降り注ぐ星の光に見守られ。
1
星守り人の1日は、まだ星が空に残る夜明けに始まる。朝の祈りを捧げ、昨日の平和に感謝し今日の幸福を願う。自分で言うのも可笑しな話だけど、僕はちっとも真面目な星守り人じゃない。寝ぼけ眼に働かない頭、眠気に負けそうな体を引き摺って、星守りの塔に向かう。正しい文言も唱えない。ただ美しいまま朝日の中に消えゆく星々を眺めて、朝の勤めを果たした気持ちになる。
「あ」
夜の切れ端のような闇が少しだけ残る西の空に、一筋の流れ星を発見。今日もまた何処かで新しい命が生まれるのだろう。
「星の加護を、と」
事務的に唱え、すっかり明けてしまった夜に別れを告げる。僕は星より太陽の方が好きだ。星守り人としては失格とも言える。が、気にしない。そもそも僕はまぐれで選ばれてしまったようなものだから。
星守り人。この世界の誰もが憧れ、切望する、この世の均衡を保つ大切な仕事。星の加護を受けて生まれ、星の声を聴くことが出来る特別な子供に託される、そんなお役目だ。
僕は、なりたくなかったんだ。こんなもの。本当は、僕のこの地位にいたのは、『彼女』だったのに。
「
星の欠片が宿った機械人形、僕の母代わりの
「なに、かあさん」
生まれた時からの付き合いだ、もうすぐ15年になる。言わんとすることは伝わっている。
「あなたは立派な星守り人にならなければなりませんよ」
「分かってるよ、大丈夫」
「あの忌々しい星砕きの魔女の招く災厄が再び発現する前に、あなたが一人前になれば良いのです」
「そうだね」
僕の言葉に安心したかのように、輝族の母は去っていった。
「
『なんだよォ、蒼星』
「例の件は」
『せっかちだなァお前は。安心せィ。ちゃぁんと探しとるわィ』
「どうだか。もうすぐ15年だぞ」
『仕方ねェだろィ。俺は実体もねェんだ。行動範囲だって限られてンだぜィ』
遊星は焦るなと鼻で笑うが、仕方ないだろう、焦るに決まってるだろう、僕は『彼女』に会うために、『彼女』を孤独にしない為に、星を砕くことも覚悟して願ったというのに。何も出来ずに14年も経ってしまったんだ。つくづく自分の無力さを呪ってしまう。
『いいかァ、星守り人は15歳になれば、世の中を知る為に外の世界に触れることが許される。お前の行動範囲が広がれば、俺の探査能力だって上がる』
「分かってる。ここからが勝負所、だろ」
『ヒュー、お熱いねィ』
「茶化すな」
「見つける。そして守るんだ」
もうすぐ僕の本当の人生が始まる。
20年前。一つの星が消滅した。その衝撃は凄まじく、人々の住む地上にも大きく影響し多くの死者が出た。一人の少女が星に祈り、その身を星に捧げてしまったが故の大爆発。それは後の世で『最悪な災厄』『史上最凶の星砕きの夜』と呼ばれ、その犯人である少女は『世界一の大罪人・星砕きの魔女』と呼ばれ、忌み嫌われ、恐れられた。
少女が何故、命懸けでそんな罪を犯したのかなど、誰も知ろうとしなかった。そして何故、少女がそれほどの力を持っていたのかすら考えようともしなかった。ただ、災厄として、大罪人として、少女は孤独を強いられたのだ。
掟破りは確かに罪。だが本当の罪の果実は別にあったというのに。大人は、世界は、気付かない。真実など必要ない。
そんな世界ならこっちから捨ててやる。災厄から5年後、史上最大の祝福を受け誕生した男の子の胸に宿った憎しみの炎は、誰にも知られず燃え続けていた。絶えることなく、揺らぐことなく。ただただ、静かに。
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