第2話
「は?」
「いえ、ですから転生しちゃいましょう!」
「は?」
俺は至って普通の人間だ。そんな俺がこんな不足の事態に対応できるかよ。自分の目の前で、こんな可愛い女の子がこんなこと言うと思う? っていうのが正直な感想だ。その反動で彼女の顔をまじまじ見る。人間は何か気になることを言われたり、聞き取れないとついついその顔を見てしまう、そんな感じの本能的な仕草だったんだけど、これがよりまずい。彼女は淡い白銀色の綺麗な髪をひとつに結わえ、白い綺麗な肌、整った幼さの残る顔。健康的に発達した双方の膨らみ。正直言って、俺みたいなフツメンとは全く釣り合わねえ。
「何言ってるの?」
俺はまた同じような問いを返した。彼女は端的ながらもまた答えてくれる。
「あなた、佐々木良治さんは死にました」
「ほうほう、それで?」
「本来、死ぬはずだったのはあなたが庇った美香佐奈さんでした。その行動を見た我らが神、悪戯なロキは、あなたに興味を持ちました。今まで、ただ普通に生きてきたあなたが、なぜ何とも思っていない女の子なんかを庇ったのかと。結果、ロキは面白そうだということであなたを次の世界、『アルケミスト』に招きました」
「ふ~ん、さっぱりだ。で、あなたは誰なんでしょうか?」
このときの俺はついさっき死んだときの気持ちの高揚がまだ残ってた。だからこの変な話を続けてしまったんだろう。転生も、神が興味を持っただの、そんなの普通じゃないしな。そのはずだ。オタクとしてはそれなりにそそられるんだけど。
「私はロキの使徒、シャーロットといいます」
シャーロット、うん、実に可愛い名前だ。
「んじゃシャーロットちゃん。いくつか質問させてよ。アルケミストってなに?」
「錬金術師、あなた方の世界の言葉ではそのようなものです。神に最も近い賢人、世界を構成する金属を意のままに自由に作り変える。神の認めた人間たちのことです」
「へ~、それって俺も入ってるのかな?」
「ええ。そうです。あなたは
正直そんなことはどうでもいい。いや、エルフとか亜人とか悪魔とか魔王軍とかちょっと面子揃いすぎな気がするけどさ。問題は、
「その世界で俺は普通の人生を送れるかな?」
「さあどうでしょう。でも、私目線では今のあなたより楽しい人生なのではないでしょうか」
楽しい人生。いつかは望んだものが、今も望む未来というわけじゃない。俺は普通の人生が欲しいだけなんだ。
「俺は普通の人生を過ごしたい。そこから離れるような生活は送りたくない」
シャーロットは少し考えてから、俺に向かって語りかける。
「普通の日常とは、自分が体感しているそのときのことを言う。それが、どんなに危険な状態でも、慣れてしまえばそれは日常に変わりなく、非日常を追い求めるならば常に日常を脱出し続けなければならない。これはある方の受け売りですが、その通りだと思いませんか? 私はそう思ってます。私は、あなたの日常が真の意味で楽しい普通の日常になって頂きたいと思っています。あなたも気づいているでしょう? あなたは満足していないのですよ、今の自分に。なら、この選択もいいのではと思います」
「……」
俺はシャーロットの言ったことに何も言えなかった。その通りだと、そう思ってしまったんだ。俺の口から少し外れた感じの疑問が出てくる。
「君何歳? 女子高生くらいの子に言い負かされたのか俺は。それとも神の使徒だからもっと歳とっているのか?」
「永遠の十六歳ですがなにか?」
シャーロットは時が止まったような顔をしていた。そして事務的に答えた。
「で、でもやっぱ神の使徒なんだろ、なら十六ってことはないだろう。やっぱ数百歳……」
「フンヌ!」
「グッハ!」
俺が気づいたときには俺がさっき刺された所にシャーロットの拳が入っている。だが、衝撃は感じるものの痛覚が無い。それに、
「なんで傷がないんだ?」
その俺の疑問にシャーロットはこともなげに答えた。
「あなたが死んでるからです。
「……なんてことだ。もう普通じゃねえ!」
「はい。諦めてください」
シャーロットちゃん、さっきより発言が鋭く刺さるような気がするけどこれは俺の気のせいだよな?
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