第30話 親の背中、親の姿

私の両親は

戦後の大変な時期に生まれた人たちだ。

兄弟が戦死していたり

親と過ごした時間もすくなくて

毎日なにかを我慢して耐え忍んで

それを美徳としていた。


年功序列

常に礼儀正しくいなさい

財産を投げ打ってでも人にやさしくしなさい

そういう人たちだ。

現に実家は貧乏なほうだった。

(貯金に回していたからね!)


だから東日本大震災のときも

両親はそうするのだろうと思っていた。


うちは北海道にある。実家も片道1時間くらいのところだ。

北海道の都市部に避難のため移住してきた方がたくさんいた頃

なにかできることはないかと

私は文房具とか生活用品とか送ったりしていた。

微々たる物だけど、役に立てたらと。

そんなある日、使っていない中古自転車を求める声がちらほらあったので

実家に声をかけてみた。

使いもしない新品の自転車があることは知っていた。

母が父のためにと一方的に買って、

父は2回も使わず、そのまま物置へ収まっていると何度も愚痴っていた。

こういう時だから、心優しい両親はきっと譲ってくれるだろう。


 母『やれるわけないでしょう!? なにを言ってるのよ!!

  だいたいあれはお父さんのための物なのよ!!』

 私「でも使ってないじゃん。困ってる人に譲っていいんじゃ…?」

 母『赤の他人にあげるなんてできないわよ!! なに言ってるの!?』


…そうなんだ…。

私はすぐにあきらめ、引いた。じゃあいいよ、変なこと提案してごめんね。

キーキー怒っていた母もすぐ落ち着き、以降、地震の話をしなくなった。


母に聞いたのが間違いだったかもしれない。

母は、父がお金を無心にくる親戚に言われるがまま渡すことに困ってきたから。

父なら、使ってないならちょうだいと言えば、くれるだろう。言わないけれど。


母とわたしの違う点が

こういうところで見えたのは

良かったというよりも

すこし悲しかった。

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