第11話 いざ勝負!

 掛け声とともに躍り出た3人ではありましたが、手下が次々に向かってくるため、なかなか“ドン”には近づけません。みるみるうちに視界が鬼に覆われ、大将の姿は見えなくなりました。

「桃桜さん、このままでは埒が明きません。私と猿島さんで道を開きます。貴方は先へ!」

「でも……」

「いいから行くんだ。じいさんとばあさんを守るんだろ?」

「……分かりました!」

 猿島が自分の身体の2倍はある棍棒を力任せに地に叩きつけました。

 岩で出来た地面はピシッと音を立てると、鬼サイドの最後尾辺りまで真っ二つに大きく割れていきます。何人かは谷間へと落ちていきました。

 犬上は鬼が怯んだ隙を見逃さず、呪符を次々に投げつけていきます。特殊な墨で真言が書かれた符は、犬上が真言マントラを唱えると同時に眩いばかりに発光し、確実に鬼たちの視界を奪っていきました。

「桃桜さん、今です!」

 桃桜は大きく頷くと、後ろを振り返らずに駆け出しました。そのあとを音もなく黒い影が追いかけていきます。追い抜かれざま、犬上は声を掛けました。

「東宮さま、援護をお願いしますよ」

 成仁は、唇の端を軽く上げて応えたのでした。



 華奢に見えた鬼の大将は、意外にもしっかりとした身体つきをしており、また、色白に見えていた顔色も健康的な小麦色で、あちらこちらに細かい傷が走っていました。

 桃桜が鞘から愛刀を抜き去り構えます。大将は俊敏な動きで間合いを詰めると、一気に刀を走らせました。……片手で。

 対する桃桜は両腕で刀を支えながら迎え打ちます。渾身の力を込めますが、びくともしません。むしろ押されつつあり、白い額からは大量の汗が吹き出しました。

「なぜ貴方は人々を苦しめるんですか? 朝廷から政権を奪ってどうするつもりなんですか?」

「……民を苦しめてんのは、てめえらの方だろうが!」

「どういう意味です?」

「てめえらは、民から搾り取った税で贅沢三昧しているだろうが。収穫量が日照りや洪水で年によって違うってーのに、構いやしねえ。毎度とるものだけっていきやがる! おれらだって人間だろうが。だのに言葉が違うだの、外見が違うだの、朝廷に逆らっただの些細なことでおれらを区別し見下しやがって! おれら庶民がいなけりゃなんにも出来やしねえくせによおっ!」

 大将がさらに力を込めると、桃桜の刀をはね上げました。汗で滑りつつあった刀は、勢いよく彼女の手を離れ、くるくる回りながら固い岩盤に突き刺さりました。それを取りに行く前に、首筋に冷たいモノが突きつけられます。身じろぎしただけで切れてしまいそうな鋭利な白刃は、不気味に輝いていました。

「おれはなあ、なんにもしねえくせに、人からぶんって喜んでいるヤツらがいっとう大っ嫌いなんだよ。こんなクソみてえなヤツらがはびこる世の中をおれは……」

 大将は一度言葉を切ると、ガラリと口調を変えて云い直しました。

われが変えてみせる」

 それは覇者のような、威厳をまとっていました。たった一言で、鳥肌が立つような畏怖がそこにはありました。

「去ね《い》。都の者」

 とどめを刺そうと振りかぶった刃は真っ直ぐに、しかし途中で軌道を変え、大将も大きく飛びすさりました。

「お前の相手は俺がしよう」

 桃桜の目の前には、かつてと同じ姿があったのでした。

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