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「母さん……! 遊星を離して!」


 無機質な機械人形が不気味な静けさで立ち塞がる。その指先が遊星の尻尾のような部分――恐らく流れ星の尾だ――を掴んでいる。確かそれを握られると力が入らなくなると、幼い頃遊星に叱られた記憶がある。

 いつの間に、という歯痒さと同時に、当然だという諦めも脳裏を過ぎる。いや、ここで諦める訳にはいかない。人形の一体くらいならば、素手でもきっと立ち向かえる。あかりを背中に庇いながら、僕は拳を握り締める。


「蒼星、あれほど言ったでしょう。あなたは立派な星守り人にならなければいけない、と。なのにこれはどういうことです。その魔女だけならともかく、無関係の娘まで引き連れて。そんな子に育てた覚えはありませんよ」

「母さん……僕は……、こんな生き方、望んじゃいなかった……!」


 それは15年、いや、20年。あかりと離れてからの今まで溜め込んだ叫びだった。


「僕は……僕達はただ、離れたくなかっただけだったのに……!」


 やれやれ、と母親代わりの人形は首を傾げた。妙に生々しい動きに背筋にぴりりと電気が走ったような衝撃を感じる。


「あなた達にはお仕置きが必要みたいですね」


 遊星を捕まえている方とは反対の人形の腕が宙へ伸ばされ、掌から光が溢れ、世界が回転する。


「きゃあっ」

「なん、だ!?」

「た、すけ……!」


 フフフ、と不気味に笑う母さんが視界の端で揺らめき、僕達は全員その光に吸い込まれていく。


「回収、完了」


 しゅぽん、という音と共に、空間が暗転するのを遊星は見ていた。そして、違和感を覚える。


『オイオイ、お前ェさん、まさかヨォ』


 機械人形は微笑まない。動かない表情の割に心なしかウキウキと弾んだ指先が、遊星に触れて、そして彼もまた光に吸い込まれた。

 一人残った人形は辺りを見渡し、その脳天から、一筋の輝きが三人と一つを飲み込んだ光を目掛けて流れていく。

 それは願いを叶える流星と良く似た、希望に満ちた輝きだった。

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