第20話 お母さんのいうとおり・2
母の愛情がおかしいとは思っていたけれど
はっきりおかしいとわかったのが、孫ヒートアップでした。
うちの一人目は、義両親にとっては初孫で
実両親にとっては3人目の孫。
私たちは飛行機がないと実家に行けない距離に住んでおり
両親が嫌いな私は、里帰り分娩はしないつもりでした。
(里帰り分娩:赤ちゃんのお世話を数ヶ月ほど祖父祖母がやる)
(帰らない分娩:夫婦のみで赤ちゃんのお世話をがっつりやる)
そんなわけで私たちは夫婦で赤ちゃんをお世話するつもりでした。
しかし、母の中ではすでに計画が立っていました。
電話で里帰りしないことを話した途端、母が激怒。
母『里帰りしないってどういうことなの!? 赤ちゃんのお世話は誰が
やるの、あんたたちでできるわけないでしょう、無理よ、どうして
戻ってこないの、お母さんはそのつもりだったのに、どうしてそうなるの。
お前ねえ、じぶん一人でできるとか思ってるんだろうけど、そんなこと
できないのよ、昔からどうしてお母さんのいうことを聞けないのかしら、
本当にかわいそうな子よねえ、あんたって子は。いいから帰って来なさい』
私たちは、自分たちでお世話したいしできるし、
もう飛行機にも乗れませんからと丁重に断りました。
しかし。
『あ、お母さん、いいこと思いついた!! じゃあお母さんが
そっちに行くからね。それでいいわよねえ!!
そうしましょうそうしましょう。ね。予定日はいつだったっけ。
お母さん忙しくなるわああ、うふふふっ』
ちょ。
このひと、なに言ってるんだろう。本気か本気だ。
再度お断りする。来なくていいですから。やめてください。来ないでいい。
『何を言ってるの? お前、相変わらず親心がまったくわかってない、かわいそうな子ね。あのね、お母さんはいた方がいいの。だから行きます。これはお前のためじゃなくて赤ちゃんのためなのよ。わかるでしょう。冷たい子ねえ、赤ちゃんがかわいそうよ。いい。お母さんは行った方がいいの。ね。いいわね。じゃあお母さん行くから。わかったわね。あ、寝るところはなんとかするから』(2Kアパートです)
電話を切られて呆然。まるで断ったこちらが悪者、それも赤ちゃんをないがしろにしてるママみたいにされて、ろくに返事もできず。
2日後、さらにヒートアップした母から電話。
『お母さん、とってもいいこと思いついたから!! あのね、みんなで赤ちゃんを迎えた方が絶対にいいわよねえ。だから義両親さんも一緒に行くことにしたから!! こういうのはおばあちゃんがお世話するのがいいから、お母さんは孫が3人目でしょう、だから最初の一週間は義母さんに譲って、お母さんは2周目から行くから!! ね、義母さんも喜んでくれてねえ、よかったわあ。あんた、いいタイミングで孫を生んでくれたわねえ、いい嫁やってるじゃないの。お母さん安心したわよ〜! ああ楽しみねえ、元気な赤ちゃん産んでよねえ!!』
一気にまくし立てられ、呆然自失、というものを初めて体験しました。
あのね。ちょっと待ってください。えーと。
出産して退院してすぐに義両親が揃って来訪して
義父は一泊して帰宅して、義母が一週間残ってる、と。
で、母とバトンタッチで、母が残ってる、と。
あのう。これ、私たちに 一 切 話を通されてないんですけど。
『此の期に及んで、まだそんなことを言って!! お前ねえ、まだ親心っていうものがわからないの!? こんなに孫を大事にされてるなんてとても幸せなことなのよ、どうしてそこがわからないの!! ああもうお母さん本当にお前が心配。なんでこんなにかわいそうな子なの。いいの、お母さんのいうとおりにしておきなさい!! それでお前は幸せなの。義母さんもすごく喜んでるじゃないの、何も悪いことはないでしょう?! ほらあ、なんでお前は反対するの!?』
結婚して2年弱。初めての出産の私には、
この毒母のおかしな論理に打ち勝つことができませんでした。
「じゃあ、好きにしなよ」と敗北宣言。
初めてパパになる夫も反論することもできず、
こうして母の孫ヒートアップ計画に翻弄される形となりました。
ここまで本当にあった会話です。
このひと何言ってるんだろうって素で思いました。
というわけで。
初日にはW両親が揃い、毒両親&義父が一泊して帰宅、
義母が一週間の居候状態となり、
母とバトンタッチして、母はそのまま3週間くらい居候状態でした。
親たちが狭いアパートに勢ぞろいです。8畳間に大人6人プラス新生児。
ぎゅうぎゅうです。
私は帝王切開術の後でフラフラ。パジャマで髪もぐしゃぐしゃメイクもなし。
そこを母から裏でけしかけられました。
『ちょっと、あんた、しっかりしなさい! お茶は? お茶。ほら早く。嫁なら義理の両親の接待をしなければいけないの。遠いところありがとうございましたって頭を下げるの。いい。ちゃんとしなさい。あんたねえ、昨日退院してきたからって、こういうことは夫にさせるんじゃないのよ。嫁のあんたがやるの。嫁ってそういうものなの。わかったら早く準備しなさい。ほら赤ちゃん泣いてるわよ、ミルクなんじゃないの。オムツ。あんた、なにしてるのっ。母親なんでしょう』
ヨレヨレのパジャマで髪も整えず、お茶を淹れる嫁。
義母から『いいわよ、寝てなさい。ね』と言われたけど、
私の両親は『あ、気遣わないでください。こちらこそすみませんねえ、気の利かない娘で本当に恥ずかしいんですけどねえ。ほらあんた、ちゃんとしなさい! ああもう』と常套句。
母は看護師だったので、手術後の体力がどれくらい無いのか
よく知ってるはずなんですけど、私については、それはないようでした。
親が居座っている期間を私がどう過ごしたのか記憶にないのは、
親のいる毎日が苦痛で泣きたくて逃げたくてたまらなかったせいなのと
思い出したくないんでしょう。しっかり封印されてるみたいです。
この一件から、旦那もやっと「お母さんは変」と学んだようでしたし
自分自身も「母の変な論理に負けてはいけない」と肝に命じたのでした。
まだ「毒親」という言葉も知らない頃の話です。
>6/23 誤字を修正しました。
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