第3話 「一歩踏み出したその先へ」
「おおぉおぉ!!」
アルバ兄さんが拳に魔力を溜めている。
今は魔闘術の修行中だ。
体内の魔力を何処か一点に集中し集めると薄っすらと湯気のようなモノが出てくる。
それをムラなく綺麗に固定することで魔闘術の基礎は完成する。
だが魔闘術は戦闘中にすぐに発動するにはなかなかの熟練度が必要である。
何故なら集中し形状を維持するのに始めは時間がかかりすぎてしまうからだ。
「おおぉおぉ!」
徐々にアルバ兄さんの拳から出る魔力の湯気が形状を留めていき拳の周りでボンヤリとした白い光を留めた。
「しゃぁ!!
どうよペルシア。」
アルバ兄さんは自分の光る拳をペルシアに見せた。
「よく出来ました。
これが魔闘術の基本です。
毎日練習して直ぐに出来るよう頑張ってくださいね。」
「おう!」
そして俺はというと、なかなか苦戦を強いられていた。
前世では結構器用な方だと思っていたのだがこの世界ではどうやらそこまで器用ではないらしい。
何度繰り返しやってみても湯気がモヤモヤと溢れ出るだけで形状を留めることができない為、思わず声を荒げてしまう。
「あぁー!もう!」
俺のヤケになった態度にペルシアは優しく包み込むような笑顔で励ましてくれた。
「大丈夫ですよ。
何度もチャレンジすればいずれ出来るようになります。
それにお二人はこの短期間で並の大人程の魔力を手に入れたのですから焦らなくてもその成長ぶりは目を疑うものがありますよ。」
「そうだぜスタン!
俺が天才なだけだ!
気にすんじゃねぇよ。
なんなら教えてやろうか?」
ムカッ。
俺はアルバ兄さん手をユックリと下ろし丁重に断った。
「結構です。」
それからも毎日毎日繰り返し出来るよう魔闘術を練習した。
アルバ兄さんは魔闘術を発動するのには時間はかかるが既に魔闘術の基本は出来ているのでペルシアとの戦闘訓練にはいった。
俺はというと、未だ形を留めることが出来ないでいた。
くそっマジでできねぇ。
何でアルバ兄さんにできて俺にできねぇんだ?
集中力の問題なら落ち着きのないアルバ兄さんよか俺の方が集中力あると思っていたのに。
「スタンは魔力を放出しすぎだな。」
不意に耳元から声が聞こえ思わず声のする方向に振り向く様に回転しつつ後方へ飛んだ。
「ははは、凄い反応だね。」
そこには無邪気に笑うアルス兄さんの姿があった。
「アルス兄さん!?
どうしてここに?」
「前にも言ったろ?
僕は退屈なんだよ。
そんな時、魔闘術に苦戦する弟の姿が目に入ってね。
手を差し伸べたくなったのさ。
それに寝る前まで練習して呻き声を上げられちゃ僕も寝つきにくいからね。」
ゲッ、バレてた。
出来るだけ小さな声でやっていたつもりだったのに。
ここは素直に迷惑かけたことを誤っておこう。
「ご、ごめん。」
アルス兄さんはニッコリと笑い俺の頭を撫でた。
無駄に前世の記憶があるぶん幼いアルス兄さんに頭を撫でられるのは多少抵抗はあるが嫌な気はしなかった。
「気にすることはないさ。
寧ろスタンやアルバが頑張って成長していく姿は僕にとっての楽しみの1つだからね。」
「あ、ありがとう。
‥そ、それで魔力を放出しすぎってどう言う意味なの?」
「あぁ、そうだったね。
スタンは魔力を放出するまでは出来ているけど引き締める感覚が足りてないってことさ。
簡単に言うと手の平を開いてる時が放出で握る時が固定。」
思わず俺はキョトンとした顔をする。
「そんな簡単でいいの?」
「ははは、何?その表情。
そうだよ。
実は難しく考える必要なんてないのさ。
だからアルバら性格上、単純だから何となく分かったんだろうね。
スタンは考えすぎなんだよ。
ほら、やってごらん?」
俺は手のひらを広げ手に魔力を集めた。
そして湯気が上がった時に一気に握り拳を作る。
ブォン!!
「どうやら‥。
上手にできたようだね。」
思わず俺は握り拳を強く握り歯を食いしばると溜まっていた感情が涙となり声と共に吹き出した。
「できた!
できたぞぉ!!」
俺の大声でペルシアとアルバは修行を中段させ俺のほうに視線をむけ、静かな微笑みを見せた。
俺は、前世でなんでもかんでもある程度の事をある程度こなしてしまう為、極めるといったことをした事がなかった。
努力する。
そんなものに何の価値があるのか‥。
適当にして適当にできれば良いじゃん。
そんな風に思っていた俺がこんなにもガムシャラに練習するなんて思いもしなかった。
そういえば、俺の知り合いが昔俺にこんなこと言ってたっけ。
俺は小さな頃から空手をやっていて、高校になるまでは周りにチヤホヤとされ大会でも負け知らずだった。
だが一変して高校に入ったとたん俺はすんなりと負けてしまい自信を失い腐っていった。
そんなとき講師に言われた言葉
「おい、真司。
お前は優秀なのにもかかわらず何処か努力せず諦めグセがついてきているな。
諦めずに一回本気になってみろ。
楽しいぞ。」
「なんで?勝たれへんもんに無理矢理挑まなあかんねん適当にやって適当にしてたらええんちゃうんか?」
俺の心は荒んでいて反抗的な態度しか取れなくなっていた。
「なら、なんでそんなに拳を握る必要があるんだ?」
知らぬまに強く握り拳を作っていた俺の手を講師が両手で包み込み。
俺の目線に合わせた。
「いいか真司。
聞き流して聞いても構わない。
毎日の#タスク__作業__#を精一杯やり、コツコツと努力することはカードを一枚一枚揃えていく事と一緒なんだ。
そしてその努力を続けていけば、いつか必ずと揃う時がくる。
それが夢や願望が実現する時なんだ。
ただカードが揃う速さには人によって違いがある。
速い人もいれば時間のかかる人もいる。
だけどそれでも毎日#タスク__作業__#を続けていけばカードは必ず揃う。
もちろん、スポーツ選手のように肉体的や年齢的、あるいは持って生まれた才能など、物理的な要素で夢が実現しなかったり、また不慮の出来事などで途中で諦めざる得ない場合もあるかもしれない。
そんな時でも重要になってくるのは日々の#タスク__作業__#をコツコツとやっていたかということだ。
つまり、重要なのは夢が実現できるかどうかではなく#プロセス__過程。経過。__#なんだ。
そうすれば夢が実現しなかったり途中で諦めざる得なかった場合であっても次のステップに進むことができるんだ。
つまり‥なんだ。
俺はお前に努力する楽しさや達成感を味わって人生を楽しく生きてほしいんだよ」
「じゃかましいわ!お前に何の関係もあらへんやろが!」
当時の俺は講師の思いやりの言葉にも耳を傾けず講師の手を振り払いそのまま部活には顔を出さなくなった。
俺にとってのこの数日間は自分を成長させる第一歩だったのかもしれない。
今になって講師のあの言葉が心にしみた。
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