memories:向日葵




 向日葵の咲き誇る縁側に座り、空に咲く大輪を見上げる。それがいつの頃からかの私達の夏祭りの過ごし方だった。

 昔から晴哉の家とは家族ぐるみの付き合いで、毎年この時期になると晴哉の家に集まり、花火を眺めながら食事をする。いい加減、私達も高校生になったのだから、お祭りの日くらい友達と過ごしてもいいようなのに、何故かこの習慣は何年経とうが変わらない。

 今日くらい綺麗に着飾りなさいと母親に半強制的に着させられた浴衣を身に纏い、少しだけ祭りに顔を出す。それなりに祭りを満喫すると、早々に切り上げて晴哉の家に向かった。

 チャイムを押すと、扉を開けてくれたのは晴哉だった。気怠そうな晴哉と目が合う。と、同時に目を丸くし、絶句される。なんだろうと小首を傾げれば

「……お前、それ、なに?」

と、指を差された。

「なにって……」と指差された方を目で追い、何食わぬ顔で答える。

「戦利品」

 私の手には出店でゲットしてきたぬいぐるみやアクセサリー、ヨーヨーや金魚、焼きそばや唐揚げなんてもので溢れ返っている。どうだとばかりに戦利品を見せつければ、呆れたため息を返される。

「早く入れば。まぁ、もう皆出来上がってるけどさ」

 通されたリビングでは晴哉の言う通り、既に出来上がっている両親達の姿があった。いつも以上にテンション高く、子どものようにきゃっきゃと盛り上がっている。そんな両親達に「これ、お土産ね」と先程の焼きそばや唐揚げといった食べ物を渡して縁側へと向かう。

 縁側へ腰かけると、庭の、身長と同じ高さ程の向日葵達が目に入る。相変わらず凄いな……なんて、感嘆が漏れる。

 そうしている間に晴哉がやって来て、私に飲み物を渡すとそのまま隣に座った。飲み物に口を付ける。私の好きなオレンジジュースを持ってきてくれる辺り、さすが私のことをよく分かっている。伊達に何年も付き合ってないな。

 半分ほど飲み終えた辺りで、空に花火が上がり始めた。大きな音と共に空に花が咲く。相変わらずこの景色は絶景だと思う。咲き誇る向日葵の上に開く大輪の花火。見惚れていると不意に晴哉が声をかけてきた。

「お前さ、今日くらい友達だとか……彼氏と祭り行かねぇの?」

 私に彼氏がいないことくらい知っているはずなのに、嫌味か。

「晴哉こそ、彼女と祭り行かなくて良かったの?」

 そう問えば、「嫌味か」と同じ反応が返ってきて少し笑えた。

「彼女つくんないの?」

「そう簡単にことが進んだら困らねぇよ」

 そう拗ねたように嘯く晴哉の顔は、どこか知らない人のようで、妙な寂しさを感じた。

 ――――つまり、好きな子はいるわけだ。

「……お前は彼氏つくんねぇの?」

「そうだなぁ、……まぁ、来年のお祭りの花火は彼氏と一緒に見られたらいいよね」

 その気持ちは嘘ではない。……でも、今見ている以上の景色を、いつか、知らない誰かと見ることがあるのだろうか。

「そう、だな」

 眩しい程の花火を見上げる晴哉の横顔を盗み見て、私も空へと視線を移した。



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