第3話 桃は恩恵を与えてくれる
「桃が―っ!」
おじいさんは泣き崩れました。あのフォルムはそう簡単にはお目にかかれないのに―。今にも寝込んでしまいそうなくらいに嘆き悲しんでいます。
一方おばあさんはけろっとしていて、どこから出したのか竹の匙を取り出し、味見をしようと桃に近づきます。すると……
「おぎゃあ!」
「あら!」
中から元気な女の子が現れたのです!
「まあ、かわいい♡」
おばあさんは自然と頬が緩むのを感じました。ずっと子どもが欲しかったからです。
おじいさんとおばあさんとの間に子どもは恵まれませんでした。というのも、宮中でめでたく懐妊したものの、帝の寵愛を妬む妃たちの陰湿ないじめにより流産してしまい、子どもを産みにくい体質になってしまったという悲しい過去があったのです。
おばあさんはずっとそのことで苦しんでいました。もっとあの子を守ってあげていれば、元気に生まれていたのではないかと思うとやりきれません。
「この子は貴女の子どもの生まれ変わりかもしれないね」
噎び泣いていたはずのおじいさんが、いつの間にかおばあさんの隣に立ち、穏やかな声でそう云いました。おじさんもまた、わざと明るくはしゃぐおばあさんを痛々しく思いながらも、何もできず苦しい思いをしていたのでした。
「おじいさん、この子を私たちで育ててもいいかしら?」
「ああ勿論さ。名前はどうしようか?」
「見て頂戴、この子の唇。桜桃のように綺麗な赤だわ。きっとこの子美人に育つわよ」
おばあさんが宮中で呼ばれた名から取り、『桃桜』と名づけられました。
桃桜は大層美しく育っていきました。また、おばあさんが川へ洗濯をする度に川上から桃が流れるようになり、割ると中から美味しい食べ物や大金が現れ、おじいさんの家はあっという間に裕福になりました。勿論外側の桃も美味しく食べることができますし、特に美しいフォルムの桃には『鑑賞用』と注意書きがついており、おじいさんも大喜びです。
辛いことばかりだった家に、幸せがあふれていくのでした――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます