第5話「干し柿を作ろう」

「馬鹿者ぉ!!」


夜の屋敷の一室で一際大きな声が響きわたる。


俺達兄弟は今、渋柿の襲撃の件で父上の書斎に呼ばれ叱られている最中だった。


「何故そんな無謀なことをした!?

フルアーマーも無しに突っ込むなど死ににいくようなものだぞ!!

怪我が其れだけで済んだだけで良かったものの最前戦なんてバカな真似をしたもんだ。」


「俺はやるっつたらやる男なんだよ!

親父にとやかくいわれる筋合いはねぇよ!」


ゴチン!


父上の拳がアルバ兄さんの頭におちる。


「お前はちょっと反省というものを知れ!お前はまだ子供なのだ!

それにアルス!お前がついて居ながら何をしていたのだ!

お前は特別なのだ、この子達と一緒ではないのだぞ。」


急にアルバ兄さんの顔つきが変わる。


「‥また出たよ。

アル兄ぃは特別‥。

何が、いったい何が俺らと違うんだよ?!」


アルバ兄さんは声を荒げ父上に怒りをぶつけた。


「いつもアニキが特別、アニキが特別。

その特別扱いのせいでアニキがどれだけ寂しい思いをしてるかちゃんと築いてんのかよ!?

俺はあんたの‥!!?」


アルバ兄さんの怒りを鎮めるようアルス兄さんがアルバ兄さんの前に手を翳した。


「父上申し訳ございません。

以後このような事がないよう軽率な行動は慎みます。」


静かに頭を下げ謝罪したアルス兄さんの姿にアルバ兄さんは喉を詰まらせ歯を食いしばった。


「‥分かればいい。

今日はもう寝室に戻れ」


そう言われ、俺達は父上の書斎から退出した。


いつの頃か?

いや、俺が産まれた時には既にそうだったかもしれない。

アルス兄さんは産まれながらに多大な才能を持ち合わしていた。


始めは父上も母上もアルス兄さんの才能に目を輝かせ「俺の息子は天才だ」などとはしゃいでいたらしいが、その力は最早子供とは懸け離れていき、父上とて次第に恐怖を感じとるようになってきていた。


そんなある日アルス兄さんのあの事件が起きた。


オーク50体とジェネラルオークを一瞬にして情け容赦なく消し去るといった人外ともいえる偉業を僅か4歳で成し遂げてしまったのだ。


それ以来、アルス兄さんは皆から英雄ではなく恐れの対象となり避けられるようになっていく。

そして徐々に父上とアルス兄さんとの距離も離れていった。


恐らく息子に対しての嫉妬が原因だろう。

父上の若い頃は、なかなか腕の立つ冒険者だったらしく名もそれなりに通っていたらしい。

それが僅か4歳の息子の方が強く、そして利口であると認知してしまったからだ。

だが、そんな父上とは真逆でアルス兄さんがブレず今迄過ごせてきたのは恐らく母上の存在があったからだろう。


そして今日も優しく俺達に声をかける。


「しこたまに怒られたようね。」


父上の書斎から出た俺達に透き通る美しい声がかけられた。


「母上‥。」


母上はスッとアルスを抱き寄せた。


「よく頑張りましたね。


けど、パパを許してあげて。

彼は寂しい人

今は貴方とどうコミュニケーションを取ればいいのかがわからないのよ」


アルス兄さんはゆっくり母上を引き離し何処か遠くの存在の様な微笑みを見せ


「母上、大丈夫ですよ。」


と一言つげると、空気を変えるべくアルバ兄さんが話題をふる。


「そういやスタン、今日持って帰ってきてる大量の渋柿はどうすんだ?」


そうだった、あの後大量の渋柿を袋詰めにして3人で持って帰ってきていたんだった。


「そうだったね。

アレはちょっと下処理に手間がかかるんだ。

俺1人だと大変だから兄さん達も今から手伝ってもらえる?」


「おっ、全然かまわないぜ。」


アルス兄さんもニッコリと笑顔を作り頷いた。


その会話内容に疑問を抱いたのか母上が俺に尋ねる。


「渋柿をどうするの?」


「あぁ。


あの渋柿を食べれるようにしようと思います。」


母上は目を見開き手を口に当てる。


「まぁ、アレは食べられるの?」


「はい。

良かったら母上も手伝ってくれないかな?

何分結構な量を持って帰って来ちゃったから大変だからさ」


母上は両手を前で合わせ喜びの表情を見せる。


「まぁ、一緒にやっていいの?」


「もちろんです」


俺はニッコリと笑い頷いた。


〇〇



「それでは渋柿を食べれるように下処理します。」


現在屋敷の庭にて袋詰めの渋柿の前に座るアルバ兄さん、アルス兄さん、母上を前に俺は立ち下処理の説明を軽くした後作業に取り掛かかった。


まず始めに①【吊るし柿】を作ろう。


渋柿を干す時は、皮付きでほしてはいけない。


②【渋柿を吊るし上げる】


荷造り用の日もなどを用意し


まず紐の両側に柿を引っ掛けていく。


紐の捻れを緩ませ、そこへヘタを差し込み捻れを戻す。


引っ掛ける渋柿の感覚は2個~3個程離す。


③【沸騰した鍋へ】


皮を剥き吊るし上げた渋柿を沸騰させた熱湯につける。

つける時間は10秒程でもかまわない。

こうすると圧倒的にカビの発生を妨げれるからだ。


④【揉み込み】


揉み込む前にまず渋柿を吊るしておく。


その時に渋柿達がかさばらないように気をつける。

何故気をつけなければならないのかは、重なってしまうと其処だけ乾かず、もしかするとカビてしまうかもしれないからだ。


そしてできるだけ風通しのいい場所がいいか直射日光を浴びるような場所は避けよう。


吊るして一時間程したら揉み込み開始。

揉み込む事でジブさが取れジューシーになるからだ。


⑤更に揉み込み


渋柿の表面が茶色くなってきたら更に揉み込みを行う。


茶色くなるには大体一時間ぐらいで茶色くなる。


これで①~⑤の工程を加えて、吊るしてから大体二週間で干し柿の完成だ。


〇〇


そして今日、アルバ兄さん、アルス兄さん、母上との試食会。


「どうぞ召し上がれ。」


3人は渋柿を手に取り勢いよく頬張った。


「!!!?」


3人の目が弾けるように見開いた。


「「「美味しい!!」」」


「何んでこんなに甘いの!?」


「それにあんなに硬かった渋柿がこんなに柔らかくてジューシーになるなんて」


「すげー!

こんな調理法で渋柿がこんなに美味しく食えるとは思ってもみなかったぜ。」


「これはもしかしたら私達の領地の名産品になるかもしれないわね。

後でパパに差し上げてもいいかしら?」


干し柿がそこまでの名産品に成る程なのか!?

まぁでも断る理由はないよな


「もちろんいいよ」


俺は笑って答えると母上は干し柿をもって父上の方へと駆けていった。


そんな嬉しそうに渋柿を頬張る3人の姿が俺にまた夢の未来を想像させ、酒屋を出すという意欲は更に増すのだった。








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