エピローグ
アルトゥール様と別れてから何十年も経ちました。一つだけ分かったことがあります。それは、私は一年に一日だけ歳をとるということです。若い内はいいのですが、年老いてからを想像すると身震いがします。ですが、カラの占い師がいつか真剣に恋をしたとき、呪いは解けるだろうとも言っていました。
それからアルトゥール/ジョセフィン様と再会することがありました。アフランシのお屋敷でジョセフィン様はこうおっしゃいました。
「あなたはちっとも変わらないのね、チェシャ」
「一月だけ歳をとりました」
「そうなの。……、ねえ、あれからジネディーヌと再会することは無かったわ。今頃どこでどうしてるんでしょうね」
「さあ、でも、ジネディーヌ様のことだから相変わらずだと思います」
ジョセフィン様は苦笑しました。
「本当にね。でも、今の私には息子がいるの」
あのとき妊娠した子供は男の子でした。父にならってジネディーヌと名付けたそうです。でも、ジネディーヌ様とはうって違って、とてもシャイな少年時代を過ごしたそうです。今では父譲りの芸術家の資質を生かした仕事に就いているそうです。
ジョセフィン様は紅茶のカップを置きました。
「私の話はこれだけよ。さあ、あなたの冒険の話を聞かせてちょうだいな」
(了)
※チェシャの歌、原詩は古事記より
『口語訳古事記』(三浦佑之、文芸春秋、2002)
『古事記物語』(鈴木三重吉、原書房、2003)
などの訳を参考にした。
※アルトゥールが歌うアイルランド民謡"She Moved Through the Fair" の歌詞は、アート・ガーファンクルのアルバム「ウォーターマーク」に収録されたものを引用。
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