第3話

「それから、今からあなたの固有能力を決めていきます。なにか適当に言ってください」

「おい、そんな適当な感じでいいのか?」

「だって、私は使徒の中でも新人だから、先輩たちがあんまり仕事を長引かせるとうるさいんですよ。だから話したいのを抑えてるのに……」


 俺は彼女が気の毒に思えてきた。彼女はこうして普通に人と話すということができていない。それはとても残酷なことだと思うんだ。俺も同じように先輩になぶられたこともあるし、フツメンの俺にはわからないけど、シャーロット並みの可愛い女の子なら妬まれたりとかそういうのもあるんだろうう。まあフツメンはそんな体験はないし、この件にしては明らかにフツメンの勝ちだ。決してイケメンへの妬みじゃなく、厳然たる事実だ。二回目、妬みじゃない、厳然たる事実だ。


「わかった。悪かったな。え~と固有能力ね……」


 考えた結果、俺の中にひとつの結論が出てくる。


「俺のいた世界のこと、知識とか情報とかそういうのがわかるのがいいかな」

「リョウジさん、変わった能力を選ぶんですね。理由とかあります?」


 シャーロットは俺のほうを見ながらキョトン、とした顔で聞いてくる。


「俺はさ、本心からあの普通な日常が、俺の普通な世界が気にってたんだ。だから、二十年って短い人生だったけど、向こうの世界のことを忘れたくない、少しで覚えていたいんだ。変な理由かな?」


 シャーロットは少し驚きながら俺のほうを見た。その後応えてくれる。


「いえ、とても素敵な理由だと思います! こういったとき、今まで見てきた人は超能力とか、すごい身体能力を望む方が多かったんです。なので、本当の意味で自分の人生と次の人生に向き合う人は少なかったんです。私、とても感動しました!」


 シャーロットの女神スマイルが見れたからもうなんでもいいか、って思いたくなるけど正直俺は今後悔していた。だって、絶対そういう能力のほうがよさそうジャン。だが、もうシャーロットは俺の言ったことを報告書のようなものに書いている。

 案外ドジっ子っぽいのに仕事が速いっていいな。ギャップ萌えってやつだ。


「それでは、次で、最後です。我々神々から、英雄候補のみなさんに、神器を譲渡させて頂きます。どうぞお選びください!」


 シャーロットが俺の前にリストを突き出す。


「へ~、いろんなのがあるな。竜王剣ドラゴニックブレイド、聖剣エクスかリバー、聖銃ファフニール、どれがいいんだろう。これか、魔刀カマイタチ! どう?」

「ご自分でお選びください!」


 やっぱりだ。シャーロットの対応が冷たくなった。ちょっと経こんだよ俺。なにかしたか?


「んじゃ、これは魔鎌ヘルサイズ。いい感じじゃね?」

「だから、ご自分でお選びください!」


 気のせいじゃないよな。人生経験が足りないフツメンはこういうときどうしたらいいかわからない。それで無粋なことを口走ってしまった。


「もしかして拗ねてる?」

「……!、いいから早く選んでください!」


 ああ、図星か~、ってなんで拗ねてんだよ。わからない、俺にはさっぱりだ。そんな俺の葛藤が顔に出ていたのか、シャーロットが応えてくれた。


「だって、あんまり長くお話してると、まだまだしたくなっちゃうんです。だから、早く決めてもらって、またに戻ろうと思っていたのに」


 シャーロットはつらそうな顔をしていた。女の子のそんな顔を見ていたいやつは極々少数派だろうし、俺はそっちの人間じゃない。こんな顔は見ていたくない。


「誰か他に話す相手は?」

「いませんよ。先輩使徒さんたちは急がしそうであまり相手してくれないんです。だから、こうやってあなたみたいな人が来るたび胸が不思議と苦しいんです。変ですよね、すみません」


 シャーロット、それは寂しいってことなんだ。俺は彼女にそういってやりたかった。だけど、その気持ちは自分で気づくべきだし、俺がいうことじゃない。それより、


「そんなのが普通だって? 冗談じゃないよ。俺にあれだけ変な普通を推してきて自分そんなつまらない普通な生き方なのかよ。っち、ごめん、愚痴が出ちゃった」

「いえ、いいんです。その通りですから。すいません……」

「え、う、うん」


 そして俺は気まずくなってしまったのを忘れようと武器探しに勤しんだ。もちろん集中できないけど。そのなかでも何とか見つけた。


「よ、よし、これだ! 魔剣ブラックリパルサー! これでどうだ!」


 俺の手元に黒いロングソードが現れる。ずっしろとした重量感を感じたものの、それももう重くない。まるで自分の身体能力が瞬間的に上がったようだ。


「では、異世界転生を開始します。

ステータス 名前:ササキリョウジ

        種族:亜人ハーフエルフ

        職業:錬金術師アルケミスト

        レベル:1

        スキル:【鑑定】・【錬成】・【森羅万象】

        神器:魔剣ブラックリパルサー

では、異世界、へ、いってらっしゃい……」


 その言葉を最後に俺の周りを魔法陣が囲む。そして少しずつ体が上がっていく。

 俺は後ろ髪引かれる思いでシャーロットを見る。彼女は顔を伏せて震わせ、泣いていた。涙が足元に落ちる。

 いきなり女の子が泣き始めて混乱しない男なんていないだろう? 普通な俺も例外なくそこに当てはまるわけで。そんな混乱した俺の耳に不幸か幸いか、彼女のか弱い声が聞こえてくる。


