第21話 子どもにかける言葉

娘(当時、幼稚園)の運動会がありました。

両親も来てくれて、孫をなごやかに見ていました。

当の孫はなごやかじゃなかったようですが。


昔から娘は、注目されたり行動リクエスト系が大嫌い(または苦手)で

娘自身の誕生日席も泣きっぱなしでした。入園式でも大号泣。

そんな孫のために義実家で誕生祝いをしようと言われた時

私と旦那は断ったのですが、ごり押しでセッティングされ

準備万端のところを放り込まれて

周りの皆からの『ロウソクふーして』コール。

案の定、娘はギャン泣き。硬直しストライキ状態となりました。

義両親も義姉夫婦も『せっかく準備してやったのに!』と憮然。

私は「だから断ってたんですけどね?」と釘を刺させていただきました。

日を改めて、自宅でおごそかに誕生祝いをやったら

それでご満悦の娘がいました。(大きなケーキも嫌いという徹底っぷり)


そんな娘ですが、運動会の練習やお遊戯は大好きで

自宅では「見てー!」と自分から何度も踊って見せてくれたのですが、

いざ本番、大勢の前に出るとダメでした。

運動会、入場前から一度も笑わず、うつむきっぱなし。

お遊戯も音楽に合わせて

手足をちょっとだけ動かしただけでした。

でも障害物競走もしっかり完走できて

よくがんばったと思います。

旦那と苦笑いしながらじっと見守っていました。

運動会が終わってすぐは

抱き上げた旦那にずっとしがみついてました。


その時は両親も来ていたんですが

孫は注目されるとより硬直するから、声をかけないよう注意しました。

しかし母にはそんな話は通用しませんでした。

 母『何おかしなこと言ってるの! あのねえ、

  緊張してる子には声をかけるのよ!! お前は育児のことを

  何もわかってないんだから、全く。かわいそうだと思わない?』

いやいやそうじゃないんだってば、と言ってもスルー。

お遊戯で硬直してる孫に手を振ったり叩いてこっち見てアピールをし

  『##ちゃん。おばあちゃんはここにいるよ!!

  ほら頑張って!! ほら!! 手を動かすの!!』

やめて、と言っても母の暴走は止まらず、

今にも泣きそうになってしまった孫に『駄目ねえ』と駄目出ししました。


全競技が終わり、今にも泣きそうな孫に母が笑顔で声をかけました。

  『楽しかったわね!! ねえ##ちゃん、楽しかったでしょう?

  楽しくないわけないわよねえ、##ちゃん楽しかったわねえ!!』

過去の私にもこうやって言い聞かせていたね、お母さん。最低だね。

  「泣きそうだったよ? 楽しいとかじゃないでしょう」

私がそう言うと、母は『あんた、なんでそんなことを言うの』と睨み、

泣きじゃくる孫に再び洗脳開始。

  『楽しかったわよね〜!? ねえ、##ちゃん!? ね!!』

旦那も「お母さん、いいですから、疲れてるし、もうやめてください」と

止めるし、孫はさらにうわあああと泣き出しました。

それでも『##ちゃん、聞いて!! 楽しかったでしょ!』と言う母。

母のこういうところが嫌いらしい父は、すでに逃走してました。最低・2。


強引に母を引き離し、「落ち着いたらメールするから」と帰らせました。

楽しいわけがないのに、なんで洗脳させるんだろう。

泣く娘の頭をいっぱいなでしました。頑張ったね。


次の日、母から心配の電話が来ました。

 母『##ちゃん、どう? 運動会なにか言った?!』

 私「どうだった〜って聞いたら黙っちゃうね〜。

  よくがんばったねって話してるけど」

  『あら! ちょっとあんた!! それじゃあれよ、

  ちゃんと娘に「運動会楽しかったね」って言わなきゃ!!』

うわあ…。

  「楽しくなさそうだったけど?」

  『そうじゃないの!! 親が「楽しかったね〜良かったね〜」って

  言い続けたらね、子供にも楽しかったイメージになるじゃないの!』

  「(洗脳じゃん)ふーん…。まあ「がんばったね」と言うけど」

  『それじゃかわいそうよ! お前も子供の気持ちになりなさい! 

  もっと大人になっていけばわかると思うけど…。あのね、

  母親が「楽しかったね〜」って言わなきゃどうするの? 子供だって

  どんどんしょぼくれる(凹む)じゃないの! だからね、母親が

  何度も言い聞かせるの。わかった!?「楽しかったね〜踊りも

  上手だったね〜お母さんうれしい」っていうのよ!!』


そういう洗脳カラクリ、よく存じておりますよ。ええ。

楽しくないと思っている強制参加イベントで出たら

子が感想を言う前に、それを見ていた親から

「参加して楽しかったね」と言われる。言われたら黙るしかない。

さらに「お母さんうれしい」て来るから、たとえつまらなくても

子供心に申し訳なくて苦しくて、それ以外言えなくなる呪いの言葉だ。

もしもそこでごねたら「そうじゃない・それは違うでしょ」と否定され

時には「そんなことを言われて、お母さん悲しい」とまで来る。

それでも同意しなかったら「お前の気持ちがわからない」で終わる。

はじめから子供の話・気持ちを聞いてないんだから

わからないのも当たり前だろーが!!

だから私は

子供のほうから「楽しかった」と言ってくるまで「楽しかったね」は言わない。

(自分が楽しかったら「母ちゃん楽しかった」と言うけど、

子の体験したことについては言わない)

そんな説明をしても、母は聞かないだろう。

かわいそうな子だねと言って、また私の口を塞ぐに決まっている。

だから話題を変えて、電話を切った。

娘はもう平常モード。元気に遊んでいた。

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