第5話 手を

大事にされた記憶が ない。


いや、大事にされていたんだと思う。

超過保護だったから。

漫画は禁止(手塚治虫だけはあった)、ゲームも禁止(トランプはあった)、

かろうじてぬいぐるみは可(リカちゃん人形とかはダメ)。

小説より児童文学、世界名作全集、あと図鑑しかない子供部屋は

壁紙すら貼られず、好きな物も置けない、ひんやり冷たい部屋。


大事にされてはいたんだろう。

子供に適さないと判断したものは、全て除外された部屋だったから。

だけど、愛されて育ったような気はしない。

笑うことは、姉とだけ。親と笑った記憶は1、2つしかない。

愛されていなかった、という心当たりのひとつに

「頭なでなで」の記憶が無いことだ。

それに気づいたとき、とても寂しくなった。


きっと私は

親から、誰かから、

言葉でも物でもなく

ただ頭をなでてほしかったんだ。

そしてそれを今でも求めてる。

いい歳して、しょうがないね。

自分で撫でておくことにした。

よしよし、がんばってるぞ。

えらいぞ。うん。

なでなで。

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