第10話

ソラが闘志を取り戻した頃、海の底の魔理屈使いは勝利を確信していた。


 ふ、ふ、ふ、笑いが止まらぬゥゥゥゥ、と彼は心中でほくそ笑んでいた。


 ぶくぶくと、口から、いや、貝から泡が漏れた。


 彼の名はクラムチャウダー。芽出愛学園ごとファンティックワールドに転送されたあさりである。その姿は、あさりとは思えないほど巨大だ。貝を開かなければ、岩と勘違いするほどの大きさである。


 ふふん、俺の魔理屈は魚を操る能力! まさに! 海のなかでなら最強の能力よォォ! 負ける気がせんなァァァァ! と、あの神宮寺未来だって認めてるんだぜ!


 と、彼は神宮寺未来のことを思い出す。


 ファンティックワールドに飛ばされたあの時! 俺は家庭科室で塩抜きされていた。マジ、死ぬかと思ったゼ! てか、死ぬ4時間前だったゼ! その時に、俺は異世界に飛ばされ! このスキルを得た! そのことに、神宮寺未来は気づいてたようだ! 俺を海まで運んでくれた。おかげさまでこの海の支配者だぜ! 借りは狩りで返さねぇとなァァァ!


 と、ブクブクと泡を漏らした。その時、


 ポチャっと、何かが沈む音がした。


 ムムムゥ! なんなんだァァ!


 クラムチャウダーが見上げると、そこにはフレイヤがいる。フレイヤがこちらに向かっている。右にはモリをもっていた。


 フン! あの猫娘か。だが! ビートビートルクィーンは海のなかでは使えぬはず! そんなモリ如きで、俺は倒せぬぞォォォ!


 そう言うと、クラムチャウダーは光りだす。魔理屈を使っているのだ。


 行けぇぇぇ、海の魚たちよぉぉぉぉ!


 ヤツを食い殺せぇぇぇ!


 なんて獰猛か! 魚たちがフレイヤを喰い殺したではないか。


 ハッハッハッ! 所詮弱者よぉぉぉ!


 そう思った次の瞬間、クラムチャウダーは驚愕する。


 ドボボットト、ドボボットト。


 次々と音が鳴り、水面が揺れる。なんと、フレイヤが。複数のフレイヤがクラムチャウダーの所にむかっているじゃないか。


 なんだとぉぉぉぉ! あの猫娘が複数だと! であれば!


 クラムチャウダーはさきほど襲ったフレイヤを見る。そこには亡きがらはなかった。存在しなかったのだ。つまり、幻覚と言うわけか! と、クラムチャウダーは憤る。


 それがどうしたと言うのだァァァァ! クラムチャウダーは強力な光を放つ。


 現れるのは巨大なラジク! ラジクは大きく口を開けると、フレイヤの軍団を飲み込んだ。


 操れるのは小魚やグロマだけじゃねぇんだよぉぉぉぉ! 幻覚だか、なんだか知らんが、この俺に死角はねぇぜぇぇ!


「しかし、それはおかしいな。クジラは哺乳類のはずだぜ。どうやら、魚を操る、てのは語弊があるようだな」


 ハッ!


 クラムチャウダーは背後の声に恐怖する。


「さすがは貝だな。背後をふりかえることはできないらしい」


 なぜだ! なぜにここまで来れた! てか、なんでしゃべれちゃってんの!


「お前は今、こう思ってんな? なんでしゃべれてんの、なぜここまで来れたっとね。一つ目はニャンタロウのおかげだ。アイツは召喚術師らしくてな。アイツの召喚した悪魔が水中のボクの思考を代弁してくれる。ここまでこわがらせてくれたんだ少しは憎まれ口をたたかせろ。二つ目はこれこそボクの能力、クリエイティングワン。何もない空間に絵を描く力だ。貴様がニセフレイヤちゃんに騙されている間に、近づかせてもらった。海を模した絵に擬態してな」


 なっなんだと! クラムチャウダーはソラが淡々と語る事実に驚愕する。


「必要なのは一枚の布切れだ。できれば薄いのがいい。裏に書いた絵が透けて見えるような薄いヤツ。それにくるまりながら海に沈んだのさ。そして絵を落下に合わせて描きかえる。そうすりゃ潜入成功ってわけさ」


 そんなバカな! 水に入れば、確かに沈むのはおそいだろう! だが、それに合わせて絵を描きつづけるなんてどんだけの速さと精密さがいると思うんだ!


「まっ、驚かせるのはこのぐらいで、やるとするか」


 クラムチャウダーの身に冷たい者が感じた。Gペンである。


 何をする気だ! ぶくぶくと溺れるダイバーのように泡を大量にもらした。


「驚いてるな。じつはな、さっき思い出したんだよ。ボクがこわいのはお前のみためだ。貝のなかに身があるというそのみためがうけつけないのさ。ならば、答えは簡単だろ。切り離せばいいグチャグチャのメチャメチャにすればいい。Gペンにこめる力が強くなる。


 許して! 死にたくなィィィィ ほらぁぁぁ協力するからァァァ! 魔石なら返すからさァァァァと、クラムチャウダーはぶくぶくと泡をもらした。


 そんな彼に彼女はにっこりと笑う。


「はっ? 何言ってんかわかんねぇよ」


 思い切り、クラムチャウダーを引き出す。すると、彼の中からサファイヤのような青色の石が出てきた。


「なるほど、真珠みてぇに、体内に入ってたのか。じゃ、これで終わりだな」


 と言って、ソラは魔石を破壊した。

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