2
「蒼星です。よろしく」
15歳の誕生日を迎えたその日から、僕は学校に通うことになっていた。星守り人は子供の間、世界に染まらない為に隔離される。輝族とだけ接し、与えられた環境で決められたことだけを学ぶ。それが正しいことだと、疑っていない内は問題ない。だが知ってしまえば、それはただの檻でしかない。『世界に染まらない為』なんて嘘で、本当は『都合の良い人間へ染める為』でしかないと、知らなくてもいいことを知ってしまった僕は何処までも卑屈になれる。
「星守り人だって」
「うわ、本物かよ」
「しかもあの星守り人でしょ?」
「あとで握手してもらおっかな」
「じゃあ私はサイン頼んじゃおっ」
耳障りなざわめきはとても懐かしかった。まるで20年前の、君がまだいる頃の、あの幸せに満ちた喧騒のようだ。
「蒼星さんはしきたり通り、初めての学校生活です。皆さん、良くしてあげてね」
正真正銘の15歳達はとても輝いて見える。夜空の一等星くらい、眩しい。僕は一体何等星になら、なれるのだろう。世界の真実を知り、世界の裏切りを知り、世界には、自分には、未来には、何の意味もないことを知ってしまった、僕は。宇宙空間に投げ出され漂いながら旅を続けながら、静かに停止する時を待つボイジャーのように、孤独と絶望を抱く、僕は。
「蒼星くん、よろしく」
二人一組で使う机の片割れの生徒が声を掛けてきた。肩までの黒髪に活発な印象を与える明るい瞳。
「よろしく」
「分からないことがあったら何でも訊いて。ボクはつばさ。みかどつばさ」
「
突然の静寂。それを生み出したのは僕だ。あまりの驚きに声を荒げ、椅子を倒す勢いで立ち上がってしまった。思わず赤面し、椅子を直しながら着席する。先生は苦笑し生徒は囁き合った。遊星の皮肉な笑い声が聞こえる気がする。みかどつばさ、と名乗った少女は呆れたように溜め息をついた。
「なに? ボクの名前、そんなに変?」
「……いや。知人も御門っていうから驚いて」
「ふぅん。でも残念でした。ボクはみかどはみかどでも三つの門って書いてみかどって読むんだ。蒼星くん、キミの知人さんの漢字とは多分違うでしょ」
「あ、ああ……違うな。僕の方は……禁じられた御門だ。そうだよな、いるはずない、か」
「禁じられた……? ああ、御門、か。なるほど」
それきり
そこからは滞りなく一日が過ぎていった。三門つばさはあれから目も合わせてくれず、早々に帰宅したようだ。きっと『彼女』に繋がる縁だっただろうに。初日にやらかしてしまった代償の大きさを噛み締める。
とびきり珍しい転入生と関わりを持とう、あわよくば少しでも他人より良い縁を結ぼうと、生徒達の群がる放課後から逃げ出して帰路につく。星守り人と親密になると、その星の加護の煌めきの欠片を授かることが出来るなんていう伝承があるせいだ。普通の人間にとって星の加護は、例え残滓でも多大なる幸福を齎す。あやかりたいのは当然だろう。
喧騒を抜け、ひとりになった僕に星の輝きが寄り添う。人には見えず聞こえずの、認知されない、孤独な星が。
『フンッ、下らねェな』
「仕方ないよ。人間は弱い生き物なんだ」
『それにしても人間の餓鬼ってェのは、なんともまァ、うるせェ生き物だなァオイ』
「星だって大概口の悪い生き物だけどね。というか生き物って言っていいの?」
『星は生きてらァ。立派な生き物だろォがィ』
「何と話してるの、蒼星くん」
第三者の乱入によって、ひとりとひとつは慌てふためくことになる。しかも、そこにいたのは。
「三門……!?」
「ねぇ、そこに何がいるの?」
三門つばさは明らかに僕の右斜め上に存在している何かを視認している。
「しかもそれ、喋ってたよね?」
「やっぱり三門、君が『彼女』に繋がる縁……いや、最早鍵だ」
分からないことへの不安、それを教えない僕への不満、未知の何かへの恐怖と興味が見て取れた。
「知りたい? 三門」
「何を? 何を知りたいと言ってるの?」
僕はにやりと笑う。これから起こっていくであろう冒険と危険、そしてその先に待つ君の姿を想像して。
「僕と星について。そして世界の理について」
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