第2話 「長男アルス」

アルバ兄さんは俺を引き連れ、父と母に戦闘指南役を派遣してもらうよう申し込んだ。


「それなら丁度いい人物がおるではないか」


父はニッと微笑み俺の背後に立つペルシアを見た。


「やってくれるな?」


ペルシアは耳をピクピクと動かしシッポを立てると、手を胸にあて頭を下げた。


「喜んでさせていただきます」


それにアルバ兄さんは少し驚きの表情を見せると、父はまた笑顔を見せる。


「ははは。


何も以外な事ではない。

ペルシアはこう見えても元冒険者でランクSの凄腕だったのだ。」


「Sランクだって!!?」


アルバ兄さんは声を裏返し声を上げ驚く。


冒険者ランクとはE~Aへと順番にランク分けされていて、SランクとはAランクの更に上、なろうとしてなれるものではない最強冒険者の称号といっても過言ではないランクなのだ。

その最強の冒険者がこんなにも短にいた事にアルバが驚くのも無理はないだろう。


「そうだ。

指南役としてこれ程の逸材はいないだろう。」


こうして俺とアルバ兄さんはペルシアの指導の元で修行する事となった。


そして、翌日から俺の屋敷の裏には岩山が連なっていて奥にいくと丁度いい広場がある。

そこで修行開始。


ペルシアはまず始めに俺とアルバ兄さんに戦闘術を教えるのではなく魔力の増加を重要視し、基本魔法の【#弾丸__パレット__#】(魔力の弾を放つ)系を教え、魔力が無くなりぶっ倒れるといった事を何度も何度も繰り返させた。


そうすると、倒れて目が覚めた時には自分でも分かるぐらいの魔力の増加を感じ取れた。


何故、ペルシアは先に魔力の増加を重視

したのかというと、この世界の戦闘においても魔法は不可欠で魔法の使い方次第で力の弱い弱者が力の強い強者に勝つことも可能になる。

そういった点をみると、まだ子供の俺らからしたら大人は強者で力で敵う相手ではない。

つまり大人相手に現状で上回れるとしたら魔力で上回る他ないとペルシアはおもったからだった。


毎日毎日、昼食の後から晩までミッチリ気絶を繰り返しやり続けた。

勿論、修行だけでなく朝の9時から12時までは俺もアルバ兄さんも自分の専属メイドからの英才教育のほうもミッチリとだ。



そして一年の歳月が流れた。



俺とアルバ兄さんはこの短期間で皆が驚く程の成長ぶりを見せ、並の大人ぐらいの魔力を手にいれていた。


「はい!

今日はここまで。

よくこの一年間頑張りましたね。

明日からはステップアップで魔力を纏う戦闘の基本【魔闘術】をならいましょう。」


そういってペルシアは夜の仕事へと向かった。


「魔闘術かぁ‥。

まさかこの短期間でここまでこれるとはな。」


アルバ兄さんは喜び「ニシシ」と嬉しそうな笑顔を作る。


パチパチパチパチ。


手を鳴らす音が聞こえ、その方へと俺とアルバ兄さんは目を向ける。


「すごいじゃないか2人とも。

こんな短期間でそこまで強くなるなんて。」


ブロンドの髪に中性的な整った顔立ちの美少年が月夜に照らされ現れた。


「あ、アル兄ぃ!?」


そう、現れたのは5つ上の長男アルス兄さんだ。


アルス兄さんは武芸において100年に一度の天才と歌われる程の実力の持ち主で頭もズバ抜けキレる。


「いやなに、やっぱり兄として弟達の事は気になるだろ。

お前達は良くやっているよ。」


アルバ兄さんは軽く鼻で笑い肩を竦める。


「へっ!

アル兄ぃに褒められても嫌味にしか聴こえねーよ。

もともと持ってるもんが違うんだからよ。」


そうだ。

アルス兄さんは俺とアルバ兄さん見たいに修行して魔力を上げたりなどしていない。

元々生まれてきた時からの魔力の質量が桁違いだったのだ。


そんな優秀すぎる程優秀なアルス兄さんとアルバ兄さんは比べられ続け、アルバ兄さんはアルス兄さんの事が嫌いな訳ではないが対抗意識がむき出しになり何かと勝負事を吹っ掛けては負けている。


俺自身はアルス兄さんの実力がどれ程のものなのかハッキリと見たことはないがアルス兄さんは冒険者の間でも名が通るような伝説をもっていた。

他の街の貴族のパーティに我が家が出席する為、馬車を2日走らせた場所にあるパーシャルの街へ行く道中。

50対のオークに囲まれ、父と母、護衛の騎士や冒険者達は応戦したがオークの中にジェネラルオーク(モンスターランクA)が紛れていて苦戦を強いられた。

だが馬車から当時4歳の幼児アルスが現れ呪文を唱えた。


【#無数に飛び交う氷の牙__アイスランチャー__#】


アルスは周りにするどく尖った氷をいくつも生成させ浮き上がらせると四方八方に飛び散らせ一気にジェネラルオーク共々も眉1つ動かさず抹殺したのだ。


それ以来アルスを恐れ騎士達は近づこうとしなくなりアルス自身も家族との食事以外は皆の視線に幼いながらも気付き部屋に閉じこもる生活を送っていた。


そんなアルス兄さんが今目の前にいる。


「アルス兄さんが外に出るなんて珍しいね。」


「たまには出るさ、部屋の中にずっといるのも退屈だからね。」


そういってアルス兄さんは少し悲しそうな瞳を月に向けた。


「おーし!アル兄ぃよ!

俺らもこの何ヶ月である程度の魔法を使えるようになったんだぜ。

だから勝負だ!」


うわぁ、また勝負いどみだしたよアルバ兄さん。


アルス兄さんはクスっと微笑み肩を竦める。


「なかなか懲りないなお前も。」


「そうだよ。

どうせ負けるんだから。」


ゴチン!


「あいて!」


アルバ兄さんの拳が俺の頭におちる、、


「バカやろ!

やる前から決めんじゃねぇ!

勝負はやってみなきゃわかんねぇんだよ!」


「ははは、嫌いじゃないよ。

アルバのそういう所。


で、一体何で勝負すればいいんだい?」


「ズバリ!毎年恒例、渋柿の襲撃で俺とスタン対アル兄ぃで、渋柿を打ち取ったほうが勝ち。」


渋柿の襲撃。

この世界も四季があり、秋口になると渋柿が山でなる。

ただ俺の元いた世界と大きく違うのが渋柿が沢山なると、渋柿のヘタを回し飛ぶように山から下りてくるのだ。


そしてまたその勢いが凄くて、その渋柿達が街の家や物に当たると中々の破損危害に追われる為、女子供関係なく魔法を使えるものはフルアーマー装備のち渋柿を迎え撃つのだ。


「っつか、アルス兄さんにソレ敵うわけないじゃん。

アルス兄さんなら一気に片付けちゃうだろ?」


ゴチン!


またもや俺の頭にアルバ兄さんの拳が落ちる。


「馬鹿野郎!!だからやる前から決めんじゃねぇ!」


「てて、て待てよ。」


そういえば打ち取った渋柿っていつもどうしてんだ?

この世界で柿とか食ったことねぇな。

この疑問を普通に問いかけてみた。


「っつか渋柿ていつもどうしてんの?」


アルバ兄さんは顎に手を当て上を見上げ目を泳がす。


「え、えぇーと、

たしか捨てんじゃなかったかな?」


アルバ兄さんの曖昧な返答にアルス兄さんがフォローに入る。


「渋柿は名前の通り渋すぎてね、人が食すには適していないから渋柿の襲撃が終わると大体は燃やしてしまうんだよ。」


「なんだって!?」


俺はその事実に目を見開き声を大きくあらげ驚いた。


「な、なんだよいきなり?」


「だってせっかく美味しく頂けるものを捨てるなんて。」


アルス兄さんは目を開き珍しく驚いた表情を見せた。


「食べれるのかい?」


俺は確信を持ち頷いた。


「うん、ちょっと手間と時間はかかるけど美味しく頂けるよ。」


「おいおいウソだろあんなもん食えねぇだろ!」


あり得ないと言わんばかりの顔で騒ぐアルバを他所にアルスは少し考えごとをするように口元に手をやった。


「へぇ、特別な調理法か。

料理の本も僕は一通り見てるけどそれは見たことがなかったな‥。」


「まぁ食べてからのお楽しみだね。

だから打ち取った渋柿は残しといて、俺が調理してみるよ。」


「それは楽しみだ。」


アルス兄さんはニッコリと笑った。


「あの、俺との勝負は?」


話が脱線しアルバ兄さんは本題にもどろうとすると、アルス兄さんはいつの間にか俺とアルバ兄さんの間に入り込み俺とアルバ兄さんの肩に手を置いた。


「アルバ、勝負はまた考えておくよ」






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