「私も、あなたみたいな人と自由にできたら、よかったのにな……」


 自虐的に呟かれたその声を聞き、俺は咄嗟に魔法陣から飛び出し、シャーロットの手を掴む。本当に咄嗟に掴んでしまった。もしかしたら俺は、シャーロットにを照らし合わせていたのかもしれない。顔立ちや性格、なにより、雰囲気がそっくりだった。


「リョウジ、さん?!」

「キャンセルだ。俺は神器、じゃなくて神の使徒、シャーロットを持っていく。それでもいいだろうロキ?」


 俺は声を張り上げる。もともと、この部屋に俺とシャーロット以外の誰かがいるのはわかっていた。そんな存在は俺を呼び寄せたロキしかいないということもまた事実。


「構わないさ。僕は面白いものが見たい。ククク、使徒を連れ出すアルケミストなんて初めてだよ。代行は他の使徒を遣す。さて、儀式の続きをしよう」


 そしてまた俺とシャーロットの回りに魔法陣が広がる。


「なんでですかリョウジさん! なんで私なんかを連れて行くなんて……!」

「あれ、嫌だった?」

「い、嫌じゃないです! そうじゃなくてなんで……?」


 俺はちょっとキメ顔を作った。こういう時以外に作ってるとただの変態だからな。フツメンでもイケメンみたいにかっこよく決めたいときがあるのよ。


「俺は、君が言ってくれたから普通のつまらない人生を少し抜け出してみようかな、って思ったんだ。なら、その気にさせたシャーロット、お前にも付いて来てもらう」

「そんな理不尽な!」

「俺を勝手に転生させる奴等が言うのかそれを。

 それに、君は言っただろう、自由にできたら、って。自由にしてやるよ。だから付いて来い。俺は君に感謝してるんだ。やっぱり、楽しい人生を俺は送りたかったみたいだ。だから、どうしても嫌だって言うならもう何も言わない。この手だって離してやる。どっちだ?」


 シャーロットは泣いてグチャグチャになった顔で(でも決して不細工じゃない)困った顔をしながら言う。


「でも、私は使徒で、ここにしかいられないから―」

「そんなことは聞いてない。俺は君の気持ちを聞いてるんだ!」


 俺は少し怒ったような声で言った。正確にはそうなってしまった。やっちまったよ、俺。可愛い子の顔が一瞬怯えたように歪む。クッ、俺のHP(ヒットポイント)が削られていく! 

 それでも、シャーロットは覚悟を決めたようだ。


「私は、またあの世界で楽しく普通に暮らしたいですっ!」

「その答えを待っていた!」


 シャーロットはまた女神スマイルを浮かべた。さっきのとは比にならないくらい可愛い顔だった。自分でもわかるほどに顔が赤くなってる。いや、この状況で赤面ってみっともねえ! くそ、フツメンのせいか、人生経験不足過ぎる!


「? どうしました?」

「なんでもない!」

「全く、二人でいい感じにしてるんじゃないよ。このボクを差し置いてさ。ま、いいや」


 いいのかよ! 思わず突っ込みたくなるがなんとか抑える。ロキは中性的な外見をした若草色の髪を持つ少年(?)だった。身長は150くらい、なんとなく中学生くらいに見える。それもあって顔は整いながら童顔だ。


「異世界転生スタート!

ステータス 名前:ササキリョウジ。シャーロット。

        種族:亜人ハーフエルフ。人(女神)。

        職業ジョブ錬金術師アルケミスト。巫女(神姫)。

        副業サブ:なし。陰陽師

        レベル:1。1(神姫)。

        体質:【不死者ゾンビ】。神姫。

        スキル:【鑑定】、【錬成】。【回復】、【祈り】、【幸運】、【支援】

        魔法:なし。神祇魔法。蘇生魔法。陰陽魔法。

        武器:なし。竹箒(魔法のかかった)、御幣(巫女さんが振ってる白いの)、符(お札)、杖(魔法が使えちゃうやつ)。


さあ、アルケミストへ、レッツゴー!」


 俺たちのいた黒い世界は暗転し、気づいて目を開けたときには、俺たちは空を飛んでいた。いや、落ちていた。異世界生活の始まりだ!


 二人が空に落ちていったのを見ながらロキは自分の手元にある報告書をみて唇をニヤリと吊り上げる。


「まさか、錬金術師アルケミストがこんな能力を発動させるなんてね。神姫の救世主ってところか。【英雄転生】、オリジナルだ。ククク、本当に面白いね。ササキリョウジ、君はボクに何を見せてくれるのかな?」


 ロキはもう一度腹を抱えて笑ったのだった。



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