第5話①  桃は新たに決意を固める

「あの......危ないところを助けていただき、ありがとうございました」

 桃桜は、あっという間に賊を全員倒してしまった殿方にお礼の言葉を述べました。

と、殿方の腕にある一筋の紅い線に気づきます。

「大変! ケガをしているわ、手当てをしないと......!」

「大事ない。なに、このぐらいの太刀傷、舐めればすぐに治る」

 さすがはあのおばあさんの娘。殿方の云うことなど全く耳に入りません。桃桜は袂から取り出したお手製の巾着袋から薬を取り出し、腕を消毒してから塗りたくりました。そして、自分の衣を引き裂くとくるくると巻き付けてしまいました。

「これで大丈夫。日に何度か、清潔な布に取り替えて下さいね」

「......」

 返事が返ってこないのをいぶかしみ、顔を上げると、殿方はじっと桃桜を見ていました。いいえ、正しくは桃桜の奥にいる『何か』 を見ているようでした。

「あの......?」

 殿方はハッとしたように桃桜を見ると、「いや、手当てをありがとう」と歯切れ悪く云いました。そのまま「ではこれで」と立ち去ろうとします。

「待って下さい!」

 桃桜は去ろうとする殿方の袖括りを掴みました。狩衣の内衣から趣味の良い香りがふわりと立ち上りました。

「まだ何か?」

 殿方の面には明らかに迷惑そうな色が浮かびながらも、足を止めて下さいます。

「えっと......」

 呼び止めたものの何も思い付きません。とにかく何か、何か云わなければ......!


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