第10話普通は男

「そういえばマミちゃんね」

 久しぶりに先輩とサシでご飯を食べた時、俺達はマミの話をすることになった。

 「僕からのご飯の誘いを断る時さ、今彼氏がいるからって言ったんだ」

 先輩の話は知っていた。マミ自身、その先輩からのメシの誘いは乗り気ではなく、俺に相談を持ちかけたことがあったからだ。

 部内恋愛推奨せずのルールがあるから先輩にバレたくない。でも断りたい。そう彼女は話していた。

 俺はもうその頃、推奨せずのルールにうんざりしていた。

 どうして仲間に嘘をつかないといけないのか。教えればいいじゃないか。

 教えることによって、彼女に降りかかるデートの誘いがことごとく消滅するとも俺は思っていたのだ。

 その先輩には絶対下心があるから!

 そんなことないよ!とマミは言っていた。

 単純に先輩として後輩とご飯が行きたいだけだと思うし・・・・・・。

 そんなわけないじゃん、と俺は彼女の憶測を否定した。

 げんにその先輩は、部内の女子だけを飯に誘っていた。疑わしい。

 俺は、正直にもう言ったほうがいい・・・・・・と提案した。

 「で、なんて言ってたんですか?」

 俺は当時の状況を先輩に聞いた。

 「うん。バイトの子と付き合ってるって・・・・・・」

 ほう。うまい返しだな。

 そこまで思って俺の箸は止まった。

 あの時のマミは俺にこう言っていたのだ。

 「部内の子と付き合ってるって正直に話した。けど誰と付き合ってるかは言ってない」

 違うじゃん・・・・・・。

 俺はその事を先輩に話した。

 「あぁ・・・・・・まあでもそれは君とまた衝突するのを避けるためじゃないかな」

 あ、そっか。

 俺は頭をすぐに冷やした。

「・・・・・・うん?でも・・・・・・あの時のマミちゃん。ほんとスラスラ言ってて・・・・・・嘘とかそんな感じに1ミリも聞こえなかったから僕すっかり騙されたんだけどさ・・・・・・バイトでの出会いの話とかけっこうリアルだったから・・・・・・なんかそう思うと意外と彼女嘘上手いよね」

 嘘が上手い・・・・・・。

 その言葉が嫌なことを思い出させた。

 

 騙す時は上手に騙してね。私もそうするから。

 

 彼女がいつか言っていた言葉だが・・・・・・もちろん冗談だったんだよな・・・・・・あれは・・・・・・。

 女は生まれた時からすべからず女優である。

 そんなこと言った誰かの名言は知りたくなかった。

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