第14話 さて鬼退治の結末は

「“鬼討伐団”が帰って参りました」

 桃桜、犬上、猿島の3人は帝の前にて膝をつきました。

「面を上げよ」

 3人は一斉に顔を上げました。帝の後ろに控えている東宮と目が合い、桃桜は悪戯っぽく微笑みます。

「娘、そこにいる者はなんだ?」

「はっ、鬼ヶ島より捕えて参りました、鬼の大将にございます」

「捕えた? 余は退治して来いと申したはずだが?」

「いたずらに殺してしまっては、第2・第3の鬼が現れましょう。こうして捕え、改心させて世のために働かせるのも充分“退治”に値するかと……」

「なるほど……」

 帝は、笏をトントンと口元に当て、考え出しました。やがて、

「よかろう。鬼の大将よ、面を上げよ」

 ゆっくりと顔を上げた鬼響丸を見て、帝は息を呑みました。

「そなた……綺恭丸か……!」

「父上、兄をご存じなのですか?」

「中宮が亡くなる前に、話してくれたことがある。そうか、息災であったか」

 綺恭丸は、自分を見る帝の目尻に、キラリと光るものを見ました。

 そんな感動の出逢いを果たしている中、殿上人から、水を差す声が入りました。

「主上、その者をお許しになられるおつもりですか! 恐れながら、そこの者は、双子の片割れ。亡き中宮さまが生かしておいたがゆえに、この事態を招いたのではありませぬか!」

 そうだそうだと野次は飛ばないまでも、この意見に賛同するような空気が流れました。

「恐れながら!」

 桃桜の声は大きくはありませんでしたが、場を静まらせるには充分な響きがありました。

「私、鬼退治の褒美として、鬼響丸どのの父親としての認知、及び皇子としての認知をお願いしとう存じます!」

「何を云っている!」「田舎者に皇子としての勤めが果たせるわけがなかろう!」

「鬼響丸どのは、民と同じ正解をし、みなさま方には分からない実情を知っておられます。それを生かさぬ手はございません。双子の呪いだの迷信だのに踊らされるなど愚の骨頂! 世のために考えてこそ、真の為政者だと思いますが」

 桃桜はそこまで一気に云うと、肩でゼエゼエと息をつきました。

「……そなたは祖父の自由を望んではいなかったか?」

「構いません。そちらは別の機会にどうにかいたします!」

 桃桜らしい云い様に、成仁は思わず口元を緩めると、

「父上、お耳を」

と父に近寄り耳打ちしました。

「こたびの鬼退治には、私も行って参りました。最後に鬼響丸を倒したのも私でございます。その褒美として桃桜の祖父を自由にしていただきたく存じます」

「それでよいのか、成仁」

「は?」

「あの娘を東宮妃にしたいと望むかと思っておったのだが……」

「父上の力を借りずとも、自力で手に入れて見せますとも!」

 帝は、息子のいつになく自信のある口調にふっと笑いました。

「よかろう。桃桜、そなたの願いを聞き届けよう」

 晴れて鬼退治は円満に終わりを告げようとしていました。

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