11. 別れ

 夕焼けがヨノヲスの浜辺を照らします。そこでアルトゥール様とオトゴサのチェシャが佇んでいました。


「二人だけの秘密としましょう」


 チェシャが声を潜めました。


「私は一度オトゴサの里に戻ります。いつか来る日のため時を越える種を育てましょう」


 一部始終を聞いたチェシャはアルトゥール様と別れオトゴサの種の里に帰ることに決めたのです。


「今まで本当にありがとう。チェシャは私にとって無二の親友だ」


 しみじみとした表情でアルトゥール様がこれまでの労をねぎらいました。


「私はほんの少しお手伝いしたに過ぎません」


 チェシャはこれくらい何でもないと、黒目がちの瞳とばら色の頬で微笑みかけました。


「だけど、未来に縛られちゃったな」


 アルトゥール様が苦笑すると、


「なるがままに、なのでしょう」


 チェシャは肩をすくめました。


 負けじとアルトゥール様も自信に満ちた表情で笑いました。


「運命ごときに負けてなるものか」

「その意気です。彼の傍にいたのはいつもあなただったのですから」


 空に影が差すと一羽のおおとりが舞い降りてきました。まだ産毛が抜けきらない巣立ちして間もない雛です。


 ヨノヲスの街からオトゴサの種の里はそう遠くありませんが、一刻も無駄に出来ないと呼びつけたのです。


「これでお別れなのか」


 鵬雛の背によじ登るチェシャの後ろ姿をみてアルトゥール様はつぶやきました。


 羽根を大きく伸ばすと鳳雛ほうすうが羽ばたきはじめました。


「さよならじゃなくて、またいつか必ず会おう!」

「はい」


 とびきりの笑顔でチェシャは頷きました。


 それを合図に鵬雛が飛びたつと、空の彼方へと去っていきました。


 万感の想いをこめ、アルトゥール様はいつまでも手を振り続けました。


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