのようなダイアルがある。最近は電子制御が主流だが、この車は機械式のブーストコントローラー。VVCが付いている。他にはトルクスプリットコントローラー。F-conやら燃調マップコントローラーやら中々お金がかかってる。時代が時代ならかなりのお買い得とも取れる車だった事に気付く。
目的地に設定した湖がある観光地までの道程で、ブーストのリミットを下げて調整し、トルクスプリットコントローラーも0:100にする。
まぁ簡単に言うとエンジンの力の限界を低くして、四駆をオフにしたって事です。
速くは走れないけど、少しだけ山道遊ぼうかとイタズラしやすいセッティングに変えた訳だ。
市街地から離れ峠道に入る。
黒澤『尾行の確認する為に一瞬だけスピード出すから、しっかり掴まっててね。』
真由『はい。』
玲子『OK♪』
アクセルを静かに踏み、コーナーに向かう。いつまでもなかなか減速しない私に叫び声。
玲子『おい!おい!おい!おーい!!』
コーナー手前でステアリングで軽く荷重移動しきっかけ作り、すぐさまクラッチ蹴りあげる。後輪が空回りし後部が流れ始める。ステアリングを逆側に切り込みアクセルを調整し横向きをキープ。
玲子『ギャー!!!』
真由『…!』
次のコーナー手前でアクセルを抜き、勢い良く車体が逆側に修正しようと力が働き、それをきっかけにしてまたアクセル踏みながら逆にステアリングを切る。今度は逆方向に滑り横向きで走る。
三つ目のコーナーで玲子の声は無くなった。
ふとトランクの荷物の事を思い出し、ドリフト自慢は早々に止めた。
そのまま何も言わず道の駅があったので休憩に入る。
真由は声には出さないが笑い顔で固まって居た。玲子は少し顔色が良くない気がする。
黒澤『トイレ済ませておこうか。』
真由『…!はい。』
意識飛んでたのか?
玲子『…。』
無言で頷く。
車を降りた直後に青く見えた玲子の顔色が赤く変わる。
玲子『こえーよ!ボケぇ!!』
開口一発私の尻に鞭のような回し蹴りが振り下ろされる。フルコンタクトルール経験者の蹴りだ。寸止めルールは速度が優先。フルコンタクトはダメージ優先なので軌道が違う。
一瞬膝を付きそうになる程に痛いが、言い訳しながら距離を取る。
黒澤『終始飛ばせってスピード強要してたの玲子さんじゃん!』
こちらも手刀を立て猫足気味に防衛体勢を取る。
玲子『限度っつーもんがあるべ!』
二人で間合いを計り、お互いの制空権を探り合う。
真由『目立ってるからその辺にして。宿決まったら好きなだけ殴るなり蹴るなりやりあっていいから。』
普段より低いトーンで割って入ってきた。
玲子『負けたことがあるというのが、いつか大きな財産になる…。』
黒澤『堂本監督…てか、負けてねーし!』
玲子『このセリフに即座に対応するとはさすがだな♪』
黒澤『当たり前だ。でも負けてねーし!』
玲子『さぁトイレ行くぞ。泣き止め。』
肩を組んできた。
黒澤『負けてねーし!泣いてもいねーし!』
天をあおぎながらトイレまでの道を共に歩んだ。
その後を真由がため息を吐きながら続いた。
キーシリンダーでは無くリモコンでドアロック。懐かしいバイパーのセキュリティロック音が響いた。玲子が女子トイレに向かう。私は男子トイレへと進行方向を変える、その隙に真由を止め耳元で口を近付ける。
黒澤『ちょっと玲子さん抜きで聞きたい事があるから後で少し時間下さい。』
返事も聞かずに男子トイレに入る。
とっとと済ませ、お土産や産直の棚を物色する。ソフトクリームを買ってテーブルのあるスペースで椅子に腰掛け二人を待っていると、後方より人の気配がした。
ソフトクリームに勢い良くかぶりつこうと玲子が襲い掛かるが、視界に入るより先にソフトクリームは回避。つんのめる玲子の額を空いてる方の指先で支える。
黒澤『惜しかったね。』
コーンギリギリまで一気にソフトクリームを頬張る。
口を尖らせたまま隣に腰掛ける。
玲子『けち!』
黒澤『けちじゃねーし♪』
真由『あなた達兄妹?昨日知り合ったばかりとは思えないんだけど。』
またため息吐きながら両手にソフトクリームを持った真由がやってきた。
1つを玲子に渡し、自分は向かい側の席に座る。
黒澤『ホントの妹は清楚で賢くて美しくて、それはもう村1番で評判の…』
玲子『アタシとの違いは村1番か世界一の違いね。』
黒澤『…』
ソフトクリームを持った玲子の手をロックし、一口奪い取る。
玲子『あ"~~~~ぁ!!』
真由『二人ともいい加減にしないとずっと注目のマトのままなんですけど。』
黒澤&玲子『ごめんなさい。』
二人でテーブルに額を擦り付ける。
真由『何なの?その異常なまでの呼吸の合い方は?』
真由はソフトクリームをスプーンで掬って食べる派か。
解ってないな。
舌や唇を駆使してコーンの隅まで行き渡るように押し気味に食べるから最後まで美味しいのに。って言ってもそこに行き渡る前に完食しちゃうけど。
やれやれと言った表情で隣を向くと玲子も同じ表情してる。
玲子『スプーンって…はぁ~。』
黒澤『ねぇ~…。』
