第36話 私/もういいよ

ずっと「私」を最後にしてきた。


やりたいことがあっても、まず周囲が先。

親や家族がやりたいことを済ませてから、だった。

ほしいものがあっても、

みんながほしい物に満ち足りてから、だった。

聞かれても「自分はあとでいいから」と

自分で自分を最後にしてきた。

そうやっていることが

すべてにとって円満だと感じていた。


もういいかな。

そっと、自分のほしかった物に手をのばす。

そっと、自分がやりたかったことを始める。

はじめは罪悪感があったけど、

じき、たのしくなってきて

うれしくなった。

じゃあ次は…と求めるようになってきた。

それでもまだまだ小さなことばかりなようで

「これがほしいから、買っていい?」と聞くと

ほしい物だし安い物でしょう、いいんだよ、と

笑って答えをもらう。

1500円のスケジュール帳。

わたしには贅沢な金額に思えて

だけどほしくて、吟味を重ねて選んだ。

えへへありがとう、と照れくさくなる。


私がしたいように生きること、選ぶことって

こんなに楽しいんだと、しみじみしている。

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