脱走女子機械兵マリンの憂鬱
ジャン・幸田
脱走した女子機械兵たち
第1話黒きキノコ雲の影で
地球は冷戦と呼ばれる極度の緊張状態にあった時代のことである。漆黒の闇に支配された雲の海を一機のジェット機が飛行していた。そのジェット機はボーイング747-100型と呼ばれるタイプで当時の世界最大級の輸送力を誇る民間機だった。その日は日本を出発し一路アラスカに向かっていた。その後は北極圏を回ってヨーロッパに向かう予定だった。
わざわざアラスカに向かうのは日本から直接北極を飛行して欧州に向かうのは性能的に不可能だったので、給油を行うためであった。本当はシベリア上空を飛行できれば欧州へ直行するのも可能であったが、鉄のカーテンをくぐるのは容易ではなかったので仕方なかった。
日本の三陸海岸東方を飛行していた時だった。機長も副操縦士も自動操縦に任せてリラックスしていて、航空機関士も計器のチェックをしていたけど異常がなかったのでひと段落ついていた。
「機長、此処を飛行しているときは安心しますね。どこかの国の戦闘機に攻撃される心配がないですから」
「そりゃそうだ。でも気を付けろよ。北にそれたらソ連防空軍にスクランブル発進されるからな。なんだって一昨年には撃墜しやがったからな旅客機を! 油断できねえからモニターしろよ」
そんな会話をしていた時、前方に巨大なキノコ雲が接近してきた。それはまさに核爆発の際に発生するものに酷似していた。
「機長、あれはなんですか? ソ連の奴らが核ミサイルの実験でもしたというのですか? 」
「おちつけ、君! 核爆発なら電磁パルスが起きているはずだし、あんな大きな雲が出来たときの衝撃波もあるはずだけど・・・どちらもないだろ!」
その巨大なキノコ雲は同時刻に付近を飛行していた複数の旅客機などが目撃したが、その雲が出来たときの瞬間を見た者はいなかった。
また最初に目撃した別のジェット機の機長がソ連による核弾頭搭載ミサイルが爆発したと主張したため、アラスカのアンカレッジ空港到着後に目撃したジェット機の放射能検査を実施したが、何も検出されなかった。
その後、関係部署はこの一件は自然に発生した入道雲を見間違ったものだとして、核爆発などなかったと発表した。
以上は昭和時代末期に起きた、ちょっと話題になった出来事であるが、オカルトめいた話とされても、ただの勘違いとして一笑に付せられたものだった。
たが、真相は違っていた。このきのこ雲は地球より遥かに遠い世界から飛来した宇宙強襲揚陸艦が自爆したものだった。自爆は一瞬のうちになされ、乗員もろとも分子レベルまで分解されてしまった。もちろん衝撃波も出たが、あっというまに爆縮現象がおきたため、爆心地付近にほぼ分子サイズに収束したので、目立った揺れが発生しなかった。
この宇宙強襲揚陸艦は友軍に”われ帰還困難なり、敵軍に鹵獲されるのを防ぐため、至近の惑星上空で自沈する。さようなら”と通信していたので、この艦に乗っていた乗員と兵員は全員戦死と記録された。
しかし、それは全てうそだった。宇宙強襲揚陸艦は戦線を無断で離脱したものであった。その艦に搭乗していた女子遊撃強襲機械兵たちが逃亡したのだった。彼女たちは束縛から逃れようとしていた。
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