真由『好きに食べさせてよ!』
一瞬の間を置いて3人で声を出して笑う。
下らないやりとりを続けながら真由がソフトクリームを食べ終わるのを待ち、観光マップにある宿に公衆電話で電話をかける。どうせなので湖に面した景観の良さげな順番で空き部屋の確認をしたが、なかな良い返事は無く、4件目でようやく家族向けでは無い部屋にエクストラベッドを置く方向で構わなければとの回答が得られた。それならば空いてる部屋は二部屋無いかと聞いたところ、フロア違いでも構わないなら用意可能だと。この辺が手の打ち所だろうとOKし予約しておいた。
宿が決まった旨を伝え、私が車に乗るの確認したら出ておいでと屋内に待機させ一人で車に向かう。
外周チェック。下廻りチェック。異常無し。リモコンでロック解錠。バイパーの音が鳴る。ドアを開けボンネットオープナーを引く。基本的に大きな改造はしてないようだ。吸排気、パイピング、インタークーラー、ブローオフバルブ、ヘッドとタイベルのカバーの色が変わってる。OS技研のステッカーまで貼ってる。軽く確認しバイパーの開閉音が鳴らないように電子音に繋がる配線を抜いてボンネットを閉じる。
車内に乗り込むと間も無く二人が助手席側から乗り込んで来た。
トルクスプリットコントローラーの設定を戻しスタートした。途端に目の前を塞ぐように
、見覚えのある余り品のよろしくないセルシオが行く手を阻む。このまま逃げても追い付いてこれないはずなのだが、なぜ居場所がバレてるのか疑問も感じた。見た所後部座席に人は乗ってない。周りに仲間の車もまだ到着していない。ゆっくりバックして駐車場のラインに合わせて車を戻しエンジンを切った。
黒澤『出たら駄目だよ。歳も歳だからすぐ済ませられるか自信無いけど、ちょっと待ってて。』
車を降りてドアロックし、男達の車に背を向けてトイレのある建物の脇にある遊歩道を林の中へ歩いて行く。ちゃんと着いてきた。
とりあえず人気の無い所で振り返り声をかける。
黒澤『君達、菅野組のコでしょ?何か用?』
…『何でそれを?』
男達は身元が割れてる事にびっくりした様子で顔を合わせ、すぐ私に威嚇する姿勢を取る。
黒澤『確か、え~と…君が高橋君だったっけ?』
佐々木『佐々木だ!』
黒澤『あ!そーだった、そーだった。ごめん。勘違い。んで、君がえ~と…。』
…『…』
黒澤『…ほら…え~と…。』
…『…』
黒澤『あ~…あれ!ほら!』
藤村『藤村だって!』
黒澤『そーだった☆そーだった☆』
藤村が安心した表情を見せる。
今から隠密で襲い掛かろうとしてる相手に自己紹介してくれる間抜けなコンビ。
黒澤『んで通りすがりのエキストラAとBが何の用?』
佐々木『てめー!』
問題無用って事らしい。いきなり殴りかかって来た。その伸ばして来た手を掴み引き寄せながらバックステップ。よろける所で体の向きを変えて軽く足払いしてやった。
綺麗に転がってくれた。それを見ていた藤村は、胸ポケットからバタフライナイフを取り出してナイフアクションを披露してみせた。
一通り済むのを待って手首を狙いナイフを蹴り落とし、返す踵で顎を狙う。軸足の筋力不足でよろけたので振り上げた足を一旦着地させた後に腰を入れての回し蹴り。上足底でこめかみ狙った。そのまま藤村は膝を付き顔面から地面に突っ伏した。ノックアウト確認したので振り返り佐々木に踏み寄る。うつ伏せから起き上がろとしてる手を蹴って払い、肘に膝を置き小指と薬指を握り締め反る。髪の毛掴んで引き起こし。優しく聞いてみる。
黒澤『雇い主の狙いを素直に言ってくれるなら、もう痛い思いはしなくて済むし、言った所でその事実知るのは私と佐々木君だけだよ。どうする?頑張ると相撲取る時にマワシに指かけらんなくなっちゃうよ。』
佐々木『もちろん。何でもすぐ話しますので何なりと。』
昔の任侠映画や刑事ドラマとは訳が違う。今時の若いもんは職場や上司に義理を感じたりはしない。
必要な情報で佐々木が知る限りの事を聞き出した。
黒澤『ありがとう。痛い思いさせてごめんね。』
指から手を離して上から腕を絡めロックし、髪の毛から離した手を喉元に滑らし体重を乗せ、そのまま両手の指をかけて絞る。チキンウィングフェイスロックを頬骨じゃなく、頸動脈にかける。10秒かからずに佐々木の体から力が抜けた。遊歩道から少し離れた所まで二人を引きずり、適当な木に背中合わせでもたれかけさせ、佐々木と藤村のお互いの親指をポケットから取り出した結束バンドで縛っておく。
落ちてたナイフを拾い、畳んで藤村の内ポケットに閉まってあげる。
佐々木から聞き出せた内容から推測すると、黒幕はどうやら真由の父親だ。
祖父は財産を真由に相続させたいらしいが、父親が菅野と結託し奪おうという算段のようだ。
まだ腑に落ちないとこも多々ある。
私と出会った街は地元ではなく大学時代に居た街。
なのに菅野組に追われてる。
真由達の住む街まで450キロ離れてるのに、縁談の候補として父親が紹介。
そもそもどうやって今の俺達の居場所が解った?
