触れ合いたい。それだけが。

1

 光に飲まれた僕等は何処かの空間に放り出された。それは薄暗い夜の闇のような、少しだけ明るいような、不思議な場所。そして懐かしい場所だった。僕は思い出している。……これは。


「……みそら、ここって……」


 どうやらあかりも同じことを感じているようだ。


「うん。僕も同じこと思ってた」

「なになに、二人だけで完結しないで。分かってるなら教えてよ」


 僕とあかりが手を取り合っている横で、三門は怯えたように膝を抱えて丸まり、しゃがみ込んでいる。


「もしもこの推測が正しいなら、答えは一つだよ」

「私達がかつていた場所だわ。そしていつか戻る場所」

「……それって、もしかして、」

『そうです。ここは、星の還る場所。あなた方人間の魂の休息の場でもあります』


 突然の声に振り向く。その声は紛れもなく。


「母……さん……?」


 だがそこに在るのは機械人形ではなく、二つの星の輝き。一つは遊星なのだろう。ならばそのもう一つが。


『この姿で会うのは初めてですね、蒼星』

「母さん……どうして」

『……あなた方を守る為に』

「どういうこと……? 輝族がボク達を守る? どう考えても今、死に近いと思うんだけど…!?」


 三門が半泣きの状態で叫ぶ。無理もない。僕とあかりはこの場所に来たことがあるが、彼女は初めてだ。普通ならとっくにパニックを起こしているだろう。


『そうです、あなた方は今、死のすぐ傍まで来ているのです』


 母さんは突き放すような声音で告げる。


『生きるか、死ぬか。それはあなた方次第。選択するのはあなた方です。時間はありません』

「何を選択しろと仰るのです……!」

「そうだよ、ボクは全然意味が分からないよ……!!」


 あかりと三門が叫び、僕は遊星を見つめ、その輝きの淡さに気付き、そして悟った。


「母さん……もしかして」

『その通りです』


 凛とした声が響く。それは本物の母親による威厳さのように僕をしゃきんと正す。


『ワタクシは、流星となって命を運ぶ役目を持っている。その時が来たのです』


 母さんは既に遊星を解き放っているようだけど、遊星はこちらに来ない。自分の意志であちらにいるようだ。


『御門あかり』

「…………はい」


 逡巡の後、あかりは観念したように一歩前へと進み出る。


『あなたのしたことは許されないものでした。あなたが引き金となり、蒼星、いえ、みそらまでが掟を破ってしまった。故に災厄は訪れました。我々星の力を持っても起きてしまったことは変えられなかったのです。怒り狂った世界には分かりやすい贄が必要でした。……あなたを贄として選んだのは、ワタクシです』

「母さん……」


 弱々しく点滅を繰り返すその星からは罪悪感が透けて見えるようで。


『星を代表して謝罪します。御門あかり。あなたには必要以上の枷を与えました。仕方のなかったこととはいえ、あなたも苦しんだことでしょう』

「……掟を破ったのは、私でした。戒められて当然です」


 あかりのその毅然とした態度は、あの日の幼いあかりと同じように、神々しく思えた。


『東みそら。あなたもです』

「……はい」

『あなたの掟破りは本来御門あかりより罪の重いものです。流れゆく星に祈るなんて、前代未聞です。それを聞き入れた遊星、あなたも同罪です』

『……ヘィ』


 星の横で遊星が項垂れているのが分かって、緩みそうになる頬に必死で力を込める。


『あなたを星守り人へと推したのもまた、ワタクシです。あなたを災厄から守り、あなたの恐ろしいほどに高まった力が暴走しないよう管理し、あなたと御門あかりが出会うことを妨げることで、破滅を防いでいたのです』


 突然、自分に当たったスポットライト。告げられた真実は重くて暗い。


『災厄はまだ終わっていないのです』

「……母さん、それ、どういうことなの」

「あのね、みそら。星砕きの魔女の名前の由来、知ってる?」


 あかりは、悲しげに微笑んでいる。僕は、何を、知らない?


「自分の願いを叶える為に、全ての願いを砕いてしまうからなんだよ」

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