かつて死んだ星に抱かれて。
1
「じゃあ早速説明してもらおうか」
僕は三門に連れられ、近場のカフェとやらでアイスコーヒーを前にしている。
確かに言った。ゆっくり出来る場所はないか、と。でも正直に言おう。この店は、落ち着かない。落ち着く訳がない。こんなにゴミゴミしている、これは決して比喩ではなく、本当にゴミで溢れている空間に辛うじて並べられた机と椅子は、もう既にギシギシと縁起でもない音を立てているし、何より出されたアイスコーヒーが本当に飲めるものなのかという疑問が拭い切れない。というか、なんか、どう見てもその辺にあった紙コップにとりあえず存在していたペットボトルのコーヒーを注いだようにしか見えなかったんだけど。
「なぁ三門、ここは何処なんだ」
「見りゃ分かるでしょ。カフェよ、カフェ」
「いや、そうじゃなく。それに例えカフェだとしても、ここはカフェ失格だろ……」
「なんてこというの。ここはボクの家だよ。お祖父様が残した大切な場所なのに」
「じゃあ尚更なんでこんなにゴミ屋敷になってるんだよ……!」
「むむ。そんなこと訊いちゃう?今日会ったばかりのただのクラスメイトのプライベートにズカズカ踏み込んじゃう?」
「な、なんだよ、その言い方……」
三門はツンとそっぽを向いてしまった。ご機嫌を損ねたようだ。ここは先に僕の話からした方がいいのだろうか。
「何から話そうか」
「じゃあまずそれから」
三門は僕の右斜め上辺りを指して微笑む。
『それとはなんだィ、それとはよィ』
「やっぱり喋ってる!」
「彼は遊星。僕の……なんだろ」
『お前もかよィ蒼星。こいつァ大変だァ。俺様のことを敬いもしねェポンコツな餓鬼が二人も揃っちまったィ』
「遊星は口が悪い元流れ星なんだ」
「やっぱりお星様なんだぁ。というか、これ、誰も見えないの? もしかして」
「うん、そのはずなんだ。僕以外は見えないし聞こえないはず。……輝人は別だけど」
「輝人って……あぁ、確か星守り人のお世話係のロボットだっけ」
「まぁそんなようなもの。現実はもっと生臭いけどね」
「え? ロボットなのに臭いの?」
一瞬の静寂。互いの食い違いに気付いて僕等は同時に吹き出した。
「何言い出すんだ三門! 僕は腹が捩れるかと思ったよ!」
「あなたが紛らわしいこと言うからでしょ蒼星くん! あー、おかしい。裏の事情があるってことね、あー、笑った笑った!」
『お前ら同類の阿呆だなァ』
遊星の口の悪さすら燃料にして、僕等は暫く笑い転げた。こんなに笑ったのはいつぶりだろう。……少なくともこの15年、そしてあの5年間は笑えなかったのだから、これはいいことなのかもしれない。……『彼女』への罪悪感が痛まなければ。
僕が笑うのを止めると同時に、なんだか三門の表情も曇って見えた。
「三門。君は『御門あかり』を知っているかい?」
「……知ってるも何も。ボクの家が没落した原因を作った張本人だよ」
三門はギリリと唇を噛み締める。
「世界一の大罪人、星砕きの魔女。あれはボクの一族の仇だ」
ああ。あかり。君は君の繋がりにすらこんなに恨まれているんだね。
「それが何? 関係あるの?」
「うん。とっても。彼女を星砕きの魔女にしてしまったのは、僕だから」
「……はぁ?」
遊星を紹介した時より怪訝な顔の三門。僕は改めて姿勢を正す。
「僕の本当の名前は
「それ……って」
「そう。僕は前世を知っているんだ」
三門は頭を横に振りながら手元にあった紙コップを呷った。
「馬鹿馬鹿しい。前世? そんなの」
「ある訳ない?」
「うん、有り得ない。だって」
「それが決まりだから」
「なんだ、分かってんじゃん」
「……もしそれが嘘だったら?」
考え込む彼女。無理もない。僕等はそう教わってきてるんだから。
「……証拠。証拠見せてよ」
「今君は見てるよ」
「え?」
ちっともピンと来てないらしい。
「三門。僕等はどうやって輪廻に組み込まれてる?」
「……そんなの決まってる。星に組み込まれてるんだ。一つと一人は表と裏。ボク等は一度星になって、流星と共にこの世界に舞い戻る。そんなの常識じゃないか」
自分を馬鹿にしてるのかと憤慨する彼女を窘めるように手で制す。
「遊星」
『なんでィ』
「はい。証拠だよ」
「まさか……」
「そのまさか」
唖然とする三門。僕はとても緊張している。なんといってもこのことを誰かに話すのは、初めてのことだからだ。
「遊星はね。僕の流星なんだ。僕の輪廻を運ぶはずの、命運を握っていたはずの、そしてあの夜尽きるはずだった、流れ星なんだよ」
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