そしてやはりK察も一枚岩では無かった。私達を追うのに協力してるのは菅野組から甘い汁を吸ってるヤツが居て、それは数人のグループらしい。とは言え、所属も名前も解らない以上、全てのK察は頼れないと思って居た方がいい。
駐車場に歩き出して思いついた。
スマホの電源を入れ、有希にメールを入れる。大学の同窓会名簿に二人の名前があるか。あったら出身校や解る限りの情報収集してくれと。電源を切って歩く速度をあげる。
車が見えるとこまで来た。
真由と玲子が振り返って私が来るのを待ち、見付けた途端に笑顔で手を振ってきた。
黒澤『ただいま。』
真由『おかえりなさい。』
玲子『遅かったね。』
黒澤『なかなか話し好きな若者で、帰してくんないのよ。』
玲子『まぁ怪我無くて何より。』
黒澤『フサフサだし!』
真由『…気にしてたのね…』
セルを回し、彼等の車の助手席側に並べる。鍵は付いたままでロックはされてなかった。
もっともこの手の車に乗るコは施錠の習慣があまり無かったりする。誰も近付かないから安心してる。
車を降りてセルシオのキーを回す。ナビの検索履歴や自宅等のチェック。
一通り物色し役に立ちそうな物が無いか、トランクも開けてみる。
ネットで固定されたスペースに麻雀牌のケースが2つ。違和感感じたので取り出して開けてみたら案の定のお宝発見。
グロックだ。17が好きだがこれは19。コンパクトモデルである19の方が実用性も高い。噂だとSATも採用してるとかしてないとか。
マガジンを取り出して残弾確認。スライドを操作し弾装に残った弾もマガジンに入れ直す。弾はしっかり15発ある。もう1つの箱を開ける。同じ重量のマガジンが4本。こちらは箱のまま頂いておこう。マガジンを銃に戻してセーフティを確認。
黒澤『戦争でもする気なのかしら?そもそもこんなもん仕入れて持ち歩かせる組織ってアホか。』と、独り言を言いながらも嬉々としてベルトの腰の位置に挿す。次元はここに挿してるが、絶対速打ち不向きだから。照星。フロントサイトと言われる銃の先に付いてる突起が引っ掛かって抜けない時がある。特に次元のコルトパイソン357マグナムはでかいし。ちなみに冴場のも同じ銃。
ガンホルスターは残念ながら無かった。工具箱から10-12のメガネレンチを見付けた。物色を止めてトランク開けたまボンネットを開ける。まずはドアロック。そしてスターターリレーを見付けて抜き取る。バッテリーからマイナスのターミナルを緩め外しておく。ボンネットを閉めてトランクに工具と部品と鍵を投げ入れ閉じる。合掌して自分の車に戻る。
真由『何してたんですか?』
黒澤『トレジャーハントとイタズラ♪』
玲子『何か見付けた?』
黒澤『麻雀牌♪』
真由『イタズラって?』
黒澤『映画やドラマならパンクさせるんだろうけど、パンクはタイヤ交換にお金かかって可哀想だから。それにランフラットなら意味無いし。だからエンジンかけられないように少し手まどるイタズラしといただけ♪』
玲子『そっか♪』ニヤリとした表現が似合う笑顔を私に向けた。
黒澤『さぁ宿に向かいますか。』
真由『はい。』
玲子『ドリフト禁止な!』
黒澤『…追手が来なければ。』ニヤリとした笑顔を玲子に向ける。
玲子『後ろからゲロシャンプーお見舞いすんぞ!』
黒澤『スカトロはまだ開眼してないんで、も少し極めてからお願いする日が来るかも。』
玲子『それだけでキモくて吐きそうだから止めて。』
真由『?』
何だか解らないが終始笑顔を崩さす微笑ましく見守る真由。
車をゆっくりスタートさせる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます