3

 僕の独白を聴いた三門は押し黙り、口を開こうとしない。僕等の間には沈黙だけが存在し、何処からか耳に届く時計の秒針の音がやたらと大きく聞こえる。アイスコーヒーはすっかり温くなっていると思う。もう飲む気も起こらない。

 これは僕から声をかけた方がいいのか。でも一応疑問形で投げかけた後だし、でも、という僕の気持ちを察してか、遊星までもがうろうろと落ち着きのないまま音もなく飛び交っている。


「蒼星くん」


 ぴりり、とした声で三門は、動いた。顔はこちらを見ていない。声だけが僕を射抜く力強さと熱を持っている。


「あなたの話が本当なんだとして、御門あかりとあなたが何をして、それを世界は隠蔽したのか気付いていないのかは知らないけれど、とにかくあなた達を引き裂いたことは、分かった。でもそれがボクと何の関係がある? あなたのことだから、ボクの名前を聞いた時にはきっと、ボクと御門あかりに何らかの関係があることを見抜いていたんだよね? だからあんなに素っ頓狂な声をあげた。つまりは意図的にこの話をボクに聞かせたことになる。あれかな、落ちぶれた愛する人の分家を哀れんで、本当は僕のせいなんです! って勝手に罪滅ぼしでもしてるつもりなのかな。だったら余計なお世話だ。ボクにとっては憎む対象が増えただけで、世界の真実だとか、理だとか、御門あかりの覚悟とか、あなたの感傷とか、本当に、そういうの、反吐が出る」


 一気に捲し立て肩で息をする三門は、まるで雨に打たれた小さな獣のようだった。それは確かに哀れみを誘うには最適な姿なんだろう。


「そうだね、もしも罪滅ぼしの為だったらいっそのこと、もっと良かったのかもしれない。でも僕は、そんな美しい人間じゃない。もっと利己的で、我が儘なんだ。世界と女の子を天秤にかけて、何の躊躇いもなく世界を見捨てた男さ。今更分家の君の為になんて、動くはずないだろう」

「じゃあどうして!!」

「協力して欲しい」


 俯いたままの彼女の髪が、ぴくり、と揺れた。


「……協力? ボクにまで罪を背負えなんて言うつもり?」

「そんなことは言わない。ただ、これは御門の家に通じることが出来る人物に協力して貰わないといけないことなんだ」

「…………」


 そろり、と前髪の隙間からあの快活な目が光った。


「御門の家は今、封鎖されてる。それこそあなたのお守りきぞくが管理してるんじゃない?」

「そうなんだよ、話が早い。遊星」

『やっと出番だゼィ』

「輝族と御門家のデータを」

『やっとだと思ったら星遣ケェの荒レェやつだなァオイ』

「煩い。早く」


 遊星はヤレヤレィと溜め息を吐きながら僕と三門の間、テーブルの上に光を放ち、映像を映し出す。


「なんだお前、そんなこと出来たのかよ」

『当たり前だろィ。俺様はお星様だぞィ』


 言いたいことは沢山あったが、ここは黙っておこう。


『御門の家の見張りはァ、朝5時ィ、昼2時ィ、夜11時ィに交代だァ。その時に必ず情報のォ共有データを渡すのかァコピーするのかァ、両方の輝族がィ、ロボの本体から抜ける瞬間がァ、あるんだぜィ』

「僕はその瞬間を狙って、御門家に侵入し、奥の奥にあるらしい『座敷牢』を目指したい。きっとそこにあかりがいるはずなんだ」


 僕は映像を食い入るように見つめている三門を見つめる。


「それには三門、君の協力が必要なんだ」

「……何をするの」

「御門の家の構造が知りたい」


 あと、一押し、かな。


「三門、君は何もしなくていい。この話を聞かなかったことにして、何の問題もない。ただ、あの家の構造を教えてくれたら、それでいいんだ。特にその座敷牢への道筋が分かれば、他は別にどうでもいいんだよ」

「……設計図でもあれば、いいってこと?」

「そう。まさにそういうこと」

「それなら出来ないことも……ないと思う」


 ……釣れた!!


「じゃあ!」

「ただし」


 三門つばさにはやはり、御門あかりと同じ血筋が流れているんだ。その瞳、その決意で輝く瞳は、見覚えがある。僕が何を言っても無駄なほどの、強がり。


「ボクも連れていって」

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