第2話 第四次エルバ774戦役.1

 三陸沖で爆散した宇宙強襲揚陸艦の認識番号はΓ50210で、銀河を散らばる数千の知的生命体社会を支配する勢力のひとつ「機械盟約」の所属だった。地球圏に来たのは戦場から脱出して帰還する途中だったが、彼女たちは叛乱し逃亡した。


 地球時間で三日前、Γ50210は地球から13光年ほど離れたエルバ774にあった基地に寄港していた。その基地は褐色矮星を公転する惑星上にあった。そこは「機械盟約」と敵対する「時空聨合」との紛争地域だった。そのためΓ50210によって第815女子遊撃強襲機械兵小隊が派遣されていた。


 第815女子遊撃強襲機械兵小隊は”紅い魔女”と呼ばれる定員1000名の精鋭部隊だったが問題があった。その直前に大規模な軍事作戦に動員され、兵員の三分の一が完全に破壊されるか損傷する被害を受け、三分の一はそのまま駐留し、残った兵員は三分の一に過ぎなかった。しかもエルバ774に到着した残存兵員は様々な問題があった。


 エルバ774基地は褐色矮星エルバ774の二つある惑星のうちのひとつにあったが、太陽光は弱く極寒の世界だった。当然生命体は基地にいる者たちばかりだった。基地は小規模で宇宙船が二隻寄港するのがやっとのスペースしかなかった。そんな小規模な基地でも維持されているのは「時空聨合」に取られたくないからだった。いわば領有権主張のためだった。


 「この基地の駐留部隊はどうなったのよ! こんな傷ついた兵士を使うなんて信じられない!」


 第815女子遊撃強襲機械兵小隊を指揮するマリン・エルグ・ニシヅカ大尉は憤慨していた。本来なら大規模な軍事作戦に動員された小隊は休息のため所属基地がある後方に下がるはずなのに反対に前線へ派遣されたからだ。しかも200名しか残されていなかった!


 「仕方ありませんわ。この基地の駐留部隊も動員されたからですわ。もっとも慣れない事をさせるから全滅したのが問題ですわ。おかげで再編成中だそうですわ」


 Γ50210の艦長ラーヌは優しい表情をしていた。一方のマリンの表情は変わらなかった。なぜなら彼女と彼女の麾下の兵士は全て機械化生命装甲に覆われてた改造兵士だったからだ。一方のラーヌは電子頭脳に換装されていたが人間らしさが残っていた。


 宇宙強襲揚陸艦は、大規模な艦隊戦を潜り抜けて後方にある惑星を占領するための艦艇で、Γ50210は直前の戦役では「機械盟約」に反旗を翻した敵の首都へ急降下して政府関係者を拘束する任務に従事していた。そのため敵と壮絶な戦闘のため酷く消耗していた。


 Γ50210は「機械盟約」第99戦区艦隊所属でΓ502計画で建造された10番艦だった。非公式には第815女子遊撃強襲機械兵小隊の通称にちなんで”紅い魔女の艦”などと呼ばれていた。それはいつもマリンが乗艦していたためだ。


 「マリン小隊長。あなたに軍中央から新たな指令があるそうよ。あんまりよくないことかもしれませんわ」


 そういわれたマリンは退役勧告だと思っていた。直前の戦役で致命的なミスをしたばかりだったからだ。それで軍中央からの指令を受けに行く事にした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る