主人公になる為に3
自分を偽り始めてから数年後、丁度俺が小学四年生になった頃。
その日俺はいつもと同じ帰り道を一人ぼっちで歩いていた。一人ぼっちと言うことに別に悲しさを感じた事は無いが、ただ何となく心が寒かった。
家に帰ると玄関には知らない靴が二足揃えられており、リビングからは父と恐らくその友人の談笑する声が廊下に響いていた。
俺は愛想笑いを浮かべてリビングへと向かう、そしてその途中で今日何度目になるか分からないため息を溢した。
「あぁ、お帰りタクヤ」
「ただいま父さん!」
そんな普通の会話ですらその時の俺には苦痛だった。
そして一人の少女と目が合った、その少女は珍しい銀色の髪と吸い込まれそうな青色の瞳を持つ少女だった。
均整の取れた顔と、眩い程の肢体。
「……初めましてかな? タクヤ君」
少女の隣に座っていた男が俺と同じ目線までしゃがみ込んで優しい声で語りかける、しかし男の瞳は笑って居なかった。
「は、初めまして! 赤城タクヤですよろしくお願いします」
俺はいつもの様に挨拶をした。
隣で少女が悲しそうな顔で俺を見つめていた。その瞳はどこか助けを求めているようにも見えた。
********
「キ、キミノナマエハ?」
「……?」
それから俺と少女は俺の部屋でお互い向かい合って座り込んでいた。何でも、父と少女の隣にいた男とで話があるから、と、
簡単に言えば追い払われたのだ。
俺は正面に座る無言のままの少女の名前を必死に聞き出していた。
しかし結果は虚しく惨敗。俺の愛想笑いはもはや崩れかけていた。
「あ、あのなぁ! せめて一言ぐらい何か言ってくれよ!」
俺がそう怒鳴りながらそう言うと、少女は始めて反応した、
「……プッ」
と。
「何だよ! 何かおかしいのかよ?」
「……いや、ただ、そっちの方がいいよ、君」
そう言って少女は笑った、俺はその笑顔に言葉を失ってしまった、何しろ、
「お、お前だって笑ってる方が、その……かわぃぃ」
「え? 何て言ったの?」
「う、うるせえ! 何でもねえよ!」
恐らく俺は、この時少女に惚れていた、俗に言う一目惚れ、と言うやつだ。
そのあと俺たちは気がすむまで話し合った、こんなに誰かと話したのは数年ぶりだった。その時の俺は多分自然に笑えていたのだろう。
数時間後、楽しい時間は終わりを告げた。
部屋に少女の隣にいた男がきて少女を呼びに来たからだ。
少女が部屋を出ていく際に、少女は俺にこう言った。
『さ、よ、う、な、ら』
と。
ありふれたこの言葉だがその時の俺にはその言葉が重く感じられた。
そして数日後、少女は死んだ。自殺だったらしい、理由は父親の過剰な暴力によるもので、父親はその罪をあっさり認め、父親はすぐに逮捕された。
後から父に聞かされた話によると、先日訪れた理由は少女をメイドとして雇わないかと言う話のためだと言う。
「何だよ、それ……」
その日俺は始めて学校を休み、自分の部屋で一日中泣きつづけた。
その数日後、いつも通り学校から家に帰ると自宅に死んだ筈の少女がいた。
幽霊とかそう言うものではなく、実際にそこにいた。
「……お前……死んだんじゃ」
喜びとか、驚きとか、あるいわ恐怖を織り交ぜた俺のその言葉に目の前の少女は眉を潜めた。
「……初めまして、相崎リツカです、無くなった姉の変わりに今日からこの屋敷で働かせて貰います、よろしくお願いします。タクヤ様」
それが俺とリツカの初めての顔合わせだった。
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