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「ま、待って、それって、どういうことなの。だって、願いを叶えるって、え?」
パニックに陥る頭に怒りが込み上げる。無様に慌てふためいてどうする。しっかりしろ、東みそら。
『東みそら。あなたに会いたいという御門あかりの願いが、災厄の最後の扉の鍵でした。それをあなたは、開けてしまった』
「そん、な、」
「ごめんね、みそら、ごめんね」
膝から力が抜け、へたり、と座る。寄り添うあかりの温もりが妙に冷たく感じる。
「でもそんなの、こいつは知らなかったんだろ! そもそも災厄って何が起きるんだ! 御託はいいから結論を教えてくれよ! ボクらは一体どうなるんだ!」
三門が母さんに噛み付いていく。星の点滅がさっきより緩やかになっているように思えた。
『結論、ですか。それならば簡単な話です。災厄を、星も人も滅びる前に、御門あかりと東みそらが輪廻に加われば良いのです』
「僕は兎も角、あかりは輪廻から外れてしまっているはずでしょ」
『それも心配には及びません。言ったでしょう。ワタクシも輪廻の輪に還る時が来たと』
「まさか」
僕は目を見張る。
『ワタクシが御門あかりの輪廻になりましょう』
あかりは口を覆い、瞳いっぱいに涙を溜めている。
「待って、じゃあ御門あかりと蒼星くんの力は何処へ? 蒼星くんが輪廻に加わってしまったら、今の星守り人は誰になるの」
三門の疑問に再び僕らは顔を見合わせた。
確かにそうだ。やはりそんなこと、無理だ。
『簡単なことだと言っているでしょう? 東みそらの力はそのまま遊星にお返しなさい。御門あかりの力はワタクシが一旦預かり、そこから分散させましょう。ワタクシにもそれくらいの力量は残っています。そして、星守り人は、あなた。三門つばさが務めなさい』
突然の指名に三門は目を丸くし、口をぽかんと開けたまま、固まった。
「いやいやいや、ボクが突然星守り人だなんて、そんなこと」
『出来ますよ。元々あなたは御門の血筋を受け継ぐ者。その根底に眠っているはずです。星守り人になれる力が。そして規律を守る素直さと、人の為に身を差し出せる決断力は、まさに星守り人の器です。ワタクシが保証します』
「いやいやいやいや、……え? 嘘、ほんとに? え? いやいや、え?」
困惑する三門には悪いけど、その様子はとても面白く、そして可愛かった。僕とあかりは微笑み合う。
「ちょっとちょっと、何イイ感じで微笑み合ってんのそこのお二人さん!?」
三門のツッコミが笑いに拍車をかけていく。耐え切れずに僕らは声を上げて笑った。
『遊星』
『……なんでィ』
『良かったですね。砕け散る前に、間に合って』
『うるせィやィ』
『彼等は無垢な良い子です』
『……フン、うるせィ餓鬼共だロがよィ』
星達の会話は僕らの耳には届かない。束の間の幸福。僕らはもう、「僕ら」ではいられない。僕らは変わる。それに合わせて世界も変わる。変化しないことなんて、きっとこの世にはないのだ。星が巡るように。星が墜ちるように。誰かが願うように。夜が明けるように。
『さぁ、時間です。御門あかりはこちらへ。三門つばさはそちらへ。遊星と東みそらはあちらへ』
僕らは最後の挨拶をし合う。
「三門。有難う。君のお陰であかりを救えたよ」
「ボクはとんだ役目を請け負っちゃったけどな! まぁ、楽しかったよ。次は掟破りなんなすんなよ、御門あかりも」
「ええ、三門つばさ。私の代わり、宜しくね」
「きっともう、分からないのかな」
「きっともう、分からないのかもね」
「それでも静かに祈るわ、心で。あなた達にまた逢えるように」
あかりの言葉に僕らは頷き合い、少し触れるだけの抱擁を交わした。
『さぁ、早くするのです。時間がありませんよ』
「母さん」
せめて。これだけは。
「ごめんなさい、欺くようなことをして」
『言ったでしょう、蒼星』
星が、瞬いた。
『ワタクシはずっとあなたを見てきました。本当の息子のように思っていたのですから。蒼星。ワタクシの蒼星。きっといつか、星が巡ったなら、その時は、』
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