第7話「初の実戦」
ガタガタガタ
海沿いを走る馬車の中、父上は王の直筆の手紙を見つめ苦笑いする。
「まさか国王から直筆で手紙がくるとはな。」
「あら、スタンの業績からしたら当然の事よ。
ねぇスタン。」
母上はニッコリと俺に笑顔を向ける。
俺はすこし苦笑いぎみに笑い返した。
今回俺が王城に呼び出されたのは圧搾機などの発明や食に対する俺の業績を王が耳にし、是非にも我が王都にも食の可能性を伝授してほしいとのことだった。
そして俺は今、王都に向かう馬車に乗っている。
王都までは6日かかる距離にあるが、今回は9日かけて行く事になっている。
途中の各街に寄る必要があるからだ。
貴族ともなれば、各街や村に泊まることによりお金を落とす必要がある。
護衛も含めてすれば、それなりの人数になり、多少なりとも経済に影響がでるからだ。
そして今回同行したのは、領主の父上、母上、俺に執事のダルドマン、専属メイドのペルシアだ。
そして護衛として、騎士が10名同行している。
「それにしても王都かぁ。
かなり栄えてるんだろうな。
あっ、王様ってどんな人?」
「そうだったな。
お前はまだ王様に会ったことがなかったな。」
この世界では、貴族の子供が10の歳になると国王への謁見とお披露目会があり、兄2人は既に一度王都に赴き、王との謁見を済ませていた。
だが今回俺はまだ10の歳ではないのにも関わらず王との対面が許されることとなった為、父上は驚きの表情を見せていたのだった。
「どんな人?」
「偉大な方だ。
それに王様だからといっても案外気さくに話し掛けて下さる寛大なお方だ。
それに新しい物に目がない。
だからお前が新しい創作料理を作っていくことに目が引かれたのだろうな。」
どうやらこの国の王様は案外フランクな感じのようだ。
そして幾つか街をつぎ、王都までの道のりが残り2日となる。
ここまで順調にすすんでいるが、勿論この世界には魔物は沢山生息している。
今まで出くわさなかったのが不思議なくらいであった。
そんな時前方の方に馬車が止まっているのが見えた、そしてその周りでは護衛騎士達と魔物が抗争を繰り広げている。
「む、中々の苦戦を強いられているようだな。」
父上がそういうとペルシア頷き答える。
「そのようですね。
相手はグレイインプの群れの様ですね。
1、2…。
結構な数ですね。
20匹ぐらいでしょうか。
いかがなさいますか?」
ペルシアが父上の指示を促すと父上は俺の方を見る。
「ペルシアの戦闘を見る良い機会だ。
ペルシアと共にお前もあの馬車の手助けに行ってこい。
無駄に訓練を積んできた訳ではないのだろう?」
【グレイインプ】魔物ランクCで、小悪魔より少し大きな性悪な妖精。
ツノに蝙蝠の羽、尖った長い尻尾が生え、以上な程に痩せこけている。
肌の色は名前の通り灰色をしている。
個体の戦闘力が特別高い訳ではないが主10程の群れで行動し俊敏な動きで連携した攻撃を繰り出してくる為、最低でも冒険者の間では5人程のパーティを組み挑む事がおおい。
なので今回、あの馬車の護衛騎士は5人に対して20を相手している為、流石に苦戦しているようだ。
「どうした?怖いか?
だが何事も実戦だ。」
父上は俺の初の実戦だ。
緊張?恐怖からでる表情を見て、父上は俺の頭をなでた。
「なぁに。
大丈夫だ。
いざとなれば俺もいる。
すまんがペルシア。
連れていってやってくれ。」
ペルシアは首を縦にふる。
「かしこまりました。」
魔物との戦いは生死の駆け引きだ。
俺はあの魔物を殺すことが本当にできるだろうか?
そんなことを考えている暇などなく、ペルシアと俺は馬車を降り、前方の馬車へと走った。
「ぐっ!‥。
こうも多いと皆の援護に周りきれん!
皆の者!何が何でも持ち場を離れず御守りするのだ!!」
護衛騎士達は囲む馬車をなんとしても守らんとし、グレイインプとの抗争を繰り広げるが騎士達の斬撃はもの見事に交わされる。
「くぅ!ちょこまかとぉ!」
1人の騎士がヤケになり剣を振り下ろすが簡単に交わされ、グレイインプは持つ槍で騎士の胸を突きさそうとした瞬間、グレイインプの首が飛ぶ。
ザシュ!!プシュゥア!!!
血が噴水のようにインプの身体から吹き出した。
それからは流れるようにペルシアがグレイインプを次々と切り捨てていく。
ザシュ!ザン!ザシュ!
その凄まじい姿に護衛騎士達は言葉を失い、俺もただペルシアを呆然と立ち尽くし見つめていると、不意に俺の前にペルシアが現れ槍を俺の真後ろに突き伸ばした。
ザシュ!!
突き刺さる音と共にポタポタと真上から水滴が落ち、手で触れ確認すると赤い液体だった。
恐る恐る俺へ後ろに振り返るとペルシアは槍を真上に引き上げ、俺の目の前のグレイインプを真っ二つに切断した。
グレイインプの内臓がドロドロとグロテスクなまでに溢れ出る
瞬間、俺は手を口元にやり嘔吐し膝をついた。
「ウォエ!!!‥オエ」
俺の姿を見たペルシアは俺の背中に手をあて優しく摩るとまたスッとまた立ち上がりグレイインプの方に向き槍を構える。
「初めは誰もが通る道です。
乗り越えて下さい」
そう言ってペルシアはまたグレイインプに向かっていった。
そしてついに残りの1匹をしとめるとペルシアは槍を光りに変えしまった。
「これで片付いたよう‥「キャー!!」
途端に馬車から悲鳴があがりグレイインプが少女を馬車から引きずり下ろし連れ去ろうとする。
「くっ!まだいたか!!」
ペルシアはすぐにまた槍を出現させ馬車に駆けるが少しの差で間に合いそうにない。
距離的には俺の位置が一番近く、飛び込めば直ぐに届く距離だ。
だが身体が硬直し動かない。
少女はグレイインプに無理矢理引きずられ血を流し悲痛の叫び声を上げ涙を流す視線が俺と合い助けを求め手を伸ばす。
俺は硬直し震える手、激しく脈うつ鼓動を怒号と共に打ち消し、グレイインプに飛びかかる。
「おぉおぉぉぉ!!!」
グレイインプは俺の突発的な怒号に僅かに怯み、俺はグレイインプと少女を引き離し、グレイインプの上に覆い被さる状態になると、腰に携えていたダガーを抜き真上からダガーをグレイインプに突き刺した。
ザシュ!!
だがグレイインプは僅かに身体を捻り致命傷をさけ「グギギ!!」と左手で俺の顔面を拳で殴りつける。
何度も何度もグレイインプは必死に俺を殴りつける。
俺はそれを払いのけ、更に上からダガーをグレイインプに勢いよく突き刺す。
刺しては抜いて、刺しては抜いて
「うおぉぉぉおぉ!!!!!!!」
ザシュ!!!!!
グレイインプの反撃は静まり、そのまま動かなくなった。
俺はそのままグレイインプの横に転がり、空を見上げる状態になると何故か涙が溢れ出て腕で顔を隠した。
これが初の実戦だなんて‥。
マジ‥
カッコつかねぇ‥な。
そのまま俺は意識が途切れるように消えた。
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