第12話

 二つ目の魔石を破壊した日の夜。


ゴロゴロと、地響きのような音が耳元に響いて、イソノは目が覚めた。


目覚めた先には、トラもようの耳をピンとたてたショートカットの少女がゴロゴロと寝息をたてて、気持ちよさそうに目を閉じている。ゴロゴロのぬしはフレイヤだった。イソノはベッドから這い出て、ながいながいため息。


いつもなら気にもしない音だった。夜中にまわる洗濯機の音のように、気にもしていない日常のなかのささやきの一つにすぎなかったはずだった。それがこんなにも耳につくのは、イヤな夢を見たからだ。イヤなヤツに会ったからだ。浅い眠りの世界で、彼に会ったからだ。


彼の名前は神宮寺未来、今、芽出愛学園を占拠しているよくわからない男にして、磯野智花がもっとも嫌う男の名だ。


彼のことは小学生のころからキライだった。


女の子に間違えそうになるくらいボサボサの長い髪。寝ていないのか、下まぶたにクマがあり、めつきが悪かった。


休み時間はいつもノートに漢字を書き連ねていて、漢字のテストではいつも100点を取っていた。白い紙になにかを書くのが好きらしい。なのに作文はひどいもので、運動会について書いた時には、運動会の種目をはじめからおわりまで書いて、たのしかったですマルと書いて先生に出した。当然、怒られていた。


 乱暴な子だった。女子のスカートをめくったり、授業をボイコットして遊んだり、授業中に寝たりするような子だった。


 彼と親しくなったのは小学5年生のころからだ。


 なんと彼は私が通う塾に現れたのだ。


 彼は私と同じ中学を志望していた。もう、5年生だというのにだ。


 どうしてか、と思った。どうしても、と彼は言った。


 それから、雨に打たれた火のこのように彼はものしずかに勉強する子になった。


 成績がまたたくまに向上した。それがヤだった。


 私の努力が、否定されたような気がしたから。


 だってそうでしょう?


 今まで何もしなかったような子が、気まぐれで勉強して、それでなんとかなっちゃったらイヤじゃない。それじゃあ、マジメにやってた私はなんなのよ? なんだかホントにバカみたい!


 だけど、そんな心配は必要なかった。なぜなら、彼は受験に失敗したからだ。よかった、と思った。神様はやっぱり努力をしている子を見ているんだ、と思った。そう思っていた。


 思っていたのに……神様のバカヤロウ……


「結局、あの子ばっかりうまくいってる……」


 とりとめもない、ぶつけようのない思いが頭でループして、もやもやして、やっぱりゆるせなくて、イソノは歯ぎしりをしながら布団にくるまった。


「イソニョ……うるさいにゃ……」


 うるさい寝息を立てていたフレイヤがねぼけ眼で言った。


 

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