第8話 犬猿のコンビネーション +1
「その猿顔を晒すのはやめていただけませんか。一緒にいるこちらが恥ずかしい。ねえ、桃桜さん」
「いや……えっと……」
「ふん、占いだ、加持祈祷だと善良な市民からぼったくる犬陰陽師めが。鬼を退治する前にこいつのような詐欺師を一掃すべきじゃないのか。お嬢ちゃんもそう思うだろ?」
「いや……だから……」
滝口の武士・
「猿島さん、犬上さん、少しは仲良くしてくださいよ。一緒に旅する仲間なんですから。これでも食べて落ちついて下さい」
と、きびだんごを渡します。すぐに静かになりました。
都からは遠く離れた鬼ヶ島。軽口を叩いている今も、多くの人間が犠牲になっていると思うと、自然と足が早まるのも無理はありませんでした。
また、旅の間、妙な視線を感じることも、桃桜が気にかけていることの1つでした。都を出てから今日まで、付かず離れずの感覚で視線が付いてくるのです。犬上に相談しても、彼も分からないと言います。
そんなある日、親切にも泊めてもらった寺の本堂に布団を敷き、さぁ寝ようかというときでした。
「桃桜さん、猿島さん」
「あぁ、分かっている。5人ってところか」
猿島はうなずくと、ぽきぽきと指をならします。犬上も灯台の火をふっと息で吹き消します。何も見えない状況で神経をとがらせると、桃桜の耳にもこちらに近づく足音が分かるようになりました。
「桃桜さんは援護をお願いします」
「はい」
桃桜が首肯したと同時に、猿島がぱんと襖を開けはなちました。
「急急如律令!」
突然開いた襖にひるんだ侵入者に、すかさず犬上が呪を唱えながら手に持っていた紙片を投げつけます。白い紙片は意志を持っているかのようにしゅっとそれぞれの侵入者の目に巻きつきました。間髪を入れず、猿島が重いこぶしをみぞおちに打ちこんでいきます。
桃桜は刀を構えてはいたものの、2人のあまりに見事な連携プレーに目を奪われていました。そのせいで、目隠しからいち早く逃れた侵入者の持つ白刃が迫りくるのに気付かなかったのです。
「お嬢ちゃん!」
猿島の呼ぶ声も、犬上の呪符も間に合いません。白刃が闇夜の中できらりと光ります。桃桜は恐怖に目を閉じました。
しかし。
「ぎゃああっっっ!」
痛みに悲鳴をあげたのは、桃桜ではなく敵の方でした。持っていた白刃を思わず取り落とします。見ると、利き手には深々と何かが突き刺さっています。とっくに追い払われ、周りに見方がいないことに気付いた敵は、きっと天井の方をにらみつけると、逃げ足も早く去っていきました。
「けがはありませんか?」
「お嬢ちゃん、大丈夫か」
2人が駆け寄ってきて、桃桜はやっと自分が息を止めていたことに気付きました。
「大丈夫みたいです。ありがとうございます。……どちらかがあの人に何かを投げつけてくれたんでしょ?」
桃桜の問いに2人は顔を見合わせると、どこか複雑そうな表情で曖昧にうなずきました。桃桜は2人の微妙な表情に気付かないまま、安堵に意識を手放したのでした。
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