第5話

発着場を出て、小さな滑走路をフライングキャットの車輪がまわる。二人の身体全体に、フライングキャットから発せられる振動が響き渡る。


機体がフワリと地表を離れ空中に浮かび、フライングキャットを中心に波紋を拡げるように瞬間的に風が流れる。


「いけ!」


ナーラの声に応えるように、フライングキャットは空へ飛び出した。


エドガーの耳には、フライングキャットがご機嫌に風をきって進む音が聴こえた。

野良猫が餌をねだって甘えるような声に、エドガーは本当に嬉しくなる。


「ねぇエドガー。楽しそうなのはいいんだけどさ、あんまりよそ見してると落っこちちゃうよ」


ナーラが内部伝道管トンネルを通してエドガーに声をかけた次の瞬間、フライングキャットは急上昇と急旋回と急降下を織り交ぜた軌道を繰り出した。


ナーラの悪い癖で、フライングキャットで思いつきの動きを試すのに全然躊躇がないのだ。


「うわわ、っと、ナーラ!いつか本当に墜ちちゃうから、あんまりフライングキャットに無理させないでよ!」


「そんなこと言って、今まで落ちそうになっても落ちたことないからいいじゃんかー」


含み笑いをしながらそんな事を言うナーラに、エドガーは困った顔をしつつも、


「今までが幸運なだけなんだよ」


と、内部伝道管トンネルに返事をする。


「風の神様が護ってくれているのね」


と、ナーラは芝居がかった口調で言うので、エドガーは苦笑して、ナーラに気づかれないように肩をすくめた